飯場の子 第6章 22話 「どうしようもない中学生日記 入学編」
「飯場」と共に育ち、遊び、本当に様々な経験をした小学生時代もそろそろ卒業という区切りを迎える時が近づいていた。そんなある日の夜「二人の姉」から突然訓示を受けることになる。
「お前もいよいよ中学だな。どうせお前もツッパリになるんだろうから、大変だぞ~。」と、半分からかった感じで話をしてきた。二人の姉も中学時代は目立っているグループにいたので、ツッパリ組のシキタリはよくわかっているのであった。
「まずは悪い先輩のパシリをやることから始まるんだよ。」といきなりパシリという意味不明な単語が飛んでくる。「とにかく浜岳は上下関係にうるさいから、先輩に目障りにされたら終わりなんだ。先輩に可愛がられるようになるんだよ。」
早い話が、「ツッパリになるなら覚悟していけよ。」という姉なりのエールであった。
時は1980年代。いわゆる「ツッパリ全盛期」である。
この浜岳中学校には、僕の通った「なでしこ小学校」と、隣の「花水小学校」の2校が集結することになっていた。小学校卒業前になると噂話で隣の小学校のツッパリ予備軍の話が聞こえてくる。「花水の〇〇はヤバイ奴らしいぞ。」とかそんな感じだ。ただ、なでしこ小の同級にはそれなりの人材?がいたので強気だった。
なでしこ小学校の予備軍(著者中央)
いじめっ子だが野球は抜群の「セト」。なにより喧嘩が趣味という「タナベ」。九州からの転校生「シゲ」。頭も腕っぷしもいい「ワキ」。運動神経抜群のお調子者「ミネオ」。そして飯場の子「ヨッチ」。この6人は特に目立っていた。
そんな中、いよいよ「なでしこ小学校」の卒業式を迎えた。寂しさよりも、これから始まる中学という世界がどれほどなのか、ギラギラした気概に満ちていた。
浜岳中学の入学式などの記憶はほとんど無い。それほどに気を張っていたのだと思う。
あらたな校舎や教室、黒板に机など、小学校とは完全に違う世界であった。そして、見慣れない花水小の生徒達。担任の先生と授業ごとに教師がかわる。算数から数学に変わっただけで頭のレベルまで上がったと勘違いしてしまうようだった。そして一番の驚きは上級生、特に3年生は男女とも「オトナ」に見えるのだ。
1学年は8クラスあり、僕は1年3組になった。なぜかそのクラスにはその学年のツッパリ君が集められていた。担任は「鈴木先生」。ご想像の通り、学年で一番怖い先生が「見張り役」としてついたわけだ。
嬉しかったのは花水小であるが顔見知りの「オカジ」と「アサワ」の二人が同じクラスにいたのだ。その二人が、他のワル連中である「カツタ」や「カナメ」を紹介してくれた。お互いに牽制はしていたが、「まあよろしく」って感じになった。
放課後、なでしこ仲間が集まり、情報交換になる。やはり僕のクラスが断然目立っていたようだ。が、ここで異色の存在が登場する。シゲから紹介された「エザワタイチ」という奴であった。タイチは、転校生なので知り合いはほとんどいなかったが、すぐに打ち解けた。これまたいっぱしなワルで不良スタイルに通な男だった。
また中学に入学と同時に運命的な男と出会う。同じ剣道部になる「荻野宏治」通称「ヘギン」である。後述にするが、彼こそ僕の人生に深く関わる男なのだ。
荻野コウジ(通称ヘギン)13歳
ある日の午後、1年のワル連中に集合がかかった。指令の通りに渡り廊下へ向かうと、2年生のワルがズラリと集結。ハクをつけるため、不良の学ラン姿でコチラを睨みつけ、タバコをふかしているのだ。僕は姉の忠告が頭をよぎった。そして「いよいよ始まったな。」と腹を据えた。
画像はイメージ
しこたまビビっている1年坊に、2年の番格が「今からお前たちにこの学校のしきたりを教えるからよ」と言い出す。
「1年生全員が目立つ格好は一切禁止。先輩には必ず挨拶する、先輩は『さん付け』だ」これを学年に徹底させろ。というものだった。散々怖がらせる2年生も必死だ。1年の教育がなってないと、3年生から2年がシメられるのだから。
そして集合の最後に、「明日からこのルールが守られない時は全体責任でオマエラ全員をシメるから覚悟しろ。嫌なヤツはいまから抜けろ。」と、なるのだ。
平塚市にはJR東海道線の線路を挟み「南と北」に分けられる時がままある。当時は市内に14の中学校があったのだが、南エリアには浜岳と大洋の2校しかなく、あとはすべて北エリアになる。当然勢力的には、北エリアの方が大きいのである。その勢力図の中で浜岳は独特な上下の強さをつくり出し、北エリアに負けない為の団結力を持ったのかもしれない。
集合のあとは、各々顔見知りの先輩との個別の談話になる。
2年生の先輩にも顔見知りが何人かいる。もちろん小学校が一緒だから当たり前なのだ。その中のオオカワさんとは親しかったので、先輩と話しをしていた。2年の番格はカトウさんという人であるとか、「わからない事は俺に聞けよ。」とか話してくれた。
先輩は「今村・・浜岳のカンバンを汚さないように頑張れよ。」と笑顔で言ってくれた。
部活でもない、勉強でもない、何に頑張るのか。
でも自分ではわかっていた。先輩が伝えた「カンバン」の意味を誰よりもわかっていたと思う。
それは甲斐組というカンバンを背負っている父や母をみていたからだと。
「ああ、、俺はこれから浜岳のカンバンを大事にしていくんだ。」僕は握っていた拳にさらにチカラをいれて握りしめた。