【19】本当の彼は | 〈 追 憶 の 向 こ う 側 〉

〈 追 憶 の 向 こ う 側 〉

筆者のリアル体験物語。「社内恋愛」を題材にした私小説をメインに、創作小説、詩を綴っています。忘れられない恋、片思い、裏切り、絶望、裏の顔―― 全てが入った、小説ブログです。


岩田さんに関することを、まだ聞いたことがないという私に、
躊躇いながらも、思い切った様子で話し出す。

予期すら出来なかった、想定外の告白。


「俺、 韓国人なんだ」

「・・・・・・は っ?」


耳にした瞬間、目の前がクラリと揺れた。

どうして、こう・・・
私の近くには、一筋縄でいかない男性が集まるのか。


言っている意味が解らない。

解らないのに、何処となくデリケートな話題のような気がして、
瞬時に現れた疑問を、喉の奥で飲み込む。


( カンコクジン・・・?
  名前は、日本人なのに?どうして日本に住んでるの? )


「韓国人といっても、在日二世で・・・
 名前も、日本名と韓国名の、ふたつを持ってる」

「・・・う、うん・・・ そうなんだ・・・」


返事をしながらも、頭の中は大混乱。
頷いておきながら、何を言われているのか、サッパリ解らない。

私の動揺を、見て判らないはずがない。
だって、岩田さんの目が見られないんだから・・・。

それでも、彼は言葉を止めようとはしなかった。


「日本人じゃないけど、いい・・・?」


すぐに答えられない。


( どうしたらいい・・・?
  外国籍だからって、どんな問題があるの? )


日本に “韓流ブーム” が訪れる、ずっとずっと前の出来事。
“嫌韓” という、風潮さえもなかった時代。

私を含め周囲でも、韓国の文化などを知る人は皆無で、
興味を持っている人もいない。

ずっと黙っている私に、岩田さんが諦めるように呟く。


「やっぱり、難しいか」


その言葉が、私の胸にグサリと刺さった。

この気持ち・・・ 前にも感じたことがある。


諦めるとか・・・

難しいとか・・・


( また、逃げるの? )


何処からともなく、その言葉が浮かんだ。


考え過ぎだろうけど、もしかしたら・・・

井沢さんとのことを逃げたから、
結果的に、大好きな人の全てを、受け入れなかったから、
もう一度、新たな試練が与えられた?

そうとは、考えられないだろうか?


二人はどうして、同じ名前を持っているの?
やっぱり、これは私への試練?
今度こそ、逃げずにぶつかって、乗り越えろ・・・という事なの?


考え出したら、岩田さんへの気持ちが置き去りに・・・。

このままでは、いけないのは解っている。

井沢さんが私の前から消えてから、ずっと心が凍ったまま。
どうにか、この心が溶かせるのなら・・・
出来るなら私だって、新しい恋がしたいよ。

あの頃みたいな、
“狂おしいほど焦がれる恋” でなくても良いから、
穏やかな恋がしたい。
もう一度、温かな心が欲しい。

どうなるのか、判らない。
想像さえ出来ないけれど、飛び込んでみようか・・・?


岩田さんに伝えるべき言葉を、口に出す前に、
おかしな箇所がないかを再確認。

“そういえば、似たような事を、あの人にも伝えたことがある”
そう思ったが、それでも伝えなければならない気がした。

決意に似た気持ちが芽生えると同時に、顔を上げる。


「何処の国とか、関係ないですよ。
 岩田さんが日本の人じゃなくても、私は構わないです」

「・・・・・・本当に?」

「はい」

「・・・良かった・・・」


真っ直ぐに頷いた私を見るなり、安堵の表情になる。
心から安心したというような、穏やかな眼差し。

視線を合わせては、照れくさそうに笑い合う。

そんなことが、とても新鮮だった。




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