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私の小説レビューG

私の読んだ小説の記録です

               引札屋おもん

 

★★☆☆☆

江戸で最古参の十手持ち、金座裏の宗五郎親分と、その手先衆が事件解決に挑む連作短編集。

佐伯泰英の作品のわりには小難しくなくて読み易いのはいいのだが、何の罪もない若い娘や幼い子供が無残に殺される事件がさらっと起きて、わりとさらっと解決してしまい、いくら短編集と云えあっさりし過ぎている。 もっと被害者や家族の深い悲しみ、下手人の心の闇をちゃんと描いてほしかったし、江戸の市井物でもあるから人情話も盛り込んでほしかった。

 

事件とは別に、宗五郎と手先衆がいつも集う酒問屋 豊島屋の主人の清蔵が、今で云う所の広告ちらし業である引札屋の女主人おもんに思いを寄せ、老いらくの恋にのめり込んでいく様子も各話の中で少しづつ描かれているが、それぞれの事件とは何の関係もないから、こんなサブストーリーは別になくてもいいんじゃないかとも思ったが、最後に清蔵のため、豊島屋のため、そして、おもん自身のために潔く身を引いたおもんの心情が静かに胸を打つ。

 

それから宗五郎の手先の政次、亮吉、馴染の船頭の彦四郎、豊島屋に奉公する娘しほの仲良し

若者4人組が話に活気を生んでいるが、お調子者の亮吉が、いつもしほをからかって大好きアピールをしているけど、しほは3人の男の中で誰が好きなんだろうと思っていたら、巻末に本シリーズ十二巻の紹介で政次としほの祝言と書かれてあって、あぁやっぱり冷静沈着な二枚目と結ばれるんだよなぁと、お調子者だけど、きっと心は繊細なんだろう亮吉が、どれほど深く傷つき、切なく淋しく辛い思いをしたんだろうかと思いを馳せてしまった。

               海に降る

 

★★☆☆☆

深海潜水艇しんかい6500の開発に携わった父を持つ主人公の天谷深雪は、海洋研究開発機構で、しんかい6500のパイロット候補生だった。 しかし、訓練潜航で突然の閉所恐怖症でパニックに陥り、しんかい6500への搭乗を禁止される。 更に、その後の酒の席での大失敗も重なり広報課へ暫く回される事になる。

 

そんな深雪の所で、母と離婚した後に別の女性と結婚してアメリカに行ったまま15年も会っていない父の子で異母弟の陽生の面倒を成り行きで暫く見る事になり、それと時を同じくして再就職で広報課に入った高峰浩二の補佐にされる。 高峰の父は海洋研究者の博士で、18年前にしんかい6500に乗った時に謎の白い糸(新種の深海生物?)を目撃していた。 高峰は亡き父に成り代わって、自身がしんかい6500に乗り白い糸を発見したいと考えていた。

 

高峰は、広報課職員として即戦力になり非常に優秀な面がある一方、厳しい訓練を積んできた深雪でさえ、しんかい6500には簡単に乗れないのに、学者でも技術者でもパイロットでもないズブの素人の自分が、何でしんかい6500に乗れると思ったのか。 1回の潜水には1000千万円近くの費用がかかり(えっ思ったより安い)、その費用は税金で賄われているのに、そんな事も分からないほどの頭の悪い面も併せ持つ訳の分からない男だ。

 

更に高峰は、海洋研究開発機構の船舶一般公開のイベント会場で、勝手に壇上のマイクの前に立ち、自分の夢と夢を追いかける事の大切さを熱く語りまくり機構から停職の処分を受ける。 

地震予知のための海底調査や天然資源の発見は、国民の安全や国益になり国民の生活が豊かになる事にも繫がるが、高峰の夢の新種の深海生物発見は、言わば高峰の遊びの延長みたいなもので、この脳内お花畑みたいな考えに辟易してしまう。 高峰という男、悪い人間ではないが、どうにも私は好きになれなかった。 

 

その後に広報枠の潜水というのがあるのはいいけど、何でそれに転職してきて半年ほどの新人で問題を起こした高峰が抜擢されるのか読んでいてイラっとしてしまった。 オマケに、そのたった1回の6500mの潜水で、発見できたら奇跡とか云いながら、いとも簡単に白い糸を発見できてしまうなんて、中盤までそれなりに面白かったが、深雪と高峰の恋と共に、最後のあまりのつまらないご都合主義な展開に呆れてしまった。 深海調査って、こんなにちょろいものなのか。

                阪急電鉄殺人事件

 

★★☆☆☆

鉄道カメラマンの菊地は、仕事で阪急電鉄を撮るために大阪に来ていた。 そのついでに六甲に住む大学時代の先輩女性の木内と久しぶりに会う約束をしたが、木内は菊地との待ち合わせ場所に来る前に阪急六甲駅のホームから転落して電車に撥ねられ死亡した。 木内の胃の内容物から睡眠薬が検出され、木内の部屋からはPCが消えていた。 

 

事件は、敗戦間近の昭和20年に軍を批判していた木内の祖父が特高に逮捕され死亡したが、孫の木内が祖父の自伝を自費出版しようとして、それを阻止しようとする何者かに殺害されたもので、更に大阪で菊地の助手を務めた女性も、菊地に協力し木内の祖父の事を調べている内に、真相に近づきそうになったために犯人に殺害される。

 

十津川は、マスコミと協力し犯人逮捕間近と報道し犯人を焦らせ、逃亡の為に急に動き出した犯人兄妹らを逮捕する。 犯人兄妹の祖父は、昭和20年に後の総理大臣になる吉田茂の家にスパイとして潜入していた人物で、終戦直後に東条英機から莫大な機密費を貰い、それを元に会社を立ち上げ大きくした。 そして、吉田茂の友人である木内の祖父は、その事に気が付いていた。 

その事を木内の祖父の自伝に書かれると、絶対に秘密にしておきたい会社設立の経緯が公になり株価に影響すると考えた現経営陣の孫の兄妹らが、木内と菊地の助手を殺害したものだった。

 

元々木内は、兄妹らの祖父の会社設立の秘密を暴きたかったのではなく、祖父の自伝を出したかっただけだと思うから、兄妹は木内と話し合って事情を説明してある程度お金を積んで、その部分にだけは、今更もう触れないようにしてもらえば良かっただけなのではと思うのだが。

 

そもそも何で菊地が、木内が殺されたと思われる事件に、そんなに熱心に深入りするのかの動機が弱いし、西村京太郎と云えばトラベルミステリーだが、阪急電鉄と関係しているのが、木内が阪急電鉄の社員で、殺害されたのが阪急六甲駅というだけで、あとは話が大方終戦の年の昭和20年に飛ぶし、菊地の助手の女性が東京で殺されて、それが大阪での木内の事件と結びついていると東京の十津川警部がすぐに分かるはずがなく、まったく話に整合性を欠いている。 

他にも同じ事が何度も何度も書かれていて無駄に重複する文章が多い。

 

昔、西村京太郎の作品を乱読していた時期があったが、今回数十年ぶりに読んでみて、相変わらず人物描写が無機質であっさりし過ぎている。 それが西村作品の特徴で手軽な読み易さに繫がるのだが、登場人物に感情移入できず心に残るような作品にならない。

               南の島のティオ

 

★★★☆☆

昔は日本の領土だったらしい南の島で、父親が経営するホテルを手伝う12歳の少年ティオの日常

や島の人達、ホテルの宿泊客らとの関りを描いた11編の作品からなる連作短編集。

 

11編の内の半分ほどが島の精霊や島を訪れた人が見せる不思議な魔法や、人が落ちて死ぬ事を予言する島の老婆の話や、戦時中に島で戦死した多くの日本兵らが霊となって日本に帰る話もあり、摩訶不思議なファンタジー要素のある児童文学作品と云える。

しかし、主人公のティオが、12歳とは思えない妙に落ち着いた少年で淡々としているから、作品全体も淡々とした可もなく不可もなしといった薄い印象を受ける。

 

そんな中で印象に残ったのが「ホセさんの尋ね人」で、島で出会った若いホセとマリアは、5年ほど島でいっしょに暮らしたが、ホセは故郷のフィリピンへ一時帰国し、またすぐにマリアを迎えに来るつもりだったが、いろいろあってそのままマリアの元へ帰ってくる事はなかった。 

マリアはホセを5年待った後に追いかけてフィリピンへ渡ったが、ホセの住所も知らず会う事ができないまま20年間フィリピンで暮らした。

 

その20年間のフィリピンでの暮らしで、どんな苦労をしたのかは分からないが、マリアは大金を稼いでまた島に戻って来た。 そして、ずっとひたすらホセが来るのを更に島で10年待ち続けたが会える事なく死んでしまう。 その後、ホセが35年ぶりに島へマリアを尋ねてきたが、マリアはもう死んだ後だった。 2人それぞれの40年の歳月とはどのようなものだったのか。

 

マリアを知る島の人物が、誰かを待つというのは心の支えになる。 だからマリアは満ち足りた生涯を終えたのかもしれないと云うが、果たして本当にそうなんだろうか。 悲しみと淋しさでずっと辛い人生だったのではなかったかと私は思ってしまったが・・・。 

どちらにしても悲しい話だった。

               密封 奥右筆秘帳

 

★★★

幕府の施政に係わるすべての書付の制作保存するのが仕事の奥右筆組頭である立花併右衛門は、田沼家の家督相続願いから、かつて幕府内で権力のあった田沼意次の孫である意明の病死を不審に思い、12年前に起こった意明の父である田沼意知刀傷事件に疑念を持つ。 しかし、立花が下城して帰路中に謎の黒服面の男に襲撃され田沼意知の一件に触れるなと脅される。

そこで立花は、隣家旗本の次男で涼天覚清流の剣を遣う柊衛悟に身辺警護を依頼する。

 

柊の警護が10日以上経った日、立花は再び帰路中に謎の集団に襲撃されるが柊の剣で追い払う。

その後、立花と柊は、異様な殺気を放つ鬼神流の居合い抜きの達人である冥府防人と遭遇し、後日に冥府の案内で御前と呼ばれる黒頭巾の男(将軍家斉の実父、一橋治済)と会い、御前からの「儂に従え」という誘いを断り、帰りに冥府と柊の一騎打ちとなり、柊は冥府の剣技に圧倒されるが辛くも立花の愛娘の瑞紀の介入に救われる。 この柊と瑞紀のお互いの恋心も、物語に爽やかな色を添えている。

 

その後、譜代大名として再び幕政の役に就く事を願う米倉長門守の家老が、柊が通う大久保道場に道場破りと称して柊を亡き者にするための刺客を送り込むが柊が打ち倒す。 立花と柊を狙うのが、一橋治済の配下の冥府防人、先の米倉家、老中太田備中守の留守居役の田村兵衛率いる太田家といるが、米倉家と太田家がどう繋がり、更に一橋治済と、どんな関係で繋がっているのかが終盤まで分かりづらい。 謎の訳が分からないと興味が湧く場合もあるが、逆につまらないと感じてしまう場合もある。 本作の場合は私的に後者のように感じた。

 

最後は、立花邸を襲撃した米倉家の手の者達、次に太田家の手の者達を柊が1人で片付ける。 直後に冥府防人が現れ柊と一騎打ちとなるが、家斉が放った御庭番が現れ冥府は退散し、立花は御庭番の案内で家斉の寵臣、松平越中守と会い、今後は松平の指示で時に影の仕事も働く事を約束させられる。 断れば御庭番に始末されていただろう。

 

柊は、かなりの剣の遣い手ではあるが、道場では師匠、師範代に次ぐ三番手で、冥府防人には及ばない今はまだ二流の名人だが、今後シリーズが進んでいく中で剣士として成長していく姿を、柊と瑞紀の恋心の行方と共に描いていくのだろう。  

 

本作は、江戸時代の幕政のあまり知られていない役職の奥右筆にスポットを当てたのは画期的かもしれないし、剣豪小説としては非常に面白いが、江戸時代の幕政の闇を描く小説としては難解な面もある。 そして、時代考証や武士の階級、役職の説明、挙句は団小屋の説明までと、随所にいちいち蘊蓄があるのは鬱陶しいし、折角の物語の腰を折ってしまう帰来があり少し惜しい。