【178】あの頃のように | 〈 追 憶 の 向 こ う 側 〉

〈 追 憶 の 向 こ う 側 〉

筆者のリアル体験物語。「社内恋愛」を題材にした私小説をメインに、創作小説、詩を綴っています。忘れられない恋、片思い、裏切り、絶望、裏の顔―― 全てが入った、小説ブログです。


『逢瀬は、プラットホームで。』 ~ epilogue ~



ゆっくりとした口調で、呟いた。



『・・・ 会ってくれないかな・・・ 俺と、もう一度・・・』



彼は確かに、そう繰り返した。



まだ、僅かに涙が滲んでいた目を擦り、

井沢さんが、何と言ったのかを、頭の中で整理する。


瞬時に出た言葉は、聞き返すので精一杯で・・・



「え・・・ なっ 何で・・・?」


『何で、って ―――・・・』


「・・・ あ! 同窓会とか、そんな感じ?」



そう解釈した私は、つい、そんな事を言ってしまう。


彼は、また小さく溜息をついて、

ボソッと呟いた。



『そんなわけ、ないだろ・・・』


「・・・ でも ・・・」



でも、二人で会いたいって・・・

他には、どんな意味が含まれるのか?


( もしかしたら、また勧誘される・・・ とか? )


そんな考えも、脳裏に過ぎった。


まさか、彼も私と同じように、

15年前の記憶を残しているなんて、到底思えないから。



私が言葉を切って、沈黙している間に

制限時間を迎えてしまう。



『・・・ そろそろ、仕事に戻るよ』


「あっ・・・ うん、ゴメンね。 忙しい時に電話して・・・」



中途半端すぎる会話で、終わろうとしている。


それでも、引き留めるわけにもいかず、

“最後の挨拶” を、頭の中に用意した。



淋しさに、後ろ髪を引かれながら・・・。



それなのに ―――――・・・



私は、心に区切りをつけるつもりでいたのに、

それを引き留めるように・・・



『夜、電話してもいい?』



これは、あの頃と同じ “ノリ” なのだろうか?


でも・・・

結婚を考える、彼女がいるのに?


・・・ ううん。

私は、 “そういう対象” ではなかったことを、

忘れてはいけないね。



「・・・ ゴメンなさい。 夜は、ダメなの・・・」



そんな風に、やんわりと返していた。

勿論、夫の存在を 意識しながら。



『ああ・・・ 残業?』



彼は、私も会社から掛けていると思っているようで、

そんな言葉を口にした。



「違うけど、ちょっと・・・ 忙しくて」



さっきの、結婚の問いかけに続いて、曖昧に濁した私。


井沢さんの返事が・・・ 一瞬、止まった。



『・・―― 何時なら、いい?』


「ん、と・・・ 20時くらいまで、なら・・・」


『解った。 それじゃ、後で・・・』


「・・・ うん」



通話ボタンを押し、終了させてから・・・

何をしたのか、殆ど記憶がない。


ぼんやりと、過去へ想いを馳せていたように思うけれど、

あの頃が戻って来るわけではない。


今でも “椎名ちゃん” と、呼んでくれる人は、

あの頃からの友達しか、いなくなった。


井沢さんに、旧姓で呼ばれるなんて、

素直に嬉しくて、恥ずかしささえ感じる。



勇気を出して、電話をして・・・

それで終わりだと思っていたのに、

数時間後、また、井沢さんと話せる。



「会いたい」

彼が、そう思ってくれただけで、

もう、死んでもいいとさえ思った。



すっかり落ち着いた、

穏やかな生活の中に、落とされた陰・・・。



その行方を決めるのは、誰でもない。


きっと、私自身なんだ。




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