脳内ゴーストノート。
「ねぇ。下の名前で呼んでよ。」
と彼は言った。
私はずっと(苗字+さん)で呼んできたので、
今更感があって照れて、嬉しかった。
ずっと憧れていた。
どこかのバンドのベーシストみたいなカーリーヘアー
猫好きなのに笑うとビーグル犬みたいな顔
目線は彼の方がわずかに低い事
ぶ厚めの手の平と指
それらが私に決して伸ばされる事のない腕。
憧れていた。
彼の結婚式にも行った。
彼の選んだ人は
彼よりもずいぶん背が低く
真っ黒なロングヘアーで
切れ長の目をしていた。
一度しか見た事がないから
彼のお嫁さんを思い出す時は必ず
結婚式の真っ白なウエディングドレス姿だ。
「ねぇ、下の名前で呼んでよ。」
今まで苗字で呼んでたから今更なんかはずかしいです。
「その方がカレシカノジョみたいでいいじゃん。」
照明はすでに薄暗いオレンジ色になっていて
黒っぽい影が必要以上に彫りを深くみせるように落ちていた。
彼は100m走を全力疾走しているかのような呼吸で
私に懸命に突き立て覆い被さる。
私には手に入れることができなかった存在が
自ら懸命に私へと向かうベクトルとなり
一定のリズムで刻み痙攣し湿度を上げる。
私は挿入されている。
まるで私の事を
理解している理解している
と繰り返すように。
理解されている気になる。
今度は私が上になって好きに遊ぶ。
そんな声を上げるなんて知らなかった。
そんな表情になるなんて知らなかった。
私に挿入されている。
しかしもし何なら挿入してさしあげたい位だ。
そしたら私が君の事を理解できるかもしれない。
呼び捨てで名前を呼ぶ。
何回も呼ぶ。
呼びたくて呼べなかった分呼んでやる。
あーこんな可愛い声なんか出るのね。
100m走の呼吸はさらに荒くなり
テンポが上がる。
ただ下腹部から這い上がる快楽に身を委ねて
ひたすらゴールするのを待っている。