それから、数ヶ月が過ぎた・・・
数日から数週間置きにエリアとガイルは夜中にあの演劇場で落ち合い、さまざまな事を語り合ったり、討論をしたり、喧嘩をしたり・・・誰にも知られずに同じ時を過ごす。
そんな生活が続いた。
またいつもの様に夜が明ける前に二人は神殿近くで別れる。
「じゃあね。また6日後に・・・」
「ああ・・・。」
ガイルの乗る馬が暗闇に消えていくのをただ眺めて、朝が来るのを待つこの時はとても苦しい・・・。
その去っていく手を掴んでしまえたらと・・何度も欲深い想いに駆られ、自分を恥じた。
一緒に居る充実した一時が積み重なる度に、あの背中への想いも募っていく・・・。
それは決して許される事ではないのに・・・。
この神殿から逃げる事は自身の使命が許さないのだから。
でも愛しいと思う気持ちは、神へ仕える巫女としての使命と共存し、そして衝突する。
またこの気持ちを打ち明けてしまうなんて事があろうものなら、彼はきっと拒絶するだろう・・・。
彼の悲願は、雨を齎し国を救う巫女の誕生。巫女候補生の自分でなければ彼は自分と友人になる事などなかった。
この気持ちは彼への裏切りとなるだろう。
だから言わない。彼の悲願を叶える事こそ今の自分の願いなのだ。
私は今日も神の元へ戻る・・・。一刻も早く願いを叶える為にも。
それから6日後・・いつもの約束の日。
エリアは今日もいつもの様に、人が寝静まり静かな砂漠に出て演劇場へ向かった。
お気に入りの庭園に入ると、まだガイルの姿は無かった。
庭園を散策しながらしばらく待っていたが、なかなか現れない。
演劇場に入って見ても、人の気配は無い。
寒さを凌ぐため劇場の椅子に座り、隠しておいた毛布に包まり眠気を堪えながら待つがガイルは一向に来ない。
やがて夜明けが近づいて来てしまう。
(・・・・・ガイル・・・・?? 一体どうしたんだろう・・・、こんな事今までなかったのに・・・・)
外に出ても生き物の気配すら無かった。ガイルの馬の足跡なども見当たらない。
(ガイル・・何かあったの・・・・??)
不安に襲われるが、ガイルと連絡を取る術などある筈がない。
夜明けのギリギリまで待つが今日は結局ガイルは来なかった。
翌日、またエリアはガイルを演劇場で待つことにした。
昨日より外気の寒さは和らぎ、今日は外の景色がよく見える庭園の中で待った。
ガラス張りの為、周りだけでなく天井から空を仰ぐことも出来る。
普段はあまり空を見ることが出来ない為、ここに居れば一晩中でも飽きる事はないだろう。
しかし昨日程の寒さではないとはいえ、息を吐くと白く見える。
(・・・・・・・きっと何かあって今は来られないんだろう・・・。それが終わればきっと来てくれる・・・。)
彼が向こうで何をしているかなど全く分からない。
けど、必ずまた来てくれると信じている、いや信じていたかった。
(・・・会いたいよ、ガイル・・・。ほんの少しでもいいから・・・)
空を仰ぐと無数の星が瞬いている。
初めてガイルにここへ連れて来て貰った日のような星空だった。
何がなんだか分からないまま神殿から連れて来られた時は、とてつもなく広い世界へ来てしまったかのように戸惑って、悲しくて、嬉しかった。
巫女になる覚悟を決めて神殿に入ったのに、神殿での生活に疲弊していた私に生きる希望と見出してくれた。
巫女になれると言ってくれた。友人になってくれると言ってくれた・・。
ガイルの事ばかり頭に浮かんできて、また愛しさが込み上げて来る。
いつの間にか空を見上げながら涙が溢れていた。
誰かを好きになる事は綺麗な事ばかりではない。想えば思うほどこんなにも苦しく悲しい。
距離が近くなればなるほど想いが募り、想いが強くなるほど卑しく、悲しい。
ガイルに会いたいと思うのは友人だからなどではない。
もう後戻りなど出来ないほどにガイルへの気持ちは強くなっていた。