【177】もう一度・・ | 〈 追 憶 の 向 こ う 側 〉

〈 追 憶 の 向 こ う 側 〉

筆者のリアル体験物語。「社内恋愛」を題材にした私小説をメインに、創作小説、詩を綴っています。忘れられない恋、片思い、裏切り、絶望、裏の顔―― 全てが入った、小説ブログです。


『逢瀬は、プラットホームで。』 ~ epilogue ~



15年も経った後に、

まさか、あの頃と同じ胸の痛みを感じるなんて、

想像さえもしていなかった。


手で口元を抑えて、涙の気配を殺す。


井沢さんには、絶対に悟られてはいけない。

その気持ちだけで、涙を止められる。


だけど、



( もしかしたら、私が知っている人かも・・・ )



そう思うだけで、

ヤキモチよりも重く、ドス黒い “嫉妬” の感情に、

心の深部まで 支配されてしまいそう。


この、やるせない想いは 一体、何・・・?


私は、別の幸せの中にいるのに、

まだ、井沢さんに拘って、勝手に妬いて・・・


どうして、彼の幸せを、素直に祝ってあげないのか?

こんなに身勝手な、自分の心に嫌気がさす。



“おめでとう”


そう言いたかったのに、

無理にでも、笑って言いたいのに、出てこない。



携帯電話を持つ手が震えて、

動悸が激しくなる、自分が情けない・・・。


動揺と嫉妬に、呑みこまれる手前で、

どうにか踏み止まった。



携帯を耳から離し、

ふうっ・・・と、大きく深呼吸をしてみる。



( よし! 今なら、大丈夫。

 気の利いた言葉を、贈らないと・・・ね )



井沢さんは、今でも私に想われているなんて、

想像さえもしていないのだから、

昔、仕事で関わった同僚として、後輩として・・・

きちんと言わないと。



泣きそうな顔では、元気な声が出せない。


だから、無理に笑った。

15年振りに、無理に笑顔を作った。


泣き笑いの顔になって、手の甲で涙を拭う。



「・・・ それじゃあ、今が一番楽しい時期なのかな?

 昔の同僚として、何かお祝い ―――――・・・」


『椎名ちゃん』



私の言葉に、井沢さんが声を被せ、遮る。


さっきまでの声ではなくて、

少し言葉が強い、確かな声だった。



「ん? どうかした?」


『・・・ うん、』



電話の向こうで、

小さく咳払いをしたのが聞こえた。



『・・・ もう一度、会えないか?』



・・・ 何て?

都合の良すぎる、聞き間違い?

まさか、そんなことあるハズがないよ。


きっと、想われたい願望が強すぎて、

都合良く、変な風に聞こえたんだ。



「あ・・・ ちょっと、よく聞こえなくて。 何て言ったの?」



私の聞き返しに、二呼吸ほどの間を置いて、

少しゆっくりめに、呟いた。



『・・・ 会ってくれないかな・・・ 俺と、もう一度・・・』



彼は確かに、そう繰り返した。




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