それでも、日本人は「戦争」を選んだ | 日本史四方山話

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日本史のお話
特に読んだ本の感想やそこから考えたことを
なるべく分かりやすく伝えたいと思っています
たくさんの人に日本史を学んでほしいと願っています

読んだ本紹介。
加藤陽子・著

 

 

 


僕は以前ここで、「戦争を再び起こさないためには、悲惨さを伝えることはもちろん大事だが、それと共になぜ日本が戦争に向かってしまったかのメカニズムを知ることがとても重要だ。なのにそれが行わなれていない現状は残念である」というようなことを書きました。

 


はっきり言いましょう。
 

 

「戦争反対」と叫ぶなら、戦争に向かう道の塞ぎ方を知っていないと意味は無い。
 

 

そしてなぜ戦争に向かった国を止められなかったかを知らないでそれは出来ない。
 

 

「あの時とは時代が違う、社会が違うから学んでも無駄だ
 

 

いやいや、たかだか70年前の話です。
 

 

たしかに当時は帝国主義国家であったので、現代とは違う部分も多々あります。
 

 

しかし天皇陛下が存在し、憲法があり、議会があり、マスコミがあったことは今と同じです。
 

 

戦国時代とは違うのです。
 

 

実際当時の考え方と現代の考え方に差異はさほどないように感じます。
 

 

「欲しがりません、勝つまでは」の精神や、「お国の為に死ぬのは名誉」という考え方は今でもそっくり生きてますよね?
 

 

私生活を投げ打って会社に尽くすこと、例えば台風で身の危険があっても会社に出社することを求める会社と応える社員。
 

 

例えば親兄弟が死んでも、仕事で死に目に会えなかったことがむしろ称賛される社会。
 

 

例えば残業代なんて付かなくて当たり前、でもみんな同じだからといって体を壊してまで働く社員や先生。
 

 

定年するまでのローンを組んで、自己を殺して働き続け持ち家を持つことが立派とされる感覚。
 

 

どれも戦前の考えと全く変わりませんよね?




そんなことを大変わかりやすく教えてくれるのがこの本でした。

 

 

もうタイトルだけ見た時点で即買いました。
 

 

この本は、中高生相手に講義したものが本にまとめられています。
 

 

中高生が理解できる内容のはずですので、大人が読んでわからないはずはありません。
 

 

もしわからないのなら、それは自分の知識不足を恥じてください。
「戦争反対」と思う人は特にです。




さて、近代になってから、日本が行った対外戦争は、大きく分けて5つあります。

 

 

日清戦争、日露戦争、第一次世界大戦、日中戦争、太平洋戦争。
 

 

このうち日清・日露・第一次は勝ち、日中・太平洋は負け
 

 

この5つに共通する日本の意識が何かわかりますか?
 

 

領土を広げようとした?
 

 

ではそれは何のため?
 

 

答えは「自衛のため」です。
 

 

よその国に攻め込んだのに「自衛」?と思うかもしれませんが実際そうなのです。
 

 

日本がペリー来航以降持った欧米列強への脅威とコンプレックスは相当なものでした(というか今でもまだ残っていますよね)。
 

 

そして欧米に追い付け追い越せで富国強兵を行った結果、逆説的ですが欧米により脅威を感じます。
 

 

例えば小学生の野球少年が「プロ野球選手ってすごいなー、うまいなー」と思うのと、成長してそのすごさの本質を理解した時に感じる「すごいな・・・」では全く違いますよね。
 

 

このとき日本は成長したことでむしろ欧米列強のすごさの本質を本当に理解したのです。
 

 

南下政策を取るロシア、中国で利権を吸い続ける欧米諸国、太平洋の向こう側で巨大化するアメリカ。
 

 

当時はまだ「強いものが偉い」という考え方が主流の時代ですから、小さな島国である日本がこれらの脅威から如何にして「自衛」するのか、その結論が朝鮮、そして中国進出だったのです。
 

 

日本の近代戦争の目線は、常にこの朝鮮と中国にありました。




日清戦争は清(中国)に巣食う欧米諸国に割って入り、日本の権益を確保するため。

 

 

日露戦争は南下政策を取り、日本の安全保障を脅かしかねない地点まで進出したロシアを食い止めるため。
 

 

第一次世界大戦はちょろっと参戦しただけですが、ドイツが持っていたアジアの植民地を回収し、自国の防衛圏を広げるため。
 

 

日中戦争は完全なる侵略戦争ですが、名目上はソ連アメリカのアジア進出に対抗するため。
 

 

太平洋戦争は「自衛」そのものです。




ただ、誤解してほしくないのは、「自衛」と書くとやむをえず戦争を行ったみたいに聞こえるかもしれませんが、そうではありません。

 

 

「自衛」というのはあくまで日本の勝手な判断であり、それが他国へ攻め込んでいい理由ではないということです。
 

 

その裏に植民地をもつ欧米諸国へのコンプレックスが働き、日本も欧米に負けない進んだ国、植民地をたくさん持つアジアのリーダーだという証明をしたかったという欲求があったこともまた事実です。




日清戦争はあまり国民も反対せず行われました。

 

 

それは明治維新以来苦しんできた不平等条約の改正をしなければならないというのが、皆の頭にはあったからです。
 

 

日本は欧米に負けない強い国であることを証明しなければならない、と。
 

 

しかし、日露戦争は反戦論者がたくさんいたそうです。
 

 

戦争には勝ちましたが、8万人以上の戦死者を出し、ロシアの脅威は取り除いたものの、満州地方を得たくらいで、さほど大きな利益は得られませんでした。
 

 

当時の日本の人口は約4300万人。
 

 

今の1/3ですから、単純に現代なら24万人の人が1年ほどで亡くなった計算です。
 

 

これほど大きな犠牲を出し大きく得るものも無かったのに、なぜ30年後、そう、たった30年後に310万人とも言われる犠牲者を出す戦争へ向かってしまったのか?




確かに軍部、特に陸軍は暴走しました。

 

 

それを政府や海軍は止められませんでした。
 

 

天皇陛下の戦争はしたくないという御心は届きませんでした。
 

 

では、いかに今ほど言論の自由がないとはいえ、なぜ一番被害を被るであろう国民は戦争を止められなかったのか?
 

 

いや止めなかったのか?
 

 

むしろ戦争に積極的だったのか?




ここなんです!

 

 

まさに肝はここなんですよ!
 

 

なぜ日本人は「戦争」を選んだのか?
 

 

日清戦争以来の辛い経験をしていたはずなのに、
『それでも、日本人は「戦争」を選んだ』んです。

 

 

なぜなのかは皆さんが考えてください。
 

 

これは人に聞いて「ふーん、なるほどねぇ」じゃダメなんです。
 

 

自らの労力を使って、学んでください。
 

 

そうしないと身にならない。
 

 

これは社会人なら痛いほどわかるはずです。
 

 

「戦争反対」と思うなら絶対不可欠な知識です。




さしあたって、この本を読むことをお勧めします。

 

 

もちろんこれだけでは足りませんが。
 

 

僕はいつも「歴史は大切な学問ですよ」と言っていますが、正直この明治以降の戦争の歴史だけでもとりあえず学ぶべきです。
 

 

というか、お願いですから学んで皆で共有しましょう。
 

 

僕も「戦争反対」ですから。