失われた職人術「牛甲」、「張り甲」
最近、お客様から各種お問合せが増える中、修理品のお問合せも多くなりました。またその中には昭和初期から中期ごろに作られたお品物が多く、素材も本べっ甲の他、「牛甲」、「張り甲」、「卵甲」、「セルロイド」と様々です。
それらの中には一見、本べっ甲と見分けが付かないものも多くございます。本べっ甲の修理であれば、だいたい元通りに修復が可能なのですが、本べっ甲以外のお品物は基本的に修理は困難です。
べっ甲の中でも「白甲(甲羅の背の部分、薄黄色に透けている)」は非常に高価なものです。
江戸時代から続く髪飾り(簪・櫛・笄)には多くの「白甲」が使われましたが、その高値から明治中期~昭和中期にかけて一般庶民向けに「牛甲」という物を代用として使用する手法が生まれました。
<牛甲かんざし(参考品)>
「牛甲」とは一般的な牛の蹄を使用しており、加工をするとべっ甲の「白甲」にとても良く似た製品が出来上がります。よりべっ甲に似せる為に製品の表面に薄く本物のべっ甲を張る「張り甲」等の技術も生まれました。
現在では牛甲を利用した製品を作成する技術を持った方はほとんど見受けられなくなり、そういったお品物は一部アンティークとして流通しているのみです。
当時はべっ甲の代用品という立場ではありましたが、今では逆に貴重な物と言えるかも知れません。ちなみに今現在、アクセサリーショップなどで売られている「牛製品」は「水牛の角」を利用したもので、「牛甲」とはまったく別のものです。
「セルロイド」製のかんざしは、今で言うプラスチックのかんざしのようなものです。当時一般庶民向けに大量に作られたもので、またその庶民的な価格から多種多様で洒落たデザインが多く作られたものも1つの特色です。こちらも今では一部アンティークとして流通しているのみです。
最後に「卵甲」とは、卵の白身を特殊な加工をした材料を基に白べっ甲に似せ製作されたものです。これも一見素人目にはなかなか本べっ甲との見分けがつき難いものです。ただし、“卵の白身”ということで、もともと脆い上、年月の経過とともに乾燥して無数のひび割れが起こり、現在では殆ど破損していない卵甲のお品物を目にすることは大変少なくなりました。
べっ甲に限らずですが、まったく昔の職人の創造性、技術力には目を見張るものがあります。
-・H22.9.28追記・-
※お手持ちのべっ甲製品で、汚れがひどくなった場合や、万が一破損してしまった場合は、当店にて仕上げ磨き、修理加工を承りますのでお気軽にお問合せ下さい。
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