【193】揺れる決意 | 〈 追 憶 の 向 こ う 側 〉

〈 追 憶 の 向 こ う 側 〉

筆者のリアル体験物語。「社内恋愛」を題材にした私小説をメインに、創作小説、詩を綴っています。忘れられない恋、片思い、裏切り、絶望、裏の顔―― 全てが入った、小説ブログです。


『逢瀬は、プラットホームで。』 ~ epilogue ~



彼の声に包まれて、眠りについた翌日。


夜には、井沢さんから電話がくる。


朝、夫を仕事に送り出すと、

何かを紛らわすように、家事に専念した。

隅々まで掃除機をかけて、布団を干して・・・。



そうして、家事にひと段落がついた昼間。

頃合いをみて、淳ちゃんに電話をしていた。


彼女に電話をしたのは、

一応の報告を兼ねて、ということもあるけれど、

今回の、井沢さんと電話をする機会を与えてくれたのは、

淳ちゃんが、彼からの伝言を伝えてくれたからだし・・・。


でも、全てを終えてからではなくて、

これから、井沢さんに返事をするという前段階で、

彼女に電話をしたのには、理由があった。


自分なりには、冷静でいるつもりだけど、

誰かと話をして、気持ちを落ち着かせるため。


昂りそうになる気持ちを抑えるには、これしかない。

昔から、あれこれと聞いてくれていた淳ちゃんだから、

どうしても、最後には頼ってしまった。


彼女と話したところで、 “決意” は変わらない・・・はず。


途中経過というべきか、

井沢さんとの事を、掻い摘んで話していく。


淳ちゃんは、 「えー!」 とか 「うそー!」 とか、

言葉を挟んだり、うんうん、と頷いて聞いてくれた。


『 “昔の恋” って、今さらかっ!?って感じだよね』

呆れと怒りと納得を、入り混ぜたような、

溜息まじりの淳ちゃん。


私のこともそうだけど、

井沢さんも間近で見てきた彼女だから、

無駄な説明なんて要らないし、よく解ってくれるから、落ち着く。


一通りを聞き終えた、淳ちゃんは、

自分なりの予想というか、感じたことを話してくれた。



『私の思い過ごしかもしれないけど、なんか・・・

 井沢さん、すごい事を考えているんじゃないの?

 ・・・ 例えば、だけどね、

 今付き合ってる彼女と別れて、椎名ちゃんと・・・とかさ』


「ええっ!? それは、考え過ぎ・・・」


『ううん。 あの、煮え切らなかった井沢さんが、

 今になってグイグイ来てるってことは、

 そうとしか、考えられないんだけどなぁ。

 突然、火が点いたみたいだよね。

 飛行機に乗ってまで、会いに行こうとするとかさ・・・。

 でも、昔から、そういうトコロあったよね』



そう切り出し、ちょっと笑う。

そして、淳ちゃんは、こう続けた。



『それにね、椎名ちゃんが、

 「いい加減な付き合いは出来ない」 って、

 そういう考えだって、彼は知っているんでしょ?

 それでも会いたいっていうのならさ、

 なおさら、真剣に考えているのかもよ。

 もし、結婚を考えていた相手と別れてまで、

 椎名ちゃんを選んだとしたら・・・ 一大事だよね。

 「旦那と別れてくれ」 くらい、言い出しかねないかも』



・・・ いくらなんでも、飛躍しすぎな感も、受けるけど、、、


『もし、会うのなら、

 それくらい言われる覚悟で、行った方が良いかもよ』


そこまで言われてしまうと・・・。

答えは決めているのに、あれこれと考えてしまう、自分がいる。



『脅かすつもりはないけど、椎名ちゃんは真っ直ぐだから。

 あんなに好きで、今でも忘れられない人に

 強く来られたら・・・

 いくら椎名ちゃんでも、拒めないでしょ?

 だから、いっぱい考えて、納得のいく答えを出すんだよ』



自分なりに答えは出ていて、淳ちゃんにも、そう明言した。


それなのに、私の心がグラついているのを、

彼女は見越していた。

.
.
.

風に靡く、洗濯物。

お陽様の匂いがする布団に凭れて、青空を見上げた。



( 何だかんだ言っても、

 私はもう、普通の主婦なんだよね・・・ )



彼と最後に会った翌日から、

私は、下ばかりを見て歩いてきた。


夫と出会うまで、

ずーっと俯いて、毎日を過ごしてきたように思える。



夫のために、井沢さんのために、

自分のために・・・

最善の答えを出さないと、ね・・・。



( 中途半端だけは、絶対にしたらダメ・・・ )



でも ―――・・


( 井沢さんが、好き・・・。

 やっと、再び出逢えたのに、また離れるの・・・? )



どうしたら、良いんだろう・・・。



約束の時間は迫るのに、

情けないほど、私の意志は脆く崩れそうだった。




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