【195-2】永遠の片想い ~ sequel | 〈 追 憶 の 向 こ う 側 〉

〈 追 憶 の 向 こ う 側 〉

筆者のリアル体験物語。「社内恋愛」を題材にした私小説をメインに、創作小説、詩を綴っています。忘れられない恋、片思い、裏切り、絶望、裏の顔―― 全てが入った、小説ブログです。


『逢瀬は、プラットホームで。』 ~ epilogue ~



「きっとね、井沢さんは、私の事を “聞き分けの良い女” だって、

 そう・・・ 昔から、思っていると思うの。

 でもね、それ違くて ――――・・」



声が上ずって、思うように話せない。

これは、私がずっと思ってきた本心だから・・・。



『いいから、落ち着いて。 ちゃんと、聞いてるから』



気持ちを落ち着けさせてくれる、優しい声。

一度、呼吸を整えて、想いを打ち明けた。



「本当の私はね、その・・・

 大切な人とは、たくさん会いたいし、声も聞きたいし、

 お休みの日は、何処かに遊びに行きたいし、

 旅行にだって行きたい。

 クリスマスも、少しはしゃぎたいし、初詣にも行きたい。

 井沢さんが忌み嫌う、クリスマスだよ? 初詣だよ??

 それに、すごくワガママだし、嫉妬だってするし・・・

 ・・・ そんな、女なの」


『・・・ うん。 それは ・・・・・・』


「活動のことを、理解しているのは、本当だよ。

 けどね、井沢さんと・・・ 彼女のように、活動は出来ない。

 本当は、井沢さんだって・・・ もし、そうなったら、

 私にもう一度、教会へ戻って欲しいでしょう?

 でも、無理だって言ったら・・・?

 些細な事でも、きっと、すごくぶつかり合うよ?

 彼女みたく、解り合えないことが、いっぱいあるんだよ?

 ずっと、あなたを想っていたのに、

 “こんなはずじゃなかった・・・” なんて、私、嫌だよ。

 違和感なく、自然に暮らしていける自信が、

 今の私には、ないの ――――・・」



一気に、堰を切ったように、不安な思いが溢れ出る。

彼は、じっと聞いていてくれた。



試す前から、四の五のと、アタマで考えているようでは、

上手くいくはずがない。


私には、もう、

想いだけで突っ走れるような、強さは無くなっていた。

今の生活を、彼の存在や想い出を、

全てを失くすことに怯える、臆病な大人・・・。


今の結婚生活、宗教活動のこと・・・

どれを取っても、井沢さんを選ぶというのは、現実的に無理だ。



私の手を、しっかりと握ってくれていたら、

きっと、何処にでも、彼についていった。

・・・ 今が、20歳の私だったら良かったのに。


そうしたら、

すぐにでも会いに行って、その腕に飛び込んでいたのに。


やっぱり、私たちは、離れる運命だったのかな。


それでもね、お互いに無理をするくらいなら、

離れ離れでも、幸せに暮らせる方が、良いんじゃないかって・・・。



私が守りたかったのは、

夫との生活? 井沢さんの幸せ? 私の幸せ?

・・・井沢さんとの、想い出?


ううん。 どれかひとつなんて、選べない。

それと・・・ 彼の笑顔を、守りたかった ――――・・。



言うのを躊躇っていた事を、

その全てを話してしまうと、

スッキリしたけれど、言い過ぎたかな・・・とも、思う。


黙っていた井沢さんは、

ふうっ・・・ と息を吐いて、ようやく口を開いた。



『・・・ うん。 よく解ったよ。 俺も・・・

 椎名ちゃんの事は、知っていたつもりだったけど、

 言われないと解らないこともあるんだな。

 ・・・ もっと、早ければ ・・・

 そうだよな、あの頃なら ―――――・・』



言葉に出来ない想いが、沈黙の度に渦巻く。

過去を悔やんでも、どうにもならない。


そんなこと、二人には痛いほど解っている。


再び口を開いた井沢さんは、無理に・・・なのか、

さっきまでとは調子を変えて、明るい声を出した。



『椎名ちゃん』


「ん。 なに?」


『本当に、元気にしてるんだよな? 幸せ、なんだよな?』


「うん、モチロン」


『・・・ うん。 それならいい。 解ったよ』



井沢さんは、優しく笑ってくれたのだと思う。

目の前に、ぱあっ・・・と、彼の笑顔が見えたような気がした。


また沈黙が訪れると、結論を出した二人には、

もう・・・ 話すことが無い。


本当に、何もないのではなく、これ以上話しても無意味だから。

後ろ髪を引かれるように、妙な沈黙だけが流れた。



『あ。 あのさ・・・ アドレスを ―――――・・』



井沢さんは、言いかけて、再び黙り込む。

どう反応をしたら良いのか、迷った私は、

小さく頷いたきり、黙ってしまった。



『・・・ ん、と・・・ ゴメン。 なんでもない』



せめて、メールで細く繋がることを、彼は望んだのだろうか。

私だって、どんなカタチでもいいから、繋がっていたい・・・。

そう、引き留めても、先がなければ、辛くなるだけ。


「うん」 ・・・呟くので、精一杯だった。



『・・・ じゃあ ・・・ 椎名ちゃん、元気でな』


「うん。 井沢さんも・・・ 元気でね」


『・・・ それじゃあ・・・ な』


「・・・ ん。 じゃあね」



これで、本当に終わる。

彼の声を、耳に焼き付けようとして・・・



『あっ・・・! 椎名ちゃん!』


「ん、 え? なに?」


『本当に、元気で、幸せでいろよ。

 椎名ちゃんは、 俺の ――――――・・』




・・――――― 静かに、通話ボタンを押す。



私がいる部屋は暗くて、静かで・・・

“世界に一人ぼっち” って、こういう時に使う言葉なのかな。



「・・・ あ。 また、サヨナラって、言えなかった・・・」



独り言で、そう呟いたら、また涙が溢れ出した。


言えなかったんじゃなくて、言わなかった。

彼も、サヨナラを言わなかった。

それだけが、心の救い。


それが、嬉しかった。


いつか、何処かで出逢えたら・・・

あなたは奥さんと子供を連れて、私は夫と二人で・・・

そんな場面で出逢えても、

目を逸らすことなく、そっと目配せだけで話せたらいいな。


お願い。

おじいさんになっても、私を忘れないでいて。


そして、元気で、いつまでも幸せでいてね。



『 椎名ちゃんは、俺の大切な人だから・・・ 』



うん。 私もだよ。

“好き” よりも、もっと深く・・・ 大切な人。


叶わなかった恋だから、叶えられなかった恋だから、

永遠の片想い。


そして、再び 私の恋は眠りにつく。


心の片隅に、あの人への想いを抱きながら ――――・・。




still I love you...





― Fin ―




終章及び、全話完結しました。

全編を通して、長々と書き連ねましたが、

お付き合いくださり、誠にありがとうございました。

感謝!(*´∀人)♪



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