「雨の匂いがするわね」
アルファロメオのパッセンジャーシート側の窓を開けて彼女はそう言った。
「雨の匂い?面白い事を言うね!」「そんなの分かるのか?」
問いかけるオレに
「アラッ!これでも結構正確に当たるのよ!」
「10分以内に雨が降り出すから」
そう言い終わらない内にフロントガラスに小さな雨粒が落ちてきた。
丁寧に撥水加工を施したフロントガラスはワイパーを使うほどでもない。
雨粒が面白いように後に飛び去る。
「一緒に暮らそう」と言ったのはウソじゃない。
夏の太陽が水面に当たってキラキラ輝く様を人は愛と呼ぶのか?
だが、もう二度とあのキラキラした季節には戻れない二人。
霧雨に煙る埠頭に車を停め、肩を引き寄せて重ねた唇の隙間から、愛が逃げて行った。
甘く酸っぱい失恋の思い出って誰にでもあると思うけど、遥か昔のそんな出来事を思い出して書いてみた。雨の夜はキュンとする!