全くの、予想外。
まさか・・・
バレンタインデーに、義理チョコの即日返しがあるなんて。
それも、 “初めての彼氏” というものを得てしまった。
一晩、 “付き合うとは何なのか” を、意味もなく考えた。
もっと若い頃に、この過程を踏んでいれば、
難しく考える必要などない・・・と、解るはずなのにね。
「おはよう」
出社して、自分の席でぼーっとしていたら、
目の前に岩田さんが現れた。
向い合せの席だから、視界に入って当然なのに、
思わず飛び上がりそうになる。
「わ・・・! お、おはようございます」
「どうしたの?朝から難しい顔をして」
「いえ・・・ ちょっと、考え事をしていたから」
笑顔を作れば、岩田さんも同じように笑い返す。
仕事の準備に取り掛かる、彼を眺め、まだ実感出来ずにいた。
( 昨日の言葉は、本当だったのかな・・・? )
その事だけに、考えを支配されそうな自分に気付き、
机に並べた取引台帳を開いて、仕事に取り掛かった。
.
.
―― 昼休み ――
由里ちゃんの席で、いつものようにお喋りをしていた。
ポカンとした、少々間抜けな顔で、由里ちゃんが私を見ている。
「それ、本当なの?」
昨夜の報告をした後、由里ちゃんは暫し固まっていた。
ようやく口を開いたと思えば、このセリフ。
「うん。なんかね、そういう事になった・・・」
「へえー・・・ 岩田さんと、ねえ・・・」
「けどね、さすがに実感がなくて」
かなり声を落として、コソコソと話をしていた横を、
岩田さんが通り過ぎる。
チラリ・・・
多分、今、岩田さんと目が合った。
彼の視線に、何かを察した由里ちゃんが、私を小突く。
「早く彼のトコ、行ってきなさい」
「え、どうして?」
「どうして!? んもー・・・ いいから、行くの!」
その時、肩くらいの高さがあるキャビネットの向こうから、
岩田さんが顔を覗かせた。
小声でやり取りをしていた私達は、動きをピタリと止める。
「椎名さん、ちょっといい?・・・柏木さん、ごめんね」
「いいえ~。どうぞどうぞ」
私の返事を待たず、由里ちゃんは急かすように、
“早くあっちへ行け!” と追い立てる。
仕方なしに、岩田さんの席へ向かう。
1課には誰もおらず、喫煙室や会議室にも、誰の気配もない。
「ここ、座って」
隣りの竹下さんの椅子を引っ張り出し、自分の方に引き寄せる。
それに座るようにと促され、ひとつ頷く。
腰を下ろし、彼と向かい合ったら、大事なことを思い出した。
いつも周囲に誰かがいたから、ずっと言えなかった。
「昨日は、ありがとうございました」
唐突ではあるが、食事をご馳走になったことと、
家の近くまで、車で送ってくれたことに、改めて礼を言う。
しかし、彼は不思議そうな顔をした。
それを当然だと思っているのか、礼を言われることが珍しいのか。
余程変なことを言ってしまったのかと、心配になるほどの間で、
些細なことで不安になる。
「・・・ああ! うん、それはいいんだよ」
ようやく、笑みが浮かんだ・・・ が、
どうしてだか、岩田さんは難しい表情に変わっていく。
「知っているだろうと思って、言っていないことがあるんだ」
「・・・・・・?」
「俺のこと、誰かから聞いてない?」
「・・・? いいえ、何も」
首を振って答えると、彼は小さく息をついた。
「俺さ、実は ―――――・・」
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