三河雑兵心得: 4 弓組寄騎仁義 | ギッコンガッタン 

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 三河の百姓上がりの雑兵の出世物語第4弾です。徳川家康は、三方ヶ原の合戦で大敗します。ただ、武田軍は、その後、本国まで撤退し、家康は、取り敢えず一息つきます。一方、これまでの軍功で信頼を得た茂兵衛は、前作から徳川家の分家の御曹司・松平善四郎の面倒を見させられていました。

 

 善四郎は、小柄で弓に関しては、名手ですが他の武芸は、からっきしです。そんなわけで、弓頭に昇進した善四郎の副官という位置付けの寄騎となります。前作で善四郎は、茂兵衛に心酔します。そして、独身だった茂兵衛に自分の姉を紹介します。この縁組が決まり善四郎と茂兵衛は、義兄弟になります。

 

 また、与兵衛は、騎馬に乗ることを許され鎧武者にもなります。いわゆる足軽からは、離れた士分になり、小さいながらも屋敷も持ち家来も給金も増えて松平一門の縁者を嫁に持つという田舎の鼻つまみの百姓だった頃から10年で大出世です。かくして、茂兵衛は、故郷の上田村に錦を飾りに帰ります。

 

 ここで、10年前に茂兵衛が出奔するきっかけとなった喧嘩で死なせてしまった村の男と恋仲であった妹のタキは、それから以前の明るさを失いやもめ状態でした。他の更に下の妹たちは嫁入りしていたのにです。茂兵衛とともに来ていた辰造とタキは、出会い恋仲になり茂兵衛とタキ兄妹のわだかまりも消えます。また、村の人間を二人家来に加えます。

 

 しばらく、武田との戦いは、収まっていました。ただ、家康としては、奥三河と遠江の武田に奪われた領土の回復を目指すと言う宿願はあります。しかし、三方ヶ原の戦いで信長の籠城の要求に従わず大敗を喫したことは、織田徳川両家の同盟関係に影を落としていました。家康は、名誉回復の機会を求めていました。

 

 信玄の後継の武田勝頼は、いよいよ本格的に徳川領を攻めます。窮地に追い込まれた家康は、遠江の重要拠点の一つ高天神城を守るための援軍を信長に乞い願います。信長は、浅井朝倉攻めに成功したのもあり、十分な援軍を送ります。しかし、あと少しで高天神城に着こうかと言うところで高天神城は、降伏します。

 

 勢いに乗った勝頼は、徳川領への侵攻を進め、降伏した徳川方の武将に寛容に接します、また、戦況を有利にするために、徳川領の村々に火をかけるなどの狼藉を働きます。これは、家康軍が強く打って出にくい状況を分かったうえで、領民や地侍に家康への不信感を抱かせ武田に味方しやすくするためでした。

 

 ついには、武田の徳川領内の荒らしは、家康の本拠地である浜松の城下にまで及びます。茂兵衛は、恋する綾女の家の方向に火の手が上がってるのを見ます。茂兵衛は、その方向に駆け出します。すると綾女が武田の兵に襲われる所に出くわします。綾女を助けたのですが、綾女からは、いい顔をされませんでした。

 

 一方、武田軍は、奥三河の重要拠点である長篠城に迫ります。茂兵衛達の一団は、長篠城から援軍を求める使者として命からがら出て来た鳥居強右衛門に会います。茂兵衛達は、強右衛門を奥三河攻略の前進基地の岡崎城に伴います。強右衛門の願いは聞き届けられ家康信長連合軍の援軍を取り付けることに成功します。

 

 強右衛門は、茂兵衛達と共に長篠城に向かいます。しかし、武田軍は、見事に取り囲まれてとても手負の強右衛門を入城させるのは、困難でした。茂兵衛達は、敵軍の中に入りながら矢文も用意していました。強右衛門は、敵に捕まります。強右衛門は、敵の脅しに屈せず援軍が来る事を城に大声で伝えます。

 

 強右衛門は、怒り狂った武田兵に殺されます。ただ、これで苦境にあった長篠城の兵の士気は、多いに上がります。この際の行動が危険なことを松平一門の1人である善四郎にさせたことを軽率とばかりに茂兵衛は、上官である松平伊忠に強く叱責されます。それ以来、伊忠は、茂兵衛に辛くあたります。

 

 そして、援軍は、長篠城近辺の設楽ヶ原にたどり着きます。そして、大掛かりな仕掛けを用意します。軍議になり、武田軍を設楽ヶ原に誘き出すために鳶巣砦を責める事になりました。この作戦に茂兵衛は、ずっと辛く当たられている伊忠とともに当たる事になりました。少し気の重い任務に茂兵衛は、向かいます。

 

 任務は、道中に苦労が有りながらも順調に進んでいきます。そんな道すがら内心いけすかないと思っている伊忠が武田方の兵にやられかけている場面に遭遇します。嫌悪の感情でこのまま知らないふりをしようかと思った茂兵衛ですが、放っておけず助太刀します。敵を倒しましたが、伊忠は、深手を負っていました。

 

 伊忠は、いよいよ瀕死のタイミングで茂兵衛にここまで辛く当たった事を謝りました。そして、その訳を話します。茂兵衛は、百姓上がりで順調に出世したのですが、同僚の中では、彼の出世をやっかんでいる輩も多くいるからだと言うのです。上官の思いやりに感じいる茂兵衛でした。伊忠は、亡くなります。

 

 鳶巣砦からの武田軍の追い落としは、うまく行きます。追い落とされた武田軍は、満をじして待ち構えている徳川織田両軍の待ち受ける設楽ヶ原へと攻め込んで行きます。武田軍は、徳川織田両軍の餌食になり大敗します。武田方の重臣の山県昌景が勝頼を逃がそうと壮烈な討死となり、何とか勝頼は、逃れます。

 

 かくて、世に長篠の合戦とか、設楽ヶ原の戦いと言われる戦国史に名高い合戦は、徳川織田連合軍の大勝利に終わります。家康と共に茂兵衛も浜松城に凱旋します。武田軍に蹂躙された浜松の町も復興を果たしていました。そこで、乙部八兵衛から綾女の消息を知り、何ともやりきれない気持ちになる茂兵衛でした。

 

 以上があらすじです。この巻は、茂兵衛が善四郎の姉を嫁にもらう事になるところから始まります。かくして、善四郎と義兄弟になり、二人の主従としてのつながりが深まります。また、鎧武者まで出世した茂兵衛が故郷へ錦を飾り、妹のタキと辰造の恋が始まる微笑ましい出だしでした。

 

 その後で、家康の三方ヶ原での失態とこれに伴う家康と信長の同盟関係の微妙さが描かれていきます。それに加えて信長は、信玄の死と浅井朝倉両氏を滅亡させ、畿内の戦も抑え始めていよいよ、意気盛んになり、武田軍とのやや劣勢の戦いを強いられている家康と大名としての力の差が出てきてる部分も絡みます。

 

 そんな中での長篠の合戦の描写の所は、凄く面白かったです。いわゆる三段撃ちよりも馬防柵を駆使して武田軍を潰した戦略の方が書かれていて従来の話より考証が良かったです。また、茂兵衛や茂兵衛以上に時に無鉄砲になる善四郎の存在も生きていました。合戦の場面の描写は、また見事です。

 

 そして、長篠の戦いの後のいわゆるエピローグの部分において、辰造は、茂兵衛の妹のタキと愛を深めていきます。弟の丑松まで、戦で夫を亡くした未亡人と夫いい関係になります。周囲の良縁と言う茂兵衛にとって心地よいエンディングに見せて、乙部八兵衛が茂兵衛の心をかき乱す綾女の話題をふることで一ひねりしている所もいいです。

 

 今回は、茂兵衛の公私ともどもに色々な出来事があり、展開が全体的に目まぐるしく面白い巻だと思えました。ただ、これから先の戦国時代史は、もっと色々な出来事があり、家康が日本一の大名に向けて躍進しだす時に入ってきます。そんな中で茂兵衛の一団がどう活躍していくか楽しみです。