「申し訳ないけど、来月から発注を半分にさせてほしい」
コロナ禍のさなか、長年お付き合いのあった取引先から、そんな電話がかかってきました。覚悟はしていたものの、受話器を置いたあと、しばらく動けませんでした。
ところが、それから半年後。同じ取引先から、今度はこう言われたのです。
「いろんな会社と取引を整理したけど、おたくとは続けたいと思っている。落ち着いたら、また元の量に戻すから」
実際、その言葉どおり、発注は少しずつ戻っていきました。価格で比べれば、もっと安い会社はいくらでもあったはずです。それでも私たちの会社を残してくれた。その理由を、後になって担当の方がこっそり教えてくれました。
今日は、その理由と、小さな会社が取引先との信頼関係をつくるために私が大切にしていることを書いてみます。
取引先が残してくれた理由
担当の方が教えてくれた理由は、意外なものでした。
「一度も、言い訳をしなかったからですよ」
振り返ってみると、たしかに私たちは、納期が遅れそうなときや、ミスをしてしまったときに、すぐに自分から連絡することだけは徹底していました。「実は…」と相手に言われる前に、こちらから伝える。原因を説明し、次にどうするかを伝える。
特別なことをしていたつもりはありません。でも、厳しい時期に取引先を選ぶとき、相手が一番重視したのは、価格でも規模でもなく、「困ったときに、この会社はごまかさない」という安心感だったのです。
信頼を積み上げる4つの習慣
それ以来、私は取引先との関係で、次の4つを意識するようになりました。
- 悪い知らせほど、早く自分から伝える
- 約束は小さなものほど守る
- 相手の「困りごと」を聞く時間をつくる
- 担当者が変わっても、関係を引き継ぐ
悪い知らせほど早く。これが一番大切だと思っています。良い知らせは少し遅れても問題になりませんが、悪い知らせは遅れるほど相手の損害が大きくなります。そして何より、後から知らされたとき、相手は「隠されていた」と感じてしまいます。
小さな約束を守ることも大切です。「明日の午前中に見積もりを送ります」「来週お電話します」。こうした小さな約束を守り続けることが、「この会社は言ったことをやる」という信頼につながります。大きな約束は誰でも守ろうとします。差がつくのは、小さな約束のほうです。
相手の困りごとを聞く。商談のとき、つい自分の会社の話ばかりしてしまいがちです。でも、取引先が本当に求めているのは、自分たちの困りごとを解決してくれる相手です。「最近、何か困っていることはありますか」。この一言から、新しい仕事が生まれたこともあります。
担当者が変わっても関係を引き継ぐ。取引先の担当者が異動したとき、新しい担当者にこれまでの経緯を丁寧に伝えるようにしています。関係が「人」だけに頼っていると、担当者が変わった瞬間に信頼がリセットされてしまうからです。
信頼を失いかけた失敗
偉そうなことを書いていますが、私も一度、大切な取引先の信頼を失いかけたことがあります。
創業して数年目のころ、忙しさにかまけて、ある取引先への納品が遅れそうになりました。「なんとか間に合わせよう」と思っているうちに連絡を後回しにし、結局、納期の前日になって「間に合いません」と伝えることになってしまったのです。
先方の担当者は、静かにこう言いました。
「遅れることより、今まで言ってくれなかったことのほうが困ります」
その言葉は、今でも忘れられません。相手にも、その先のお客さまがいます。前日に言われても、もう打つ手がないのです。遅れそうだと思った時点で伝えていれば、相手は準備ができた。私は、自分のメンツを守るために、相手の時間を奪ってしまったのでした。
それ以来、「間に合わないかもしれない」と思った瞬間に連絡するようにしています。結果的に間に合ったとしても、「念のためご連絡しました」と伝えるだけで、相手はとても安心してくれます。
▶ あわせて読みたい:価格交渉で心が折れかけた話値下げ競争に巻き込まれないために
小さな会社にとって、取引先との関係でいちばん怖いのは、値下げ競争です。
大きな会社と価格で勝負しても、勝ち目はありません。だからこそ、「価格以外の理由で選ばれる会社」になることが大切だと思っています。
私たちの会社が選ばれる理由は、決して特別な技術ではありません。連絡が早い、ごまかさない、困ったときに相談に乗ってくれる。そんな、当たり前のことの積み重ねです。でも、その当たり前を何年も続けている会社は、実は意外と少ないのかもしれません。
値下げを求められたときも、すぐに応じるのではなく、「どうしてその価格が必要なのか」を相手に聞くようにしています。事情がわかれば、量を調整したり、納期を工夫したりして、お互いに無理のない形を探せることもあります。信頼関係があれば、価格の話も「交渉」ではなく「相談」になるのだと思います。
社員にも伝えている「連絡の3原則」
取引先との信頼は、社長ひとりでつくるものではありません。電話に出る社員、納品に行く社員、請求書を送る社員。取引先と接するすべての人の対応が、会社の信頼になります。
そこで、うちの会社では社員にも次の3つを伝えています。
- 困ったことは、隠さずすぐに社長か上司に相談する
- 取引先から聞かれたことで答えられないときは、「確認して〇時までにご連絡します」と時間を決めて返す
- ミスをしたときは、言い訳より先に「申し訳ありません」と伝える
特に大事にしているのは、1つ目です。社員がミスを隠してしまうのは、多くの場合、叱られるのが怖いからです。だから私は、「早く相談してくれたこと」自体をまず褒めるようにしています。社内で悪い知らせが早く上がってくる会社は、取引先にも早く伝えられる会社になります。
以前、若い社員が「実は発注の数を間違えていました」と青い顔で相談に来たことがありました。私はまず「言ってくれてありがとう」と伝え、一緒に取引先へ連絡しました。早かったおかげで、先方の生産計画にはほとんど影響が出ませんでした。その社員は今、取引先からいちばん信頼される担当者になっています。
信頼は「貯金」のようなもの
私は、信頼関係を「貯金」のようなものだと考えています。
小さな約束を守るたびに、少しずつ貯金が増えていく。反対に、約束を破ったり、ごまかしたりすると、一気に引き出されてしまう。そして、いざというとき——たとえばコロナ禍のような厳しい時期——に、その貯金が会社を守ってくれるのです。
あの取引先が、発注を減らしながらも私たちとの取引を続けてくれたのは、それまでの何年分もの貯金があったからだと思います。信頼の貯金は、ためようと思ってすぐにたまるものではありません。だからこそ、平時の一つひとつのやりとりが大切なのだと、身にしみて感じています。
取引先との関係づくりや交渉の考え方は、本から学べることもたくさんあります。とはいえ、忙しいと1冊を読み切る時間はなかなか取れません。そんなときは、ビジネス書などの要点を1冊10分ほどで読める本の要約サービス「flier(フライヤー)」を使うのもひとつの方法です。移動中のすき間時間にも読めます。
まとめ
- 取引先が最後に選ぶのは、価格より「ごまかさない会社」
- 悪い知らせほど早く、自分から伝える
- 小さな約束を守り、相手の困りごとを聞く
- 信頼があれば、価格の話も「交渉」ではなく「相談」になる
- 信頼は貯金。平時の積み重ねが、厳しい時期に会社を守る
今日、取引先に送る予定のメールや電話はありますか。もし「言いにくいこと」を後回しにしているなら、今日のうちに伝えてみてください。その一本の連絡が、信頼の貯金を一つ増やしてくれるはずです。
小さな会社を経営している皆さんは、取引先とどんな関係を築いていますか。よかったら、コメントで教えてください。
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