材料費は上がる、電気代も上がる、人件費も上がる。それなのに、取引先への納品価格は何年も変わっていない。毎月の数字を見るたびに、利益が少しずつ削られていくのがわかりました。

「そろそろ値上げをお願いしないと、会社がもたない」。頭ではわかっていたのに、私は半年以上、言い出すことができませんでした。

値上げをお願いしたら、取引を切られるかもしれない。「他の会社に頼むよ」と言われるかもしれない。長い付き合いの取引先に、嫌な思いをさせたくない。そんな不安で、電話をかける手が止まってしまっていたのです。

先に結論を言います。値上げのお願いは、「お願いの仕方」しだいで、取引先との関係をむしろ深めるきっかけにもなる。今日は、私が半年悩んだ末に値上げを伝えたときのことを書いてみます。

値上げを言い出せなかった理由

今振り返ると、私が値上げを言い出せなかった理由は、主に3つありました。

  • 取引を切られるのが怖かった
  • 「うちの努力が足りないのでは」と自分を責めていた
  • 値上げの理由を、うまく説明できる自信がなかった

特に2つ目は大きかったと思います。値上げをお願いすることは、自分の会社の努力不足を認めることのように感じていたのです。でも実際には、原材料やエネルギーの価格の上昇は、自分の努力だけではどうにもならないことでした。

値上げを伝える前に準備したこと

意を決して値上げをお願いすると決めてから、次のような準備をしました。

  • 原価の変化を数字で整理する(何が、いつから、どれくらい上がったか)
  • これまで自社で吸収してきたコストや工夫を書き出す
  • 値上げの幅と、開始時期の案を考える
  • 取引先ごとに、伝えるタイミングと方法を決める
  • もし断られたときの代わりの提案も用意しておく

一番時間をかけたのは、原価の変化を数字で整理することでした。「なんとなく厳しい」ではなく、「この材料はこの期間でこれだけ上がった」と具体的に示せるようにしたのです。数字があると、自分の中でも迷いがなくなりました。

実際に値上げを伝えたときの流れ

最初に伝えたのは、一番長い付き合いの取引先でした。電話で済ませず、直接会って話したいとお願いしました。

  • まず、これまでの長いお付き合いへの感謝を伝える
  • 原価の上昇について、資料を見せながら説明する
  • これまで自社で吸収してきたことも正直に話す
  • 値上げの幅と開始時期の案を提示する
  • 「ご意見があれば、ぜひ聞かせてください」と伝える

話し終えたとき、担当の方はしばらく資料を見つめてから、こう言いました。

「正直に話してくれてありがとうございます。うちも同じように仕入れ値が上がっていて、苦しいのはよくわかります」

もちろん、すぐに全額が受け入れられたわけではありません。値上げの幅や開始時期については、何度か相談を重ねました。でも、話し合いの土台に「お互いの事情を理解しよう」という空気があったことが、何よりありがたかったです。

値上げを伝えて学んだこと

1つ目は、早めに伝えるほうが相手にも親切だということ。取引先にも予算や計画があります。ぎりぎりになってから値上げを伝えると、相手を困らせてしまいます。数か月前から相談することで、相手も準備ができます。

2つ目は、数字と誠意の両方が必要だということ。数字だけでは冷たく聞こえ、気持ちだけでは説得力がありません。具体的な数字を示しながら、これまでの感謝と、これからも良い仕事を続けたいという思いを伝えることが大切だと感じました。

3つ目は、値上げは「関係を見直す機会」でもあるということ。値上げの話をきっかけに、取引先の困りごとや要望を改めて聞くことができました。納品の頻度を見直したり、仕様を少し変えたりして、お互いにとってよりよい形を見つけられたこともあります。

▶ あわせて読みたい:価格交渉で心が折れかけた話値上げを受け入れてもらえなかったときは

すべての取引先が値上げを受け入れてくれたわけではありません。中には、「その価格なら他社に頼む」と言われたところもありました。

そのときは、正直につらかったです。でも、冷静に考えてみると、利益の出ない取引を続けることは、会社にとっても社員にとってもよくないことでした。無理な価格で仕事を続けていれば、品質が落ち、社員に負担がかかり、結果的に他の取引先にも迷惑をかけてしまいます。

取引が終わったことで空いた時間と力を、自社の強みを評価してくれる取引先に向けることができました。今振り返ると、それも必要な判断だったと思っています。

値上げの伝え方で気をつけたいこと

実際にいくつもの取引先と話してみて、気をつけたほうがいいと感じたことがあります。

  • メールや書面だけで済ませない:大切な取引先ほど、まずは顔を合わせて話すことを大切にしました。書面はそのあとで
  • 「業界全体がそうだから」だけで押し切らない:自社の具体的な事情を伝えるほうが、相手も納得しやすいと感じました
  • 相手の事情も聞く:取引先も同じようにコストの上昇に苦しんでいることがあります。一方的にお願いするのではなく、お互いの状況を話し合う姿勢が大切です
  • 社内にも共有する:値上げの内容と理由を社員にも伝えておくと、取引先から問い合わせがあったときにも同じ説明ができます

値上げのあとに大切にしていること

値上げを受け入れてもらったあとは、「値上げしてよかった」と思ってもらえる仕事をすることが、何より大切だと思っています。

納期を守る、品質を落とさない、困ったときにすぐ対応する。値上げをお願いした分、以前にも増して丁寧な仕事を心がけるようになりました。値上げは、お願いして終わりではなく、その後の仕事ぶりで信頼を積み重ねていくことで、はじめて本当に受け入れてもらえるのだと感じています。

値上げは「会社を続けるための約束」

値上げのお願いは、今でも気が重い仕事です。でも、今はこう考えるようにしています。値上げは、「これからも良い仕事を続けるための約束」なのだと。

コストが上がっているのに価格を据え置けば、どこかで無理が生じます。品質を落とすか、社員の待遇を削るか、会社の体力を削るか。どれを選んでも、長い目で見れば取引先にも迷惑をかけることになります。

きちんと理由を説明し、適正な価格をお願いすることは、取引先に対して誠実であることだと、今は思っています。そして、その誠実さを理解してくれる取引先とこそ、長く良い関係を続けていけるのだと感じています。

価格や交渉の考え方は、営業やマーケティングの本からもヒントが得られます。とはいえ、何冊も読むのは大変です。そんなときは、ビジネス書の要点を1冊10分ほどで読める本の要約サービス「flier(フライヤー)」を使うのもひとつの方法です。

本の要約サイトflier(フライヤー)ゴールドプラン

 

まとめ

  • 値上げを言い出せないのは、取引を失う不安と自分を責める気持ちから
  • 原価の変化を数字で整理し、伝える順番と方法を準備する
  • 感謝を伝え、数字と誠意の両方で説明する
  • 早めに相談することが、相手への思いやりになる
  • 値上げは、良い仕事を続けるための「約束」

小さな会社にとって、適正な価格で仕事を続けることは、社員の生活と、取引先への責任の両方を守ることでもあります。怖さを乗り越えた先に、より健全な関係が待っていることもあるのです。

もし今、値上げのお願いを先延ばしにしている社長さんがいたら、まずは原価の変化を1枚の紙に書き出すところから始めてみてください。数字が見えると、伝える言葉も自然と見えてきます。

半年悩んだ私が言えるのは、「もっと早く話せばよかった」ということです。悩んでいた半年間の不安のほうが、実際の話し合いよりずっと重かったのです。

皆さんは、値上げのお願いをどのように伝えていますか。よかったらコメントで教えてください。

 

こちらの記事もおすすめ