『逢瀬は、プラットホームで。』 ~ epilogue ~
15年も経った後に、
まさか、あの頃と同じ胸の痛みを感じるなんて、
想像さえもしていなかった。
手で口元を抑えて、涙の気配を殺す。
井沢さんには、絶対に悟られてはいけない。
その気持ちだけで、涙を止められる。
だけど、
( もしかしたら、私が知っている人かも・・・ )
そう思うだけで、
ヤキモチよりも重く、ドス黒い “嫉妬” の感情に、
心の深部まで 支配されてしまいそう。
この、やるせない想いは 一体、何・・・?
私は、別の幸せの中にいるのに、
まだ、井沢さんに拘って、勝手に妬いて・・・
どうして、彼の幸せを、素直に祝ってあげないのか?
こんなに身勝手な、自分の心に嫌気がさす。
“おめでとう”
そう言いたかったのに、
無理にでも、笑って言いたいのに、出てこない。
携帯電話を持つ手が震えて、
動悸が激しくなる、自分が情けない・・・。
動揺と嫉妬に、呑みこまれる手前で、
どうにか踏み止まった。
携帯を耳から離し、
ふうっ・・・と、大きく深呼吸をしてみる。
( よし! 今なら、大丈夫。
気の利いた言葉を、贈らないと・・・ね )
井沢さんは、今でも私に想われているなんて、
想像さえもしていないのだから、
昔、仕事で関わった同僚として、後輩として・・・
きちんと言わないと。
泣きそうな顔では、元気な声が出せない。
だから、無理に笑った。
15年振りに、無理に笑顔を作った。
泣き笑いの顔になって、手の甲で涙を拭う。
「・・・ それじゃあ、今が一番楽しい時期なのかな?
昔の同僚として、何かお祝い ―――――・・・」
『椎名ちゃん』
私の言葉に、井沢さんが声を被せ、遮る。
さっきまでの声ではなくて、
少し言葉が強い、確かな声だった。
「ん? どうかした?」
『・・・ うん、』
電話の向こうで、
小さく咳払いをしたのが聞こえた。
『・・・ もう一度、会えないか?』
・・・ 何て?
都合の良すぎる、聞き間違い?
まさか、そんなことあるハズがないよ。
きっと、想われたい願望が強すぎて、
都合良く、変な風に聞こえたんだ。
「あ・・・ ちょっと、よく聞こえなくて。 何て言ったの?」
私の聞き返しに、二呼吸ほどの間を置いて、
少しゆっくりめに、呟いた。
『・・・ 会ってくれないかな・・・ 俺と、もう一度・・・』
彼は確かに、そう繰り返した。
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