『逢瀬は、プラットホームで。』 ~ epilogue ~
彼の声に包まれて、眠りについた翌日。
夜には、井沢さんから電話がくる。
朝、夫を仕事に送り出すと、
何かを紛らわすように、家事に専念した。
隅々まで掃除機をかけて、布団を干して・・・。
そうして、家事にひと段落がついた昼間。
頃合いをみて、淳ちゃんに電話をしていた。
彼女に電話をしたのは、
一応の報告を兼ねて、ということもあるけれど、
今回の、井沢さんと電話をする機会を与えてくれたのは、
淳ちゃんが、彼からの伝言を伝えてくれたからだし・・・。
でも、全てを終えてからではなくて、
これから、井沢さんに返事をするという前段階で、
彼女に電話をしたのには、理由があった。
自分なりには、冷静でいるつもりだけど、
誰かと話をして、気持ちを落ち着かせるため。
昂りそうになる気持ちを抑えるには、これしかない。
昔から、あれこれと聞いてくれていた淳ちゃんだから、
どうしても、最後には頼ってしまった。
彼女と話したところで、 “決意” は変わらない・・・はず。
途中経過というべきか、
井沢さんとの事を、掻い摘んで話していく。
淳ちゃんは、 「えー!」 とか 「うそー!」 とか、
言葉を挟んだり、うんうん、と頷いて聞いてくれた。
『 “昔の恋” って、今さらかっ!?って感じだよね』
呆れと怒りと納得を、入り混ぜたような、
溜息まじりの淳ちゃん。
私のこともそうだけど、
井沢さんも間近で見てきた彼女だから、
無駄な説明なんて要らないし、よく解ってくれるから、落ち着く。
一通りを聞き終えた、淳ちゃんは、
自分なりの予想というか、感じたことを話してくれた。
『私の思い過ごしかもしれないけど、なんか・・・
井沢さん、すごい事を考えているんじゃないの?
・・・ 例えば、だけどね、
今付き合ってる彼女と別れて、椎名ちゃんと・・・とかさ』
「ええっ!? それは、考え過ぎ・・・」
『ううん。 あの、煮え切らなかった井沢さんが、
今になってグイグイ来てるってことは、
そうとしか、考えられないんだけどなぁ。
突然、火が点いたみたいだよね。
飛行機に乗ってまで、会いに行こうとするとかさ・・・。
でも、昔から、そういうトコロあったよね』
そう切り出し、ちょっと笑う。
そして、淳ちゃんは、こう続けた。
『それにね、椎名ちゃんが、
「いい加減な付き合いは出来ない」 って、
そういう考えだって、彼は知っているんでしょ?
それでも会いたいっていうのならさ、
なおさら、真剣に考えているのかもよ。
もし、結婚を考えていた相手と別れてまで、
椎名ちゃんを選んだとしたら・・・ 一大事だよね。
「旦那と別れてくれ」 くらい、言い出しかねないかも』
・・・ いくらなんでも、飛躍しすぎな感も、受けるけど、、、
『もし、会うのなら、
それくらい言われる覚悟で、行った方が良いかもよ』
そこまで言われてしまうと・・・。
答えは決めているのに、あれこれと考えてしまう、自分がいる。
『脅かすつもりはないけど、椎名ちゃんは真っ直ぐだから。
あんなに好きで、今でも忘れられない人に
強く来られたら・・・
いくら椎名ちゃんでも、拒めないでしょ?
だから、いっぱい考えて、納得のいく答えを出すんだよ』
自分なりに答えは出ていて、淳ちゃんにも、そう明言した。
それなのに、私の心がグラついているのを、
彼女は見越していた。
.
.
.
風に靡く、洗濯物。
お陽様の匂いがする布団に凭れて、青空を見上げた。
( 何だかんだ言っても、
私はもう、普通の主婦なんだよね・・・ )
彼と最後に会った翌日から、
私は、下ばかりを見て歩いてきた。
夫と出会うまで、
ずーっと俯いて、毎日を過ごしてきたように思える。
夫のために、井沢さんのために、
自分のために・・・
最善の答えを出さないと、ね・・・。
( 中途半端だけは、絶対にしたらダメ・・・ )
でも ―――・・
( 井沢さんが、好き・・・。
やっと、再び出逢えたのに、また離れるの・・・? )
どうしたら、良いんだろう・・・。
約束の時間は迫るのに、
情けないほど、私の意志は脆く崩れそうだった。
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