私の小説レビューG -8ページ目

私の小説レビューG

私の読んだ小説の記録です

                傍聴者

 

★★★★☆

本作は、木嶋佳苗死刑囚が実際に起こした連続不審死婚活殺人事件を元に作られた作品。

 

牧村花音は、複数の交際相手を練炭自殺に見せかけて殺害したとして逮捕起訴されている。 

その裁判の初公判で知り合った野間佳代、リリー、お良、ミルクの4人の女性は、佳代をリーダーに毒っ子倶楽部と称して、いつも公判の傍聴後に集まり、リリーが持ってくるライターの池尻が書き上げ、リリーが補足した報告書も合わせて議論を交わして楽しんでいた。 

 

話の時間が前後するが、結婚が決まっていた親友が車内で練炭自殺した事に疑問を抱いた池尻は、親友から名前も素性も聞かされていない婚約者の女性を怪しみ、親友と婚約者の女性が知り合ったという合コンでカップルをマッチングするクラブに参加し、そこで栗栖汀子(偽名)と知り合い付き合うようになる。 話は毒っ子倶楽部の集会がある現在と、池尻が汀子や花音と関わる過去とが交互に描かれていく。

 

池尻は、親友の婚約者だった女性を捜すために再び合コンに参加するが、そこで親友が言っていた特徴と一致する女性の牧村花音と接触し、その花音が汀子と同じマンションに住む汀子の顔見知りだと判明する。 その後、池尻は街で花音と遭遇し花音の部屋に招かれるが、コーヒーに何か薬を盛られ気を失い目が覚めたら汀子の部屋にいた。 これはあまりにも怪し過ぎる。

池尻は更に花音に近づくが、すぐに花音の魅力の虜になりズルズルと男女の仲になりながらも親友の死の謎を探ろうとする。 

 

いずれ池尻が花音に殺害されるのであろうとは最初から思っていたが、池尻が、まんまと3回も花音に睡眠薬入りの飲み物を飲まされるのには、ほとんど小学生低学年くらいの知能しかなくて呆れたというより、あまりのバカさ加減に驚愕した。 こんなバカなかなかいないと思う。

 

毒っ子倶楽部のリーダーの佳代は、池尻に息子の死の調査を求めた池尻の親友の母親だというのと、汀子は花音がいっしょに暮らしているというが姿を見せない妹であり、尚且つ毒っ子クラブのミルクの1人3役なのではないかとは早い内から想像がついていたが、お良が花音の母親であり、リリーが佳代と共に事件を調べているノンフィクション作家だとは分からなかった。 

そして、終盤での花音の弟の事件の中での存在と役割も唐突だった。

 

事件の真相は、花音は男を騙して金を奪い睡眠薬で眠らせていただけで、練炭自殺に見せかけて殺害していたのは花音の家族らの犯行だった。 本作は、実際にあった事件を作者が捻って付け足し膨らませたものであるが、事実は小説より奇なりで、どう捻りに捻って巧みに描いても実際の事件に勝る事はないのかもしれない。

               イノセント・デイズ

 

★★★★☆

元恋人男性にストーカーとしてつきまとい、男性が留守の間に妻とお腹の子、1歳の双子の姉妹を部屋に放火して殺害して死刑が確定した死刑囚の田中幸乃。

物語は、幸乃の出生時に取り上げた産婦人科医、母親が結婚して小学3年生までいっしょに暮らした家庭での異父姉、中学時代の友達、大人になってから付き合っていた男の友人男性、拘置所の女性刑務官から見た幸乃が描かれていく。

 

確かに幸乃は、小さい頃から不幸で可哀そうな人生だったと思う。 母親が事故で死んだ直後にショックで泥酔した義父に「必要なのはお前じゃない」と一度だけ思い切り殴られるが、小学3年生の少女にとって、今まで自分の事を愛してくれていると思っていた義父の思いがけない本心を知り決して消える事のない大きな心の傷を負ったのだと思う。 

 

その後、母方の薄情で陰湿な祖母に引き取られ辛く貧しい暮らしの中で、中学時代には友達の身代わりになって強盗傷害で児童自立支援施設に送られ、施設を出てから付き合った男からは金をむしり取られ幾度も暴力を受けた。 それでも自分は、その男に必要とされているんだとすがりつく幸乃。 結局、その男に幸乃は捨てられるが、今度は幸乃が執拗にストーカー行為を繰り返して男と妻を追い詰めてしまう。  

 

そして、あの放火殺人事件が起きてしまうのだが、警察が幸乃を犯人だと断定し、本人の自供もあれば世間はもちろん、婦人科医、異父姉、中学時代の友人、元恋人の友人、それから子供の頃の幼馴染の丘の上探検隊のリーダーで、今は弁護士になっている翔らも幸乃の犯行を信じてしまうだろう。 その中で一人だけ放火殺人事件を、幸乃がまた誰かの身代わりになっていると思っているのが、丘の上探検隊の1人だった慎一だ。 その理由は、中学時代に幸乃が起こしたとされる強盗傷害事件の一部始終を見ていたし、盗みの方の本当の真犯人は慎一自身だったからだ。

 

仲の良かった異父姉は幸乃の死刑確定をただ傍観し、中学時代の友人は、幸乃が死んでくれたら強盗傷害事件の真相を知る者がいなくなるから死刑を歓迎し、元恋人の友人も自分が幸乃を救ってあげられなかった罪悪感から逃れたいだけだし、翔も昔の丘の上探検隊のリーダーとしての責任と弁護士として少しでも幸乃の罪を軽くしたいと思っているだけで、慎一以外に誰も幸乃を信じている者はいなかった。 そんな慎一にしたって幸乃が中学時代に施設送りになった自分自身の罪悪感から逃れたいだけなのかもしれないが。

 

そして、いろいろ動いていた慎一は、放火殺人事件の犯人は別の少年だと知る事になるが、時すでに遅く幸乃の死刑が執行されてしまう。 心底もう死にたいと切望していた幸乃は、心穏やかに旅立っていった。 この死刑執行は幸乃にとって大いなる救いなのか、それともこの物語は最初から救いがないのか。 いやいやこれが救いのあるハッピーエンドなわけないだろう。

とにかく読後感の悪い重っ苦しい内容だった。

               そしてミランダを殺す

 

★★★★☆

飛行機の搭乗待ちのために空港のバーにいたテッドに、謎の美女リリーが近づき声をかける。

テッドは、どうせ行きずりの気安さで、1週間前に妻のミランダが、テッドが新築している自宅の工事業者のブラッドと浮気をしている事を知り半ば冗談で妻を殺したいと話す。 リリーは、そんな妻は殺されて当然と殺人に協力する事を申し出る。 

 

第一章は、テッドの現在とリリーの少女時代からの事が交互に描かれ、これまでにリリーは、

少女時代にリリーにしつこかった中年男と、大学時代に自分を裏切っていた恋人の男の2人を殺害していた。 そして、第一章の最後に、財産を独り占めしようとしたミランダに利用されたブラッドにテッドは射殺されてしまう急展開。 その事件を新聞で読んで驚くリリー。 しかし、リリーは、空港のバーで、行きずりにテッドと出会ったのではなく、大学時代に自分が殺害した恋人が二股をかけていた相手の女性の夫だと知って近づいたのであった。

 

第二章は、リリーとミランダが交互に描かれ、人を殺した事に怯えるブラッドに苛立ちと共に不安を覚えるミランダと、ミランダを殺害するためにブラッドに近づくリリー。  でも、人殺しのプロでもない限り、初めて人を殺したら犯行現場でヘマもするし、犯行後に怯えるのが普通だろう。

 

そして、事件を捜査する刑事から犯行現場付近での目撃者の証言からの犯人のモンタージュを見せられたミランダは、しかたなく家の工事業者のブラッドに似ていると証言する。  そして、ミランダは刑事から犯行当日のテッドの行動を聞かされ、ふと大学時代のリリーの事を思い出すが、この展開にはちょっと無理がある。 そして、すぐに刑事はリリーの元を訪ねるが、てか刑事は、リリーの所へ行く前にブラッドの事を調べる方が先だろう。 その事を刑事は作中で後悔していた。

 

ミランダは、刑事がブラッドの所へ行くから口裏を合わせるためにブラッドの所へ向かうが、そこでブラッドと接触しているリリーを目撃する。 絶対に刑事は、財産の事でミランダの事も疑っているはずで、何で刑事に見張られているかもしれないのにブラッドの所へ行くのか。

リリーにしたって、ミランダとブラッド2人の殺害計画を立てただけで実行はしてないし証拠もないのだから、テッド殺害容疑で、ミランダとブラッドが逮捕されるように警察に協力すればいいだけなのに、どうしても自分がミランダを殺さないと気が済まない腐れ縁なのか。

 

第一章は、わりと退屈だったが、狩る者と狩られる者が逆転に逆転していくスリリングな第二章からは面白かった。 結局、性悪女vsソシオパス女の闘いは、リリーがブラッドを使ってミランダを殺害し、直後にブラッドも始末する。 しかし、最後に少女時代に殺した男とブラッドを埋めた井戸がある実家隣の農場の草地が掘り起こされる事になり、リリーは刑事を刺して留置所にいる中で、遺体を別の場所に移したり、逃亡できない状況で、すべてが露見しようとする破滅の足音が近づいてくる所で終わるが・・・。

               引札屋おもん

 

★★☆☆☆

江戸で最古参の十手持ち、金座裏の宗五郎親分と、その手先衆が事件解決に挑む連作短編集。

佐伯泰英の作品のわりには小難しくなくて読み易いのはいいのだが、何の罪もない若い娘や幼い子供が無残に殺される事件がさらっと起きて、わりとさらっと解決してしまい、いくら短編集と云えあっさりし過ぎている。 もっと被害者や家族の深い悲しみ、下手人の心の闇をちゃんと描いてほしかったし、江戸の市井物でもあるから人情話も盛り込んでほしかった。

 

事件とは別に、宗五郎と手先衆がいつも集う酒問屋 豊島屋の主人の清蔵が、今で云う所の広告ちらし業である引札屋の女主人おもんに思いを寄せ、老いらくの恋にのめり込んでいく様子も各話の中で少しづつ描かれているが、それぞれの事件とは何の関係もないから、こんなサブストーリーは別になくてもいいんじゃないかとも思ったが、最後に清蔵のため、豊島屋のため、そして、おもん自身のために潔く身を引いたおもんの心情が静かに胸を打つ。

 

それから宗五郎の手先の政次、亮吉、馴染の船頭の彦四郎、豊島屋に奉公する娘しほの仲良し

若者4人組が話に活気を生んでいるが、お調子者の亮吉が、いつもしほをからかって大好きアピールをしているけど、しほは3人の男の中で誰が好きなんだろうと思っていたら、巻末に本シリーズ十二巻の紹介で政次としほの祝言と書かれてあって、あぁやっぱり冷静沈着な二枚目と結ばれるんだよなぁと、お調子者だけど、きっと心は繊細なんだろう亮吉が、どれほど深く傷つき、切なく淋しく辛い思いをしたんだろうかと思いを馳せてしまった。

               海に降る

 

★★☆☆☆

深海潜水艇しんかい6500の開発に携わった父を持つ主人公の天谷深雪は、海洋研究開発機構で、しんかい6500のパイロット候補生だった。 しかし、訓練潜航で突然の閉所恐怖症でパニックに陥り、しんかい6500への搭乗を禁止される。 更に、その後の酒の席での大失敗も重なり広報課へ暫く回される事になる。

 

そんな深雪の所で、母と離婚した後に別の女性と結婚してアメリカに行ったまま15年も会っていない父の子で異母弟の陽生の面倒を成り行きで暫く見る事になり、それと時を同じくして再就職で広報課に入った高峰浩二の補佐にされる。 高峰の父は海洋研究者の博士で、18年前にしんかい6500に乗った時に謎の白い糸(新種の深海生物?)を目撃していた。 高峰は亡き父に成り代わって、自身がしんかい6500に乗り白い糸を発見したいと考えていた。

 

高峰は、広報課職員として即戦力になり非常に優秀な面がある一方、厳しい訓練を積んできた深雪でさえ、しんかい6500には簡単に乗れないのに、学者でも技術者でもパイロットでもないズブの素人の自分が、何でしんかい6500に乗れると思ったのか。 1回の潜水には1000千万円近くの費用がかかり(えっ思ったより安い)、その費用は税金で賄われているのに、そんな事も分からないほどの頭の悪い面も併せ持つ訳の分からない男だ。

 

更に高峰は、海洋研究開発機構の船舶一般公開のイベント会場で、勝手に壇上のマイクの前に立ち、自分の夢と夢を追いかける事の大切さを熱く語りまくり機構から停職の処分を受ける。 

地震予知のための海底調査や天然資源の発見は、国民の安全や国益になり国民の生活が豊かになる事にも繫がるが、高峰の夢の新種の深海生物発見は、言わば高峰の遊びの延長みたいなもので、この脳内お花畑みたいな考えに辟易してしまう。 高峰という男、悪い人間ではないが、どうにも私は好きになれなかった。 

 

その後に広報枠の潜水というのがあるのはいいけど、何でそれに転職してきて半年ほどの新人で問題を起こした高峰が抜擢されるのか読んでいてイラっとしてしまった。 オマケに、そのたった1回の6500mの潜水で、発見できたら奇跡とか云いながら、いとも簡単に白い糸を発見できてしまうなんて、中盤までそれなりに面白かったが、深雪と高峰の恋と共に、最後のあまりのつまらないご都合主義な展開に呆れてしまった。 深海調査って、こんなにちょろいものなのか。