飯場の子 第47話
「ダークブルーからロイヤルブルーへ」
ブルーカラーと呼ばれる仕事にも、実にいろんな種類がある。
建設業、運送業、工場勤務――。
海外では警察官までブルーカラーに分類する国もあるという。
その中で、僕が生業としている建設業というのは、正直かなりダークなブルーカラーだったと思う。
もちろん建設業の中にも色々ある。同じブルーカラーと言っても、実際はまるで違うのだ。
例えば大工の人たち。
コワモテの人も少なくないが、職人の中でもトップクラスに誇りと尊厳を持っている。
大手メーカーの工場勤務も同じブルーカラーだ。
構内での労働で、空調が効き、環境も整い、福利厚生もある。
一方、僕のいる土木業の現場にあったのは、大工のような高いプライドを持っている職人でも、空調の利いた環境でもなかった。
会社が用意した飯場に入る人間たち。
さらにその下には、各地に点在する「ドヤ街」に集まる日雇い労働者たちなどもいた。
「宿(やど)」をひっくり返して「ドヤ」。まともな宿にさえ住めないという揶揄だ。
その街では、昼間から一升瓶持って酔っぱらっている人、そこら辺で焚き火して、何なのかも分からないもの焼いて食べている人たちなどがたくさんいた。
木賃宿を根城にして、働く気がある日にだけ人夫出しの場所へ行く。気に入った現場に並び、トラックに乗せられて現場へ向かう。
一日働いて、その日に金をもらう。
僕がいた土木は、そんな世界だった。
しかし、時代の流れとともに、甲斐組はそこから大規模な改革を推し進めていった。
昔ながらの飯場は姿を消し、今はアパートや集合住宅を借り上げて社宅としている。
「今日から泊めてください」
そんな飛び込みの日雇いを雇うこともなくなった。
毎年、新卒社員も採用できるようになり、安定した人づくりをしている。
中でも僕が特に力を入れたのが、有給休暇の取得だった。
僕が甲斐組へ入った平成2年頃、公休日は月に第一・第三日曜日だけだった。
朝7時から夕方5時まで働き、日曜日すらまともに休めない。
有給休暇なるものは、僕たちが若い頃は何だかよく分からなかった。
分かる人は分かると思うが、建設現場の職人の間には、今でも休むことを「悪」、と捉える昭和的な感覚が蔓延っている。
だが甲斐組は違う。
公休日120日。さらに有給推奨が10日。
企業文化を変えるため、
有給休暇申請書類の理由欄には、いつも「私用」としか書かれない。
でも、文化を変えるためには、その理由を聞く必要があった。
「旅行でもいい。子どもの運動会でもいい。疲れたから休みたいでもいい。
本当の理由を書いてくれ」
と。
最初は躊躇する社員もいたが、今では「リフレッシュのため」と普通に書く社員も増えた。
こうして、現在の有給取得率は平均8.5日にまで増えた。
中小建設業の中では、かなり高い方だと思う。
どんな内容で休んでも認められる。
そんな企業文化を作ると、人間って変わっていくのだ。
甲斐組では「社員の声に耳を傾けること」を大切にしている。
今は「みんなの声ポスト」という目安箱もある。サポート室も作った。
ハラスメント対策室も設置した。
昔の建設会社じゃ、考えられない話だ。
さらに、現場の改革も進めている。
作業員も監督も、全員トランシーバーを持たせ、現場で大声を出さなくても、全員で連携が取れるようにした。
この効果は、意外と大きい。
昔の現場では、方々から怒号が飛び交っていた。
「おーい!」
「そっち危ねえぞ!」
それが、近隣住民や世間から「土木作業員は怖い」「がさつだ」という印象へとつながるのだ。
このひと手間によって、周辺住民から見ても、通行人から見ても、「静かな現場」になる。
それだけで現場のイメージは変わる。
この土木の環境改革をするうえで、今後、僕がもう1つ進めていきたいと思っているのが、「マイスター制度」だ。
誇り高い大工の人たちが、なぜあれほど尊敬されるのか。
それは“品格”を持っているからだ。
つまり、職人が誇りを持つためには、現場に品格が必要なのだ。
現場監督には役職がある一方、技能職のほとんどには、その役職がない。
あっても職長、世話役、その程度だ。
しかし、職人にだって“格”があるのだ。経験も技術も、人間力も違う。
だから僕は、技能職にも“見える階級”を作りたい。
一目で、この人がどれだけの経験を積んできたか分かるものを作りたい。そう思っている。
これからの建設業は、ただ汗を流すだけじゃ駄目だ。
現場に誇りを持たせ、品格を持たせる。
いずれ業界全体の統一基準のようなものが作れたら、きっと建設業というブルーカラーは、必ず“ロイヤルブルー”へ変わっていく。
そう、「ロイヤルブルー、品格あるブルー」だ。
僕は本気でそう信じている。
本当の今の時代の流れは早い。社会は猛烈なスピードで変わっている。
これについていかなきゃ駄目だ。いや、先回りしなきゃ人は来ない。
昔は「10年ひと昔」と言った。だが今は違う。「2年ひと昔」だ。
AI。ICT。デジタルアシスト。こうしたデジタルの力も借りていく必要がある。
甲斐組はもう5年以上、求人媒体に大きく頼った採用をしていない。
自社で企画広報室を立ち上げ、YouTubeやSNS、採用サイトへ誘導する。
中途採用の応募者は、直接会社へ面接の申し込みをしてくる。
求人広告に何百万円も払うくらいなら、自分たちのオリジナルを作った方がいい。
僕はそう思っている。
人は、新しいことをやるのを怖がる。が、やらないと変わらないし、変わらないと終わるのだ。
僕は建設業をロイヤルブルーに変えたい。
そのために、色んな改革をやってきた。
そして、まだまだ続く。
いつの日か、本当の意味でロイヤルブルーと呼ばれる建設業になるために。
僕は今日も、現場で戦い続けている。








