【21】彼の評価 | 〈 追 憶 の 向 こ う 側 〉

〈 追 憶 の 向 こ う 側 〉

筆者のリアル体験物語。「社内恋愛」を題材にした私小説をメインに、創作小説、詩を綴っています。忘れられない恋、片思い、裏切り、絶望、裏の顔―― 全てが入った、小説ブログです。


人の良し悪しは、人種や血液型では測れない。
持って生まれた性格や、関わる人との相性で決まるのだと思う。

この考えは、昔も今も変わらないが、
何故、改めて書き添えたのかというと、これから書いていく物語に
関係していくと思うから。

外国籍の人と関わったのは、彼が初めてではないが、
“交際” という、親密な関係になった事は初めてだった。
まして、初めての彼氏。
・・・故に、苦悩や葛藤が溢れ、悩まされていく日々。

所々、批判とも取れる記述があるかもしれませんが、
リアルな心理描写をしていく過程で、避けられないことです。

どうか、ご理解いただければ・・・と思います。

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彼は携帯電話を持っているが、私は持っていない。

月々の使用料金が数万を超える時代だったから、
一般普及もそれほど進んではいなかった。

だが、彼は民団での活動や、交友関係の広さから、
携帯電話は必需品のよう。
それに、以前勤めていた会社が、通信システム関連ということもあるのか、
個人で持つにはまだ珍しかった、ノートパソコンも持っていた。

私物のパソコンなど、仕事とは関係が無いのに、
所持しているだけでも、仕事が出来る男に見えてしまう。
身びいきとでもいうのか、彼が頼もしく思えた。

・・・だが、私の思いに反して、
彼の社内での評価は、それほど高くはない。

いや。
高くないどころか、低かった。


「椎名ちゃんさ、岩田くんと付き合ってるんだって?」


仕事の件で、高瀬部長の席に行ったときのこと。
用件が済んだと同時に、声を低くした部長が、そう聞いてくる。

高瀬部長は、1課に所属する営業さんの、直属の上司。
竹下さんや多部井さん辺りから、噂となって流れたのだろうが、
それにしては断定的な言い方。

どう答えようかと思ったが、いずれは判ることだろうし・・・。
“黙っていよう” と言った彼の言葉を無視し、頷いた。

私は、高瀬部長が、冷やかしてくるものとばかり思っていた。


「こう言ったら可哀想かもしれないけど、
 岩田くんは、止めたほうが良いんじゃないか?
 椎名ちゃんなら、他に良い人がいると思うよ」


予想外の言葉を耳にして、絶句・・・。

親に止められるのなら解る。
だが、上司に・・・
まさか、他人に反対されるなんて、思わないだろう。


「それは、つまり・・・国籍のこと、ですか?」

「うん、まあそれもあるけど・・・
 ちょっと気難しいタイプだからね。それが心配で。
 自分勝手というか、人の話を聞かないタイプだから。
 歳のわりに、落ち着きもないしね」


直属の上司に、ボロボロに言われる彼。

自分が交際している相手を、貶されて平気なはずがない。
正直、良い気分はしなかった。

確かな自信も、根拠もないが、高瀬部長に
「大丈夫です」
と言い放ち、自分の選択は間違っていないと言い聞かせる。


岩田さんとのことを、高瀬部長だけに不安視されるだけなら、
“余計なお世話” と思えたかもしれない。

しかし、それと同じようなことを、武内課長にまで言われては、
さすがに不安になった。


( 大丈夫だよ、大丈夫。私の選択は、間違っていない・・・ )


何度もそう言い聞かせてみるが、不安は消せずに広がっていく。

.
.

「なんでですか!?どう考えても、こうした方が良いですよ!!」

「何度も言わせるな。それでは無理だと、言っているだろう」


声を張り上げながら、高瀬部長の席に歩み寄る。

自分が納得できなければ、喰らいついてでも・・・という気持ちは解る。
だが、もう少し他に、方法は無いのだろうか?
上司や周囲を納得させるだけの、データや根拠を示すとか、
方法がいくらでもあるような気がする。

“あの人とは違う”
井沢さんが頭に浮かぶ。

“井沢さんなら、もっと冷静で・・・”
高瀬部長の席で熱くなる岩田さんを見ながら、
心では井沢さんと比べていた。


言い知れぬ、不安。

灰色をした霧が、私の心を覆い隠していく。


これ以上進んでも、ぬかるみに足を取られるだけ・・・

誰に言われるより以前に、私は気付いていた。




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