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私の小説レビューG

私の読んだ小説の記録です

                阪急電鉄殺人事件

 

★★☆☆☆

鉄道カメラマンの菊地は、仕事で阪急電鉄を撮るために大阪に来ていた。 そのついでに六甲に住む大学時代の先輩女性の木内と久しぶりに会う約束をしたが、木内は菊地との待ち合わせ場所に来る前に阪急六甲駅のホームから転落して電車に撥ねられ死亡した。 木内の胃の内容物から睡眠薬が検出され、木内の部屋からはPCが消えていた。 

 

事件は、敗戦間近の昭和20年に軍を批判していた木内の祖父が特高に逮捕され死亡したが、孫の木内が祖父の自伝を自費出版しようとして、それを阻止しようとする何者かに殺害されたもので、更に大阪で菊地の助手を務めた女性も、菊地に協力し木内の祖父の事を調べている内に、真相に近づきそうになったために犯人に殺害される。

 

十津川は、マスコミと協力し犯人逮捕間近と報道し犯人を焦らせ、逃亡の為に急に動き出した犯人兄妹らを逮捕する。 犯人兄妹の祖父は、昭和20年に後の総理大臣になる吉田茂の家にスパイとして潜入していた人物で、終戦直後に東条英機から莫大な機密費を貰い、それを元に会社を立ち上げ大きくした。 そして、吉田茂の友人である木内の祖父は、その事に気が付いていた。 

その事を木内の祖父の自伝に書かれると、絶対に秘密にしておきたい会社設立の経緯が公になり株価に影響すると考えた現経営陣の孫の兄妹らが、木内と菊地の助手を殺害したものだった。

 

元々木内は、兄妹らの祖父の会社設立の秘密を暴きたかったのではなく、祖父の自伝を出したかっただけだと思うから、兄妹は木内と話し合って事情を説明してある程度お金を積んで、その部分にだけは、今更もう触れないようにしてもらえば良かっただけなのではと思うのだが。

 

そもそも何で菊地が、木内が殺されたと思われる事件に、そんなに熱心に深入りするのかの動機が弱いし、西村京太郎と云えばトラベルミステリーだが、阪急電鉄と関係しているのが、木内が阪急電鉄の社員で、殺害されたのが阪急六甲駅というだけで、あとは話が大方終戦の年の昭和20年に飛ぶし、菊地の助手の女性が東京で殺されて、それが大阪での木内の事件と結びついていると東京の十津川警部がすぐに分かるはずがなく、まったく話に整合性を欠いている。 

他にも同じ事が何度も何度も書かれていて無駄に重複する文章が多い。

 

昔、西村京太郎の作品を乱読していた時期があったが、今回数十年ぶりに読んでみて、相変わらず人物描写が無機質であっさりし過ぎている。 それが西村作品の特徴で手軽な読み易さに繫がるのだが、登場人物に感情移入できず心に残るような作品にならない。

               南の島のティオ

 

★★★☆☆

昔は日本の領土だったらしい南の島で、父親が経営するホテルを手伝う12歳の少年ティオの日常

や島の人達、ホテルの宿泊客らとの関りを描いた11編の作品からなる連作短編集。

 

11編の内の半分ほどが島の精霊や島を訪れた人が見せる不思議な魔法や、人が落ちて死ぬ事を予言する島の老婆の話や、戦時中に島で戦死した多くの日本兵らが霊となって日本に帰る話もあり、摩訶不思議なファンタジー要素のある児童文学作品と云える。

しかし、主人公のティオが、12歳とは思えない妙に落ち着いた少年で淡々としているから、作品全体も淡々とした可もなく不可もなしといった薄い印象を受ける。

 

そんな中で印象に残ったのが「ホセさんの尋ね人」で、島で出会った若いホセとマリアは、5年ほど島でいっしょに暮らしたが、ホセは故郷のフィリピンへ一時帰国し、またすぐにマリアを迎えに来るつもりだったが、いろいろあってそのままマリアの元へ帰ってくる事はなかった。 

マリアはホセを5年待った後に追いかけてフィリピンへ渡ったが、ホセの住所も知らず会う事ができないまま20年間フィリピンで暮らした。

 

その20年間のフィリピンでの暮らしで、どんな苦労をしたのかは分からないが、マリアは大金を稼いでまた島に戻って来た。 そして、ずっとひたすらホセが来るのを更に島で10年待ち続けたが会える事なく死んでしまう。 その後、ホセが35年ぶりに島へマリアを尋ねてきたが、マリアはもう死んだ後だった。 2人それぞれの40年の歳月とはどのようなものだったのか。

 

マリアを知る島の人物が、誰かを待つというのは心の支えになる。 だからマリアは満ち足りた生涯を終えたのかもしれないと云うが、果たして本当にそうなんだろうか。 悲しみと淋しさでずっと辛い人生だったのではなかったかと私は思ってしまったが・・・。 

どちらにしても悲しい話だった。

               密封 奥右筆秘帳

 

★★★★☆

幕府の施政に係わるすべての書付の制作保存するのが仕事の奥右筆組頭である立花併右衛門は、田沼家の家督相続願いから、かつて幕府内で権力のあった田沼意次の孫である意明の病死を不審に思い、12年前に起こった意明の父である田沼意知刀傷事件に疑念を持つ。 しかし、立花が下城して帰路中に謎の黒服面の男に襲撃され田沼意知の一件に触れるなと脅される。

そこで立花は、隣家旗本の次男で涼天覚清流の剣を遣う柊衛悟に身辺警護を依頼する。

 

柊の警護が10日以上経った日、立花は再び帰路中に謎の集団に襲撃されるが柊の剣で追い払う。

その後、立花と柊は、異様な殺気を放つ鬼神流の居合い抜きの達人である冥府防人と遭遇し、後日に冥府の案内で御前と呼ばれる黒頭巾の男(将軍家斉の実父、一橋治済)と会い、御前からの「儂に従え」という誘いを断り、帰りに冥府と柊の一騎打ちとなり、柊は冥府の剣技に圧倒されるが辛くも立花の愛娘の瑞紀の介入に救われる。 この柊と瑞紀のお互いの恋心も、物語に爽やかな色を添えている。

 

その後、譜代大名として再び幕政の役に就く事を願う米倉長門守の家老が、柊が通う大久保道場に道場破りと称して柊を亡き者にするための刺客を送り込むが柊が打ち倒す。 立花と柊を狙うのが、一橋治済の配下の冥府防人、先の米倉家、老中太田備中守の留守居役の田村兵衛率いる太田家といるが、米倉家と太田家がどう繋がり、更に一橋治済と、どんな関係で繋がっているのかが終盤まで分かりづらい。 謎の訳が分からないと興味が湧く場合もあるが、逆につまらないと感じてしまう場合もある。 本作の場合は私的に後者のように感じた。

 

最後は、立花邸を襲撃した米倉家の手の者達、次に太田家の手の者達を柊が1人で片付ける。 直後に冥府防人が現れ柊と一騎打ちとなるが、家斉が放った御庭番が現れ冥府は退散し、立花は御庭番の案内で家斉の寵臣、松平越中守と会い、今後は松平の指示で時に影の仕事も働く事を約束させられる。 断れば御庭番に始末されていただろう。

 

柊は、かなりの剣の遣い手ではあるが、道場では師匠、師範代に次ぐ三番手で、冥府防人には及ばない今はまだ二流の名人だが、今後シリーズが進んでいく中で剣士として成長していく姿を、柊と瑞紀の恋心の行方と共に描いていくのだろう。  

 

本作は、江戸時代の幕政のあまり知られていない役職の奥右筆にスポットを当てたのは画期的かもしれないし、剣豪小説としては非常に面白いが、江戸時代の幕政の闇を描く小説としては難解な面もある。 そして、時代考証や武士の階級、役職の説明、挙句は団小屋の説明までと、随所にいちいち蘊蓄があるのは鬱陶しいし、折角の物語の腰を折ってしまう帰来があり少し惜しい。

               メガバンク最終決戦

 

★★★★★

都市銀行である帝都銀行と東西銀行が合併した後に、帝都側は意にそぐわなかったが、関西を拠点とし全国展開していた大栄銀行と、中部地方を基盤とする名京銀行も吸収してできた日本一のメガバンクの東西帝都EFG銀行。 その中身は、多くの帝都の役員が占めて実権を握っていた。 東西帝都EFG銀行の頭取は、何とか銀行名を帝都銀行に戻したくて、金融庁長官の五条、財務省の事務次官、政党の幹事長らの罠に嵌り、超長期国債の四十年債を五兆円で購入してしまう。

 

そんなある日、アメリカ経済発の国債大暴落で一夜にして東西帝都EFG銀行は、推定損失4兆2千億円もの負債を抱えてしまう。 資産負債管理を統括し東西銀行出身者の中では最高の地位にある専務の桂は、頭取の勝手な行為を何も知らされておらず憤り茫然自失となるが、自身が責任を被ってこの銀行経営破綻の超難局を回避するための舵を取る事になる。

 

その頃、マスコミ情報で今回の東西帝都EFG銀行の一大事を知らされた多くの預金者が、預金解約のために押し寄せていた。 その騒ぎを総務部部長代理の二瓶(通称ヘイジ)は、本店並びに各支店で新聞紙で作った偽札を沢山の紙袋に詰めて預金者に見せ、銀行にはまだ金があるから大丈夫だと落ち着かせ騒ぎを収める事に成功する。 そんなヘイジの機転に一目置く桂。 

 

その後、桂が五条長官に掛け合い損金処理は行わないとしてもらい取り敢えずひと段落ついた

かに思えた。 一方で、香港で機関投資家になり大成功を収めているヘイジの高校時代の同級生の塚本が、ヘイジに東西帝都EFG銀行を買収するからヘイジにスパイになってくれと頼む。 名京銀行出身で虐げられてきた過去からヘイジの心が揺れる。 そして、塚本の心には、高校時代に失恋した女性に対するいまだに消えない深い情念があった。 そして、その女性はヘイジの昔の恋人であり、現在は桂の恋人の珠季であった。

 

そんな中、アメリカ上院議員が議会で日本の金融庁の東西帝都EFG銀行に対する裁量を批判した事から、五条長官が記者会見で一転して「東西帝国EFG銀行の負債会計処理に対する特別措置を認めない」と発表し、東西帝都EFG銀行は再び経営破綻の危機に陥ってしまう。 

 

ヘイジは、スパイとなって桂の下で働きつつ、塚本と組んで銀行を買収した後に自身は役員になろうと目論み、桂は大栄銀行出身の2人の常務と組み行内で革命を起こそうとしていた。

そして、五条長官は、アメリカのファンド会社の日本担当であり桂の死んだ親友の不倫相手だった佐川瑤子、それから何と内部の裏切り者の東西帝都EFG銀行の副頭取と組んで東西帝都EFG銀行の息の根を止めようとしていた。 副頭取は、東西帝都EFG銀行がアメリカに売られ、その後に

新しくできる銀行の頭取のポストを五条長官に約束されていての裏切りだった。

 

五条長官の妨害で、桂や塚本とヘイジは計画が頓挫し、悪の黒幕である五条長官を打ち倒す為に桂とヘイジは奔走する事になる。 五条長官は、戦前から続く日本の闇の官僚組織と繋がりがあり、日本を裏で操るフィクサーで、東西帝都EFG銀行をアメリカに売り払い甘い汁を吸おうとしていた。 しかし、父親を死に追いやった張本人が五条だと知った瑤子が、愛する人を裏切り、仕事も、地位も捨て五条に復讐する為に桂に協力し、財務省の事務次官も日本を守るための義侠心で桂に協力する。

 

最後は、臨時株主総会で、珠季が桂とヘイジを救うために自身の財力に物を言わせた真の力を発揮しアメリカのファンド会社に止めを刺し大逆転すると同時に、五条長官は、これまでの陰謀、裏工作の数々が明るみに出て失脚する。 更に五条は、闇の組織の工作で自殺を偽装し行方を晦ませる。 

 

この手の銀行を舞台にした小説は、必ず池井戸潤の作品と比較されると思うが、どちらもエンターテイメント性があるけど、大衆娯楽という意味では池井戸潤の作品の方が少し優れているかもしれない。 でも、この作品での話のスケールのデカさや、四転五転六転する展開のインパクトが凄まじく池井戸作品を圧倒し凌駕していて非常に楽しめた。

               邪神の天秤

 

★★★☆☆

主人公の元刑事部捜査一課の鷹野警部補は、後輩同僚が目の前で職質中に殺害された事件が迷宮入りしたのを自身が解決する為に、公安部に移動を願い出て公安五課に配属される。

刑事部と公安部での捜査方法の違いや考え方の違い、五課のメンバーらのスカした態度に戸惑い

ながらも共に猟奇殺人事件を追う事になる。

 

事件は、大物政治家が廃墟ビル内で何者かに殺害され、内臓を取り出された上に心臓が天秤に載せられ、天秤のもう片方には羽根が載せられていた。 それは古代エジプトの埋葬書「死者の書」の内容を模倣したものだった。 公安分析班は、政治家が殺害される直前にいっしょにいた私設秘書の森川の関与を疑いつつ、政治家を犯行現場に誘導するために使われた爆弾から、爆弾を製造したと思われる元過激派の男をマークしていたが、その男と秘書が接触する所を確認する。

 

更に秘書の森川を調べたら、森川に成りすましていた別人である事が分かり、森川の郷里に行き

消息を調べたら、本物の森川は新興宗教絡みで両親に殺害され家の中に遺体が隠されていた。 そして、殺害された大物政治家は、破防法の法改正で、その新興宗教団体を摘発、解体しようとしていて、新興宗教団体に殺害されたものと考えられ、偽森川も新興宗教団体の人間だった。

 

鷹野の相棒の女性捜査官は、その新興宗教に入信している人物を何年も前から買収してスパイとして使っていて、爆弾テロの情報を入手しテロを未然に防いだが、今度は大物政治家の殺害事件と同じ手口で大学教授が殺害され同じ犯人による犯行と思われた。 鷹野は、改めて最初の大物政治家の事件を検証し、犯人がドライブレコーダーに映っていると思われる車を割り出し意外な犯人を見つけ出し逮捕する。

 

しかし、確かに犯人の男は殺害の実行犯であったが、新興宗教団体から依頼を受け犯人を陰で操り「死者の書」を模倣した現場工作をしたのは、鑑定士と呼ばれるまったく謎の人物だった。

今後、公安分析班シリーズとして、公安第五課と鑑定士との闘いを描いていくのだろうが、公安の偏見のある捜査方法はダメで、捜査一課の捜査方法の方が優れていて、公安は無能、刑事は優秀という事を作品全編を通して作者は言いたいようだ。 確かに公安五課のマヌケな捜査体制とかもあったが実際はどうなんだろうか?