シスターに引き入られ、父上に続き孤児院の地下へと続く扉をくぐる。
施設内部は地下に部屋を構えているようで、暗く湿った階段を下って行く。
「狭いのでお体にお気をつけ下さい。」
人一人しか通れない幅の階段にはシスターの持つ灯籠と従者が持つ蝋燭の灯りのみ。
足元が全く見えない為、気をつけていないと奈落の底まで堕ちて行きそうな程。
この孤児院について、私が語り聞いてきた話では、この巫女養成施設のさらに地下には雨神が降臨したという聖域とそれを祀る神殿があるという。
雨の神
それは信行されている他の神々とは違い姿形を民衆には見せず、自身の居城から外界へ出ない神とされている。
それ故に雨神の神殿は一般人には公開されず王家のみが知り得、代々守り継いで来た。
この施設に入るのは初めてだが、こんなにも暗く深い場所に神殿や巫女が居る事は想像が足りなかったようだ。
この施設と神殿へ今回来れた者は王族の人間を除けば、一握りの重役達だけである。
そして我々は今日ここへ呼ばれたのは、国に欠かせない存在である、雨神に仕える唯一の存在、雨乞いの巫女が関係している。
その巫女最終候補生がようやく決定したというのだ。
今日は候補生を正式に巫女へ任命する儀式と顔見せの政なのだ。
雨乞いの巫女は50~100年に一度だけ、この施設から選び抜かれる。
前代巫女は今より10年程前に死没している。
それからというもの、この国の雨季は年々短く、雨の量も少なくなっている。
父上も昔より雨の心配は毎年尽きなかった。
ようやく巫女が正式に決定し、今年の雨季を無事に迎える事が出来ればきっと父の荷も楽になる事だろう。
階段の終わりにはさらに鉄扉が阻み、その先には石造りの廊下が続いていた。
神殿はさらに奥のようだ。
廊下には同じ鉄扉がいくつもある。これはこの施設で暮らす者達の部屋なのだろうか。
廊下の突き当りの扉をくぐると、さらに螺旋階段が続く。
そしてその終わりには天上高く一際巨大な、随分と錆び付き蔦が絡まって一層仰々しい鉄扉が構えられていた。
(・・・なるほど、元々ここに存在した聖域に後からこの施設を増設したのか。)
「・・・この奥が雨乞いの神殿になります。どうぞお入り下さい。」
大きな錠前の封印を外し、扉を開く。
そこは薄暗い、石柱が並ぶ古い石造りの地下神殿だった。
洞窟のような空間に後から人間がここに神殿をつくったのだろう。あちこちに鍾乳石のような物が見える。
だが内部はかなり広い空間だ。薄暗い為、高い天井部分がよく見えない。
神殿の最深部には巨大な像が祀られている。あれがこの雨乞いの神の像か神体としている物なのだろう。
室内には蝋燭の灯りが均一に灯されているが、室内の温度はかなり低い。衣服を身に着けても寒さに震えるほどに。
冷たい雫が滴り落ちる地下神殿はぼんやりとした灯りのみが内部を照らし出していた。
その中心に数人の年半ばの巫女衣装に身を包んだ女性が立っていた。
女性といっても一人ひとりの面立ちは少女と表す方が合っている・・。
シスターと巫女達は我々の前に並び、跪き、王家に対する礼の姿勢で出迎えた。
「レンジェロ国王とご一行様、本日は遠き道のりをお出でくださいまして誠に有り難うございます。」
シスターは礼を終え、話し始める。
「・・・長き試練を終え、この度新たに雨神に仕えし巫女が誕生致しました。この国に雨神の恩恵を齎すであろう巫女達をご紹介致します・・・。」
巫女は全員で12人。
しかし本当の巫女として活躍できるのは1・2人であろう。
一体この中の何人が神に選ばれるのだろうか・・・?
俺はそんな事ばかりでシスターの自演じみた演説は筒抜けで、周りの者を見ても同じ様な顔であった。
一人一人を観察していると、皆同じ年代の少女で、自分と同じ17・8位であろう・・・。
どの娘も一様に美しい面立ちだが、巫女としては半人前のようにも見える。
父上の横顔も少々不安の色が見える。雨不足を解消できるような真の巫女は期待出来そうに無いのだろう。
(この様な巫女で今年の雨不足は解決出来るのだろうか・・・?)
思わずため息が漏れる。
最後の巫女の紹介でやっと話が終わるのだろう。
顔を上げ巫女の姿を見た。
(・・・・ん・・?)
最後の巫女も他の少女と同じ年代・服装であるが、俺はその巫女から少しの間目を離す事が出来なかった。
この国の人種系統的には珍しい黒色がかった髪色。肌は白く太陽の光を浴びていない様に透き通っている。
主立ちも美しいが、しかしそれ以上に他の娘と違う点はその目つきだった。
なぜあのように鋭い覚悟に満ちた目をしているのか。何かを見据えている彼女の目は少女には思えなかった。
目の前の我々はその視界に入っているのか?
俺はしばらく黒色の髪の巫女の少女に目を奪われていた。
7へ・・・