昔よりは電話をかける回数が減った。
それでも
たまに思い出しては
母へ電話し
無機質な女性の声のガイダンスを聞くようになった。
ある日
例の通り
母へ電話をかけた。
しばらくの無音の後
コール音が鳴った。
え?え?
混乱した。
いや混線か?
この番号は母の電話番号だけど
もう使われていないはず。
いつもガイダンスが流れるだけだったのに
どういうこと?
もしかして母が出てくれるの?
いや、そんなはずはない。
でももしそうなら…。
ドキドキする音が受話器から聞こえる位
鼓動が早くなった。
しばらくのコール後
「はい。
もしもし?」
と相手が出た。
繋がった瞬間、
心臓を吐くかと思った。
えー、なんて言おう、
母の番号に電話かけたんだけど、
そうじゃなくて、母ではなくて、
えーと、あなたは誰?
それは電話かけておきながら失礼な。
でもえーと、えーと…
この瞬間0.1秒以下。
すみません。
この番号は**-****-****ですか?
「はい。そうです。」
と電話先の相手は答えた。
変声期を迎えたばかりような
中学生位の男の子の声だった。
電話番号は合っている。
この番号は母の電話番号だ。
ということは?
私は素直に話した。
この電話番号は母の電話番号で
たまに電話をかけていた。
母はもういないから
ずっと繋がらなかったけど
あなたの家になぜか繋がった。
そちらは**市になるの?
そう。
私の地元もそこなの。
中学生?
もしかして**中学?
私そこの卒業生なの。
在校生?
なんか嬉しいね。
電話の相手は
ハイッハイッと
元気よく応えたので運動部かなと思った。
たまに変わりきってない声が裏返り
甲高くなるのが微笑ましかった。
わかった事は
母の電話番号は
現在同じ市の
違う家の番号として使われている事。
電話の相手は
私の地元にある中学の在校生で
最近引っ越してきた事。
他愛のない話をしばらくした。
ドキドキは安堵と寂しさが入り混じった感情に変わった。
そろそろ電話切るね。
話してくれてありがとう。
と言うと
「はい。
僕も話せてよかったです。
…あの…その…
よかったと思います。」
ありがとう。
私は電話を切った。
もう母の電話番号に電話をかける事は
ないだろう。
新しい番号には
新しい家庭がある。
*
今日ね
母の電話番号に電話をかけたの。
たまにかけていたんだけど
いつも誰も出なかったの。
もう実家には誰も住んでないから
当たり前なんだけどね。
そしたら
今日
相手が出たの。
すごく驚いて相手と話したんだけど
電話に出たのは中学生の男の子だったんだけど
母の電話番号は今そこの家で使ってるみたい。
と
帰ってきた娘に話した。
電話をかけていた事を
誰かに話すのは初めてだ。
すると娘は
目に涙を溜めて
「よかったじゃん。」
と言った。