正直に告白します。数年前まで、私は会社の通帳を開くのが怖くてたまりませんでした。

残高が減っているのを見るのが嫌で、つい記帳を後回しにする。試算表が届いても、ざっと眺めて引き出しにしまう。経営者としてはかなり危ない状態だったと思います。

そんな私が今、毎月落ち着いてお金と向き合えているのは、特別な知識を身につけたからではありません。やったのは、誰でも今日から始められる「3つの習慣」を続けたことだけです。

今日は、零細企業の社長として実際に続けているお金の習慣を、失敗談も交えてお話しします。数字が苦手な経営者の方にこそ、読んでいただけたら嬉しいです。

数字から目をそらしていた頃の話

コロナ禍で売上が落ち込んだとき、私の頭の中は「なんとかなるだろう」と「もうダメかもしれない」の間を、毎日行ったり来たりしていました。

今思えば、どちらも根拠のない感情でした。なぜなら、会社にあといくらお金があって、毎月いくら出ていくのかを、正確に把握していなかったからです。

ある月、支払いの直前になって口座の残高が足りないことに気づき、慌てて個人のお金を入れたことがあります。冷や汗をかきながら銀行のATMに並んだあの日のことは、今でもはっきり覚えています。

「このままではいけない」。そう思ってから始めたのが、これから紹介する3つの習慣です。

習慣1:手元資金が「あと何か月もつか」を紙に書く

最初の習慣は、とてもシンプルです。

毎月の初めに、会社の手元資金を、毎月必ず出ていく固定費で割る。出てきた数字を紙に大きく書いて、机の前に貼る。これだけです。

たとえば手元資金が600万円、毎月の固定費が150万円なら、600÷150で「あと4か月」。売上がゼロになっても、4か月は会社が持ちこたえられるという意味です。

この数字を書き出して、私は驚きました。漠然と「やばい」と思っていたのに、具体的な月数に置き換えると、不思議と気持ちが落ち着いたのです。

理由は、不安の正体が「わからないこと」だったからだと思います。「あと4か月ある」とわかれば、「その4か月で何をするか」を考えられるようになります。

逆に、この数字が3か月を切ったら、融資の相談や支出の大きな見直しを始める。そんな自分なりの「黄色信号」のラインも決めておくと、慌てずに次の一手を打てます。

習慣2:固定費を「毎月1つだけ」見直す

2つ目の習慣は、固定費の見直しです。ポイントは、一気にやらないこと。

以前の私は、危機になるたびに「経費を全部見直すぞ」と意気込んでは、途中で疲れてやめていました。項目が多すぎて、どこから手をつけていいかわからなくなるのです。

そこで今は、「毎月1つだけ」と決めています。今月は通信費、来月は保険、その次はリース契約。1つに絞れば、1時間もあれば十分に比較や問い合わせができます。

見直すときは、次の3つを自分に問いかけています。

  • この支払いがなくなったら、本当に困るか
  • 同じものを、もっと安く手に入れる方法はないか
  • 契約した当時と、今の会社の状況は同じか

特に3つ目が大事です。何年も前に結んだ契約は、会社の規模や働き方が変わったのに、そのまま払い続けていることがよくあります。私の会社でも、ほとんど使っていないサービスの契約が2つ見つかりました。

1つひとつの金額は小さくても、毎月1つずつ見直していけば、1年で12項目。気づけば会社の体質がずいぶん軽くなっています。

習慣3:月に1回、数字を「誰かに話す」

3つ目の習慣は、少し意外に思われるかもしれません。月に1回、会社の数字を誰かに話すことです。

相手は顧問の税理士さんでも、信頼できる経営者仲間でもかまいません。私は税理士さんとの月1回の面談を、必ず「今月の数字を自分の言葉で説明する時間」にしています。

自分で説明しようとすると、「なぜ今月は経費が増えたのか」「この売上は来月も続くのか」と、数字の裏側を考えざるを得ません。人に話すことで、数字がただの数字ではなく、会社の動きとして見えてくるのです。

もうひとつの効果は、困ったときに相談しやすくなることです。普段から数字を共有していると、いざというときに「実は来月が厳しくて」と切り出すハードルがぐっと下がります。

資金繰りが苦しいとき、公的な融資や支援制度があることを教えてくれたのも税理士さんでした。ひとりで抱え込んでいたら、その選択肢にすら気づかなかったと思います。

3つの習慣を続けるためのコツ

習慣というのは、始めるより続ける方がずっと難しいものです。私が続けるために工夫しているのは、次の2点です。

1つ目は、やる日を固定すること。私は「毎月第1月曜日の朝」を、お金と向き合う時間と決めています。カレンダーに繰り返しの予定として入れてしまえば、忘れることがありません。

2つ目は、完璧を目指さないこと。1円単位で正確に計算する必要はありません。大まかな数字でも、毎月同じやり方で見続けることの方が、ずっと価値があります。

実際、習慣1の計算は5分、習慣2の見直しは1時間、習慣3の面談も1時間ほど。合計しても月に2時間程度です。この2時間が、残りの時間の不安を大きく減らしてくれています。

やってみてわかった、よくある失敗

3つの習慣は簡単に見えますが、私自身、始めた頃にいくつか失敗をしています。同じところでつまずかないよう、正直に書いておきます。

1つ目の失敗は、固定費に「毎月は出ていかないお金」を入れ忘れたことです。年に1回の保険料や、数か月ごとの税金の支払いを計算から外していたため、「あと5か月」と思っていたのが実際は4か月ほどでした。今は年間の支払いを12で割って、毎月の固定費に上乗せして計算しています。

2つ目の失敗は、固定費の見直しで「削りすぎた」ことです。安さだけで通信回線を切り替えた結果、つながりにくくなって仕事に支障が出ました。安くすることが目的ではなく、会社にとって必要なものを適正な値段で使うことが目的だと、身をもって学びました。

3つ目の失敗は、数字を話す相手に良いことだけを伝えていたことです。見栄を張って厳しい数字を隠すと、せっかくのアドバイスも的外れになります。悪い数字ほど早く、正直に話す。これが結局、自分を助けてくれました。

数字と向き合えるようになって変わったこと

3つの習慣を続けて、一番変わったのは、経営の判断が早くなったことです。

以前は、新しいことに挑戦したくても「お金が心配だから」と先送りにしていました。今は「手元資金があと何か月あるから、この範囲なら試せる」と、数字を根拠に決められます。

社員との会話も変わりました。会社の状況を数字で説明できるようになったので、「今は少し我慢の時期だけど、ここを乗り越えれば大丈夫」と、具体的に伝えられるようになったのです。

今、通帳を開くのが怖いあなたへ

通帳を開くのが怖い。試算表を見たくない。その気持ちは、痛いほどよくわかります。

でも、数字から目をそらしても、状況は何も変わりません。むしろ、見ないでいる間に選択肢がどんどん減っていきます。

まずは今日、手元資金を毎月の固定費で割ってみてください。電卓ひとつで、5分もあればできます。出てきた数字が、あなたの会社の「今」を教えてくれるはずです。

怖いのは最初の一回だけ。数字と仲良くなれば、経営はきっと少し楽になります。最後まで読んでいただき、ありがとうございました。