先日発表された東工大の女子枠。
案の上、「差別ではないか」という声が上がっています。
古くて新しい議論で、「女子大はありなのか?」「国立大学医学部の地域枠はありなのか?」など、今に始まったことではありませんし、10年ほど前に九州大学で女子枠入試を発表したものの反対意見の多さに中止したこともありました。
日本だけの話でもなく、米国ハーバード大学には人種差別で不利益を被っていた黒人を優遇する「黒人枠」があり、賛否両論、裁判にまでなっています。
今回の東工大入試の女子枠導入は、2つの問題に分けて議論すべき、というのが私の考えです。
すなわち
1.日本政府が理系女子優遇施策を閣議決定したことは正しかったのか?
2.東工大は、日本政府、あるいは、文科省の要請に対し、今回の女子枠導入で応えたことは正しかったのか?
という2つの論点です。
ネットの意見の殆どが、岸田内閣が理系女子優遇施策(入試女子枠設定は明文化されています)を閣議決定し、推進していることを知らずに発信されているように感じています。
現在、国立大学で女子枠を公表しているのは名古屋大学と東工大くらいですが、おそらく他大学でも検討中のところもあり、これから公表する大学も出てくるはずです。
1.の女子優遇政策については、理系女学生に限らず、企業の女性役員や幹部登用、大学の女性教授登用まで日本全体で女性活躍社会に向けて一体的に取り組んでいこうという流れですので、これを差別と考えるのか、女性活躍社会への起爆剤と考えるのか、賛否両論の大テーマなんだろうと思っています。
トップ企業の理系技術系女性幹部や理系大学教授を増やすには、優秀な理系女子学生の入社人数や研究者になる者を増やす必要があり、そのためには理系女子学生そのものを増やす必要があるといった流れですね。これを期限と数値目標を決めて半ば強制的に推進しているわけです。
日本全体で企業から大学まで女性に下駄を履かせるアファーマティブアクションが国を挙げて行われていることの是非、という壮大なテーマだろうと思っています。
で、今回の東工大の女性枠設定の判断。
私は、この政府方針に対して、満額回答をしたのが今回の東工大の女性枠設定だと捉えています。
東工大として、最も重要な短中期的な課題は、間違いなく10兆円ファンドの支援を受けられる国際卓越大学に認定されることです。
もらえる金額がハンパないもので選考に漏れると、選考された大学との研究教育環境に圧倒的な差がつくため、日本のトップ理系総合大学として選考漏れはあってはならないことだろうと思います。
キレイ事ではなく死活問題です。
益学長をはじめとする東工大マネジメント陣は間違いなくそこを強く意識し、スピード感をもって強力にさまざまな施策を矢継ぎ早に公表してきています。
・東京医科歯科大学との統合
・8部局同時・女性限定教員公募(すべて有期ではない教授、准教授ポスト)
・300億円ファンド(つばめ債)の発行
そして、今回の女性枠。
他の指定国立大学がどう動くかは分かりませんが、批判覚悟で先陣を切った東工大は、これで国際卓越大学選定に大きくリードしたと思います。
女子優遇施策に対する私の個人的な思いは置いておいて、東工大の今回の判断はマネジメントとして当然の判断だろうと思っています。
また、今回の決定について学長からもしっかりとした説明文が出ています。
とても分かり易いのでご一読いただければと思います。
最初の論点にも大きく絡んでいて、結構考えさせられます。
強いて言えば、143人は東工大らしく素数にしたんだろうと思っていましたが、11×13だと気づき、139人か149人にすれば良かったのにと思ったりしました