オヤジの住んでいる北海道も、ここ数日は快晴が続き、雪解けが比較的進んでいた。
ココチンは家にいるのがもう飽きたようで、椅子の上で、何回もあくびをしながら暇を持て余していた。
「そろそろ始めようか。」と、オヤジは休日の遅い昼、ようやく重い腰を上げた。
今日は快晴だが、まだ風が冷たい。オヤジはS2000が収められているガレージのシャッターを開け中にはいった。
外は冷たいが、シャッターを閉めると、日差しが比較的暖かかった。
ガレージに置いてあるBOSEのアンプにウォークマンをつないで、お気に入りの音楽を流しながら作業に入る。
S2000のボンネットを開けて、工具が入っている大きな工具箱から10mmのスパナを取り出して、半年前に外したバッテリーのマイナス端子を取り付ける。
バチッ!!とバッテリーのマイナス端子を取り付けた時に、軽く火花が飛び散り、バッテリーがまだ生きている事を示した。
「さあ、かかってくれよ。」と、オヤジは期待に胸を膨らませ、エンジンキーをひねる。
シューィーーンと、回りに低いノイズ音が走り狭いコックピットのインパネが、途端に息を吹き返す。
オヤジは深呼吸を一回行い、紅いスタートボタンを押しこんだ。
ドリュ!ドリュ!
ドリュ!!
途端に、S2000の図太い排気音が辺りを轟かした。
半年ぶりに眠りから覚めたS2000をしばらく暖気させる。
その間、玄関フードの中に置いてある除雪機を、ガレージに移動させて、今年の冬に備えて、バッテリーのマイナス端子を外す。
玄関周りのスコップを片付けても、時刻はまだ2時頃。
外は快晴、となれば、もう走るしかないでしょ。ということで、オヤジは締め切ったホコリ臭い室内から臭いを消すために、S2000の屋根をオープンにさせて走り出した。
行き先はどこでも良かった。とりあえずは網走に目指して走る。
外気温は7度。
まだ外は寒いが、両側の窓を閉め切り、オープンカー特有のヒーターモードにしたら、ポロシャツ1枚でも充分に走れる暖かさだ。
ただし、頭だけは守られないので、寒い事には変らない。
オヤジはその為、のんびり。のんびり。と走り続けた。
途中、道路わきでオヤジと同年配の人が、うらやましそうにオヤジの車を見続けていた。
助手席側を見たら網走湖の湖面はまだ凍っていた。
約、30分ほどで網走の道の駅に到着。ここで一旦、停まって、オープンにしていた屋根をもとに戻す。
残念なことにデジカメの電池が切れたので、画像はここまで。
これから、オヤジのホームグランドである、湾岸線と7キロ程のストレートが続く小清水ストレートに入るのだ。
S2000はオープンカーと、スポーッカーという2面性をもつ。
これからオヤジはもう一つの顔を持っS2000の性能を試すために、ホロをクローズにして、走りだすのだ。
信号が青になる。オヤジは短めのシフトをローに軽やかに叩き込んだ。
1速。S2000はゆっくり走り出す。
そしてすぐにモーターのようにタコメーターの針が天井めがけて走り出す。
クソ重いクラッチを蹴りつけ、クイックにショートシフトが決まる。
2速。更にS2000は加速し始める。
3速。S2000はまだまだ加速を止めない。
そして、暖かい日差しの中、S2000はいつまでも、銀色に光る矢のごとく走り続けた。