春吹雪!! | クラブ・ミッドナイト:正伝!! =Sの称号= 第2章

クラブ・ミッドナイト:正伝!! =Sの称号= 第2章

TYPE Rの称号を与えられなかったもう一つの悲運の車

 

  毎年、恒例の春先に訪れる猛吹雪!!

 

 この吹雪が過ぎれば、いよいよオヤジの住んでいる北海道にも春がやってくる。

 

 こんな吹雪は毎年、全然気にならない事であったのだが、どうも年のせいか、今年はこの天候に異常に敏感になり、走ることが弱気になっていた。

 

 吹雪の予定される日は18日。

 

 その為、オヤジは前日に通勤車のアトレーのガソリンを満タンにして、更に長靴と防寒着を車内に持ち込んだ。

 

 TVのニュースでは盛んに、吹雪による交通障害の警告が流されていた。

 

 

 しかし、気圧計を見たら、そんな吹雪でもない様子。

 

 白い針が赤い針のとこまで動けば、これは猛災害級の猛吹雪となるのだ。

 この針が過去何回か、赤い針に近づいたときがあったが、その時は間違いなく国道が封鎖されていた。

 

「よし、単なる大雪警報だ!!これならいける!!」

 

 オヤジはこの気圧計を信じて、更に普段走っている道が、雪で通れなくなることを想定して、いつもよりも1時間も早く家を出た。

 しかし、この行為が後々、間違いだったと気が付くのだ。

 

 外をでたら、確かに吹雪いてはいるが、視界0のホワイトアウト状態ではない。

 まあ、何とか普通に走れるぐらいの吹雪である。

 

 早めに会社の近くに着いたオヤジは、24時間営業のなか卯に到着。

 

 優雅に朝食を取ってから出社しようと思った途端、1本の電話が鳴り響いた。

それは店長からの電話だった。

 

「もしもし、オヤジさん??いま、ニュースを見たら、網走はこれから凄い吹雪になりそうなので、今日は休んだほうが良いんでないですか??」

 それはオヤジの身を案じての電話であった。

 

「あっ!!ありがとうございます。だけどもう会社の近くまで来ていますので、これから朝食を取ってから、通常どうりに出社します。」

 

 業務中も確かに雪は降っているが、前が全然見えるので、猛吹雪の感覚は無い。

 

 店長の計らいで、当日は夕方5時過ぎに早退させてもらった。

 

 駐車場にくると、オヤジはウムムとうなった。

 

 停まっている車の周りには、雪が積み上げられ、走行が困難となる雰囲気があった。

 

 そこで、国道に一番近い道を選んで、ようやく何回か、ラッセル走法(車を前後に動かして、雪道から出る方法)を繰り返して、駐車場から出て国道にたどり着けた。

 

「よし、もう大丈夫だ!!国道に出たら、もう走れないことはない!!」

 

 帰り道も確かに吹雪いてはいるが、視界は全然見えるので問題はない。

 

 そして30分ほど走り、オヤジの家に入る脇道迄たどり着いたのだが・・・・

 やはりそこは予定した通り、脇道には道路が無くなっていた。

 

 

 去年、オヤジの家のわずか20m手前の道路。

 ここ、雪で埋まった土地で無くて、きちんとした道路です。

 

 除雪車が入らないと、わずか数時間で道路が積雪50cmぐらいになるのだ。

 

 

 ここで、毎年、必ず車が埋まって動かなくなるので、今年は近くの大きな駐車場に停めようとしたら・・・・・

 今度はそこに行くまでの道が、15cm程雪が積もっていて、行くことが出来なくなっていた。

 

 そこでオヤジは目的地を変更して、さらに遠くの大きな駐車場に行く事とした。

 

 アクセルはフル。ここでビビッてアクセルを緩めたら、積雪の抵抗で、車が停まってしまうからだ。

 

 オヤジの愛機、ダイハツアトレーはFR(後輪駆動)よりの4WDである。

だから滑った時は、後輪駆動のように後ろから滑る。

 その道を出る為にアクセルを満開していたので、D1のように殆ど車体を真横に向けながらカニ走りをして、ようやく国道に到着!!

 

 そうしてようやく大きな駐車場のある場所にたどり着いたのであった。

この場所からオヤジの家まで約1.0km。

 履いていた靴を脱ぎ棄てて、マリンブーツと呼ばれる、雪道最強の長靴に履き替える。

 

 意を決して車から出るオヤジ。

家まで半分の距離までたどり着いたとき、オヤジは後悔していた。

 それは耳や頭を保護する。帽子を車から出さなかったからだ。

 

 北海道の冬は寒いではない。帽子が無い寒さで頭と耳が痛くなるのだ。

 

 オヤジは両手で耳と頭を多い、「痛い!!痛い!!」と叫びながら、猛吹雪の中残りの500mを歩くのであった。

 

 十数分後、ようやく家にたどり着いたオヤジ。

 まずは店長に無事に到着したという連絡を行う。

 

 その日は疲れで早めに就寝。翌日は休みではあるが5時起きで外を見た。

 雪は完全に止んでいたが、除雪車が入った様子は無し。

 

 娘は仕事の関係で7時前には会社に行かないといけない。

  心配して6時過ぎに外を見たら、もうなんと除雪はされていた。

「おおっ!!除雪車!!ありがとう!!」

 

 娘が会社に行く時間になったので、娘の車に同乗してアトレーに向かうオヤジ。

 車でたった数分の距離にある場所から、オヤジは十数分もかけて、命がけで帰ってきたのだ。

 

 とりあえず、アトレーを娘のタントカスタムが停まっていた場所に無理やり突っ込ませる。

 これで後は、もう大丈夫!!

 

 8時過ぎたら除雪機で除雪をすれば良いだけだ!!

 

 8時過ぎて周りに大きな音をだしてもだいじょうぶなので、ガレージから除雪機を出して、除雪をするオヤジ。

 駐車場は30cm程雪が積もっていた。

 

 周りを見たら6時ごろから、黙々とママサンダンプで除雪する人もいる。

 

 自分の家が終ったら、向かいのおばあさんの家にも除雪を行う。

 

 今日はいつも除雪をしに来てくれる、老人会の人が来なくて、おばあさんは車も出せないので困っているようだ。

 

 こうして、約1時間30分ほどで、ようやく今日の最大の仕事を終えるオヤジであった。

 

 ある芸能人でスキーをしたくて、北海道に別荘を買って移住しようとした人がいる。

 だけどその人は、あまりの雪の多さと除雪の大変さで、北海道の移住を諦めたと聞く。

 

 昔は除雪機は贅沢品!!と購入すること自体が悪と言うイメージがあった。

が、オヤジからしたら、除雪機は北海道では無くてはならない必需品である。

 

 年を取ってきたら、当然体力も落ちる。

 今では情けないが、スコップは鉄のスコップは重い為、アルミスコップを使用している。

 

 さあ、あとはもう1年間、こんな苦労をしたら、それからはもう吹雪いたら会社に行く事もしなくて良い。

 

 そして車を他の駐車場に停めて、歩いて家に帰る心配もしなくて良いし、自由に除雪もできる!!

 

 今年はいつになく弱気のオヤジの姿がそこにあった。