「微小循環理論」特許取得のご報告 | 「あとは緩和」といわれたら

「あとは緩和」といわれたら

少量抗がん剤治療(がん休眠療法)で
元気に長生きを目指す ー

当院の少量抗がん剤治療の土台である「微小循環理論」が

抗癌剤の選択方法として,先日特許を取得しましたことを

ご報告申し上げます.

 

まぁ,16年以上,地道にコツコツやってきたことに対する,

ささやかな“ご褒美”って感じかな.クラッカー

 

 

       特許第7370046号

       令和5年10月19日 取得

       発明の名称:抗癌剤の選択方法

       発明者:片岡建之・三好 立

 

 

微小循環理論についてザックリと紹介します.

少し長くなりますが,お付き合いください.

 

まず,微小循環理論の根幹は,「がん細胞の特徴を “直接的”に

とらえるか “間接的”にとらえるか?」になります.

 

 

 

 ◆プロローグ

がんの治療を組み立てる場合、まずは「敵(がん)を知る」

ところから始まります.敵の特徴に合わせて治療戦略を進めて

いくためです.

 

 臨床の現場では,以下の3つの視点が“敵を知る”ために

使用され,それぞれの視点から得られた情報を統合して

治療の組み立てが行われています.

  1. 病理学的検査(H.E.染色)
  2. 免疫学的特殊染色
  3. ゲノム(遺伝情報)解析

 

先ずは見ること、すなわち①病理学的検査(H.E.染色)により、

がんの外観の特徴をとらえることが行われています.

病理学的検査とは、一般には、手術または検査の目的で採取

された臓器、組織、細胞などを顕微鏡を用いて、病気の診断や

原因を明らかにする検査です.がん診療における病理学的検査の

役割は、がんの特徴や広がりを把握することにあります.

がんの種類や目的によっては②免疫学的特殊染色や③ゲノム

(遺伝情報)解析といった特殊病理診断を併用して、さらに

詳細にがんの特徴を明らかにしていきます.

そして、得られたがんの情報に合わせて治療戦略を練るのです. 

 

いずれも,がんの組織学的外観,発現タンパク,遺伝子変異と

いった,がんそのものから得られる“直接的”な特徴・情報を

元に治療を構築するという流れです.

 

例えば、同じ肺がんでも、非小細胞肺がん(腺がん、扁平上皮

がん)、小細胞肺がんといった組織型(見た目・顔つき)の

違いに加えて、PD−L1という蛋白の発現の程度、EGFR遺伝子

変異の有無、ALK遺伝子転座の有無などで使用薬剤が細かく

決まってきます.乳がんであれば、ホルモン受容体として、

エストロゲン受容体やプロゲステロン受容体の発現の有無で

ホルモン剤の使用を検討しますし、大腸がんではk-ras遺伝子

変異の有無で使用薬剤の決定を行ったりしています.

 

いずれにせよ“敵”を知り、その特徴に対してどのような治療が

一番適切なのか・・・このコンセプトを元にした臨床研究の

積み重ねが、エビデンス(科学的根拠)のある治療として

患者さんに提供されていくことになります.

 

 さて,こういった病理学的検査や特殊病理診断(遺伝子学含む)

に基いて抗がん剤を選んで治療に用いると、予想通り効果が

得られる患者さんと、得られない患者さんに分かれます.

 

 例えば,皮膚がんのメラノーマの薬剤治療奏効率は近年50%

前後と,一昔前のダカルバジン療法の5%と比較すると格段に

進歩しました.しかしながら,いまだ半分の患者さんには効果

を認めないという意味ではまだまだ不十分です.

 

 そこで我々は,世の中で行われている①病理学的検査,

②免疫学的特殊染色,③ゲノム(遺伝情報)解析といった,

がん細胞の特徴を“直接的”にとらえる視点とは全く異なる

“間接的”な視点からがんの特徴をとらえられないか,そして

“間接的”視点からがんをとらえることで,新たな治療の組み

立てに繋げられないかと考えました.

 

◆“間接的”な視点の出発点:

 “自己中心的”な性格のがん細胞は,体内の“至適生活環境”で

  増殖している

がん細胞は,ホスト(患者)の体のことは何も考えていません.

自分たちが増殖することで,ホストにどんな迷惑がかかろうが,

ホストが死んでしまおうが全くお構いなしです.そういう意味

では,がん細胞は自分たちが増えることしか考えていない,

究極の “自己中心的細胞”と表現することができます.

 

そして,自己中心的という特性故に,自分にとって居心地の

いい生活環境でのみで増殖する,居心地の悪い生活環境では

増殖しないと推察されます.そこで、 『“がん細胞は、体内で

がん細胞の“至適生活環境”で増殖している』という仮説を

立てました.

 

そして,この仮説ががんの特徴を“間接的”な視点から捉えよう

とする出発点になります.

 

その仮説を元にして、がん細胞Aの至適生活環境を“生活環境A”

とした場合、がん細胞Aは“生活環境A”以外の生活環境では

増殖することは出来ないとなります.そうすると、がん細胞A

の“生活環境A”の特徴は、そのまま“がん細胞A”の特徴に置き

換えることが出来ます.

 

つまり、“がん細胞A”の特徴=“生活環境A”の特徴、となり

ますので,がん細胞の特徴を表す生活環境の特徴を見つけて

やればいいとなります.

 

では,具体的に,がん細胞の生活環境の特徴をどうやって見つ

け出すかというと,生体の防御システムの解析を利用します.

がんの増殖に対して生体が防御システムを発動すると、血液中

の免疫細胞だけでなく、インターロイキンやインターフェロン

といったサイトカインを始め、様々な防御システムに関係する

内因性物質も刺激を受けて動きを見せるようになります.

 

そうすると、血液は正常組織・がん組織の隔てなく体内をぐる

ぐると循環していますので、がんに対して発動している生体

防御システムに関連した血液内の免疫細胞や内因性物質等の

動きは、末梢血管からの採血による血液検査を通して捉える

ことが出来るはずです.

 

そして,それらは,体内にあるがん細胞の特徴ごとに,特徴の

ある動きを見せるはずなので,血液検査の内容を細かく解析

することで,がん細胞の特徴の割り出しに結びつけていくこと

ができるのです.

 

 こういった,がんに対する生体防御システムに関連した血液

内の免疫細胞や内因性物質等の動きで,がんの特徴を間接的に

とらえる方法は,がんの組織学的外観,発現タンパク,遺伝子

変異といったがんそのものの“直接的”な情報とは一切関連が

ありません.

 

極論すると,病理検査も,免疫学的特殊染色検査もゲノム

(遺伝情報)検査も・・・現在世の中で行われている全ての

検査は無くても,微小循環理論による“間接的”視点からのみで,

がんを構成するがん細胞の特徴(がん細胞の多様性を含む)

を引っ張り出すことが可能となります.

 

今回当院が提唱したがんの特徴を生体の防御システムを介して 

“間接的”に捉えようとする考え方・方法論の元となる文献・

論文・書籍は今のところ世の中には一切存在しません.

 

このことより,本申請内容は極めてオリジナル性の高い内容

と査定され,この度の特許権取得に至りました.おねがい

 

 

(注:書籍に関しては,今のところ以下のみです.下矢印

   内容的に記載不十分なところ多く,マニュアルも

   古いので,改訂版を検討しております.)

  

 

 

【追記】

 当院の定期セミナーで微小循環理論についてわかりやすく

説明しています.ご興味のある方は参加下さい.下矢印