【17】陽のあたる方へ | 〈 追 憶 の 向 こ う 側 〉

〈 追 憶 の 向 こ う 側 〉

筆者のリアル体験物語。「社内恋愛」を題材にした私小説をメインに、創作小説、詩を綴っています。忘れられない恋、片思い、裏切り、絶望、裏の顔―― 全てが入った、小説ブログです。


てっきり・・・
居酒屋とか、レストランとか、そういう場所で食事だと思っていた。

私は、普段の通勤スタイルで、
この場には、明らかにそぐわない服装だと断言出来る。

ジーンズにセーターとか・・・
ごく普通の格好なんだけど、間隔を空けて程よく配置された、
周囲のテーブルのカップルは、素敵なファッションの女性ばかり。

上着はまだ良いけれど、ジーンズなんて、誰も穿いていない。


「すいません・・・ 
 まさか、こういう場所に来るとは、思っていなかったもので・・・」


ドイツ料理のお店だという、テーブルが4つほどの
小ぢんまりとした店内には、蛍光灯などの明るい照明がなく、
やわらかな間接照明と、各テーブルに置かれたキャンドルだけで、
とても雰囲気がある。

少し恥ずかしくて、指摘をされる前に、自分から頭を下げた。

それなのに、岩田さんは、何のことやら・・・という表情をした。


「“すいません” 、って何?」

「いえ、その・・・ 私だけ、普段着なので・・・」

「ああ、そういうことか」


先にテーブルに来ていた、飲み物に口をつける。

誰かの視線を気にしていた生活から、遠く離れてしまった私は、
お洒落とか、女性らしいファッションとは、縁が切れていた。


「気にすることないよ。別に、変じゃないけどな~」

「・・・そう、ですか?それなら良かった」


明るい声で、安心させるような笑顔に、私も少しホッとする。

気休めに言ってくれたとしても、気まずさとか緊張を
解してくれることには違いなく、ようやく笑う事ができた。

.
.

どんな料理が出てきて、途中、どんな会話をしていたのか、
細かな内容は忘れてしまった。

ただ・・・ やっぱり、
最後まで、少しの緊張感を持っていたことは、間違いない。


会社では、口数が多くはない私。

それとは対照的に、岩田さんは自分のことなど、
たくさんの話題で楽しませてくれる。

話すのは苦手だけど、人の話を聞くのは好きだから、
苦痛ではなく、むしろ歓迎だし、助かった。


食事も段落がつき、落ち着いた頃。

そもそも、どうして今日食事に誘われたのか、
その重要な部分に、触れることになる。

私としては、問いに対して、変な返し方をしてしまったから、
岩田さんに誤解をさせてしまったと思っていた。

その上で、こうして付いてきてしまったのだから、
そうであれば、きちんと謝らないといけないし、
今後も一緒に仕事を続けていくのだから、
気まずくならないよう、後々に響かないようにしないと・・・。


「・・――― で、今日の事だけど・・・」


岩田さんに切り出され・・・
変な方向に話が向いてしまう前に、流れを堰き止めようと、
勝手に話を繋げてしまった私は、頭を下げていた。


「ごめんなさい・・・!」


まだ何も話していないのに、一方的に頭を下げられ、
岩田さんも理解が出来ないような表情になる。


「・・・どうしたの?」

「私、岩田さんに聞かれたとき、きちんと答えなくて・・・
 その、違う風に伝わってしまったんじゃないかと、そう思って・・・」

「・・・ああ。 そうか・・・そのことは、まあ・・・」


歯切れも悪く、話を切り出した本人が、言葉を切ってしまう。


( やっぱり、誤解をさせちゃったんだ・・・ )


ああ・・・
笑みなんかで誤魔化さず、言葉で伝えていれば・・・。

きっと、純粋に喜んで、食事に誘ってくれたんだよね。

いや・・・
そもそも、この食事自体を断れば良かった。


後悔の念が、グルグルと回る。

これ以上、どう謝れば気分を直してくれるのか・・・
想像力の足りない頭で、そんな事まで考えた。


「椎名さん、彼氏・・・いるの?」

「・・・・・・は?」


唐突な質問に、目が点で、間抜けな答えを返す。

表情を崩さない岩田さんと視線が合い、我に返った。


「いえいえ!まさか、そんな・・・ いませんよ!」


今まで、一度だって・・・ そんな人、いなかった。

けど、20歳を過ぎてまで、一度だって出来たことのない現実が、
恥ずかしいことだという意識は持っていたから、
それはどうしても隠したかった。

くだらない見栄とか、プライドなんだけど。


「いないの?」

「うん、いないです。 ・・・そんな、何度も聞かないでくださいよ」

「・・・それじゃあ、付き合う?」

「え・・・ 誰、と・・・?」

「俺と椎名さんしか、いないだろ」

「・・――― ! ・・・」


ドキン!と、鼓動が慣れない高鳴りを見せる。


( きっと、冗談。そうとしか考えられないでしょ・・・ )


「俺、結構前から、椎名さんを見ていてさ・・・
 今日、チョコ貰えて嬉しかったんだよ」


こんな言葉にさえ動揺し、胸を動かされそうになる、未熟すぎた私。

岩田さんへの想いは無くても、もしかしたら・・・
“恋” というものは、こういうきっかけから始まるのかも。


( 岩田さんなら、私を変えてくれるかもしれない。
  陽のあたる、明るい方へ連れ出してくれるかもしれない )


迷いつつも、彼の言葉に頷いた。



・・――― でも、


もしも、今・・・
あの日に戻れるのなら、私は、強く首を横に振るだろう。

彼の申し出に、頷いては・・・ いけなかったんだよ。




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