銀ラメLD50。 -2ページ目

銀ラメLD50。

脳内 文章化 実験。

『もう6月になってしまった。』

と書いてから

もう1年と3ヶ月が経つようだ。

8月も終わっていくようだ。

今年は時間が早く過ぎたような

それでいて

止まったような感覚がする。

止まってた方が幸せだった。

止まっていても進んでも、もうどちらでもよかった。

あと4ヶ月位したらまた12月が来る。

否応なく。

毎年楽しみにしていた新年も来る。

なのに、

こんな気持ちだなんて。

*

「おまえ。

今日時間あるか?

話がある。」

仕事中に不意に彼から話かけられた。

話ってなんでしょうか?

経営の話かしら?

それとも?

もちろん、彼の為ならどれだけでも時間はあるし、

どんな事でも喜んでですわ。

はい。あります。

どちらに何時ですか?

「定時後すぐにいつもの喫茶店にくるように。

すぐだからな。」

そう彼は言って、

すぐにPCの画面に視線を戻した。

はい。かしこまりました。

お誘いだなんて久しぶりだわ。

今日の私の格好は

彼の隣に立っても変ではないかしら?

アクセサリーはいつも通りね。

首には頂いたスワロフスキーのネックレスがあるし、

美容院も最近行ったばかりだし、

お昼には念入りに歯磨きをしたし、

下着は上下揃ってるかしら?

あら、私ったら何を期待してるのかしら。

早く定時にならないかしら。

心なしかキーボードを叩くリズムも軽くなる気がする。

めずらしく社内に残っている営業部のあの男の子は

じっとりとした目線で私を見ていた。

営業のくせに社内にいるなんてね。

ふふっと余裕の笑みを浮かべて

その視線をなかった事にした。






彼の事はよく知っている。

彼の家族の事もよく知っている。

お正月には

すこし綺麗目の服装で

彼の御実家へ

ご挨拶へ行く事が毎年の習慣。

そして毎年お正月に

ご家族と私を含めお鍋をするのも習慣。

上等なお肉だったり

脚の長い蟹だったり

その年によって違うのだけど

新年を祝う気持ちと

家族の暖かさで

年の始めは

とても幸せ気持ちになる。

彼はあまり飲めないのにもらかかわらず

昼間から日本酒を飲んで

顔を赤くしてニコニコしている。

「なぁ、おまえもちょっと飲め。」

と切子硝子のお猪口に

冷たく冷やされたどこだかの原酒を注ぐ。

私は

飲みすぎには気を付けてくださいね。

なんて言いながら

受け取り一気に飲み干す。

冷たい液体がお腹の中を熱くする。

彼のお母様が

「ムリなさらないでね。」

と品良く笑い

彼は私に

「おまえは大丈夫だもんな。」

と笑い

お母様が

「この子ったら、お前、だなんて。

失礼しちゃうわよね?」

なんて笑いかけてくる。

私は少し困ったようなふりの笑顔を見せるのも

毎年恒例となっている。

それから近所の八百屋の話など他愛のない話から

経済・経営・世界情勢まで発展する。

話題の最後らへんに決まって彼のお母様は

「それで、そろそろ結婚は?」

と彼に聞く。

決まって彼は

「今はまだいいって言ってるじゃないか。」

と言ってむくれる。

会社では見たことのない表情になる。

親の前ではいつまでも子供であり

かわいいなと思う。

そして私はこの辺で失礼させていただき

親子水入らずの時を楽しんでもらうことにしている。

家に帰る途中

今年も幸せな気持ちからスタートすることができる。

だから季節が秋になって肌寒なり

年末が近づくと

嬉しくなる。

正確には

なっていた。

もう6月になってしまった。






会社が軌道にのること。

それは圧倒的に仕事量が増えること。

そのため人が増えること。

徐々に業績を上げていった会社は

例にも漏れず、人員が増加された。

新たに入社されたのは

私よりも年下の営業部の男の子だ。

収益が上がってるうちに

更なる収益拡大を狙うための人員補填とは

さすが彼が考えそうな事だ。

「めんどうはおまえがみてやってくれ。」

と彼は言った。

なんてめんどうな。

でもここは私の腕の見せ所かしら?

彼から信頼されていることだし?

ちょこまかと跡を付いてくる犬のような新人に教えながら

私は別の頭で彼の事思った。

「**さーん、

この書類どうしたらいいっすか?」

「**さーん、

パソコンフリーズしちゃったんすけど、

どうしたらいいっすか?」

「**さーん、

今日一件アポとれったす!」

鬱陶しい。

いちいち名前を呼ばないでよ。

私はそんなにあなたの事、

親しみ持ってるわけではないのよ。

でも、彼が見てるわ。

顔に出さないように、

笑顔。笑顔。

部下の女性が私をチラッとみて

笑顔のような目配せをしてきた。

きっとこの子犬のような新人の態度に対してか。

それとも私の笑顔に対してか。

どちらでもいいけど

最近、彼と会社で話す時間が減ったなぁ

なんて、

パソコンから目を離さない彼を

盗み見て思った。




彼は私に毎年プレゼントをくださる。

仕事中ふいに、

「なぁ、今年は何が欲しい?」

と聞いてくる。

欲しいものなんてないから

いつも

んー…

と答えに困ってしまう。

彼は

「考えておくように。」

と言って、

必ず私の回答を待たずに、

彼が選んだものをくださる。

最初にもらったものは

スワロフスキーのネックレスだった。

「今はこんなものしかあげれなくてごめん。

会社が軌道に乗ったら

もっといいものをあげるから。」

と恥ずかしそうに伏せ目がちに言った彼を

昨日の事の様に覚えている。

ダイアモンドではないガラス玉。

しかし輝ききらめいていた。

それからもらったものは

ジルコニアのピアス。

控え目の真珠の一粒ネックレス。

金色のブレスレット。

本革の茶色のカバン。

…

それでも

私の首には

最初にもらったスワロフスキーが

キラキラと輝いている。





徹夜で仕事をしたこともあった。

働いている以上

ムリをしないと

どうにもならない時はある。

特に責任が自分にある場合。

自分というのは会社のこと

つまり彼のこと。

彼と二人でオフィスに残り

一晩中働いた。

彼の事を…

なんて考える余裕なんてなかった。

目の前の仕事をこなして、こなして、

だから夜が白々と明けていくにつれて

やっと翌日になったことに気が付いた。

彼と私はその間

一言も話さなかった。

徹夜で終わらせた仕事は

一種の麻薬に似た快感を獲られた。

専ら麻薬なんて見たことも触ったこともないのだけど。

応接のソファでぐったりしていたら

彼が缶コーヒーを買って来てくれた。

当時私はコーヒーが苦手だった。

せっかく彼が買ってくれたから

形だけでもと

飲んだ。

「おまえがいたから助かった。ありがとう。」

と彼は言い

軽くハグをして

ポンポンと

私の背中を軽く正確に2回叩いた。

そして何事もなかったかのように

彼も缶コーヒーを飲み始めた。

缶コーヒーの痺れる甘さと

彼の体温に

徹夜明けの頭は付いてこれず

黙って

気怠い甘さの缶コーヒーを口に含んだ。

訂正。

さっき徹夜明けの仕事は

麻薬に似た快感

と言ったけど

こっちの方が

より強い快感で

より得難いものだ。