早いことより、丁寧なこと。
これは僕の価値観。
遅いぞと、よく怒られた。
もういい、と途中の仕事を取り上げられた。
不器用と言われ、
僕は、雲を見ながら、土手の上を歩くのが好きになっていった。
ある日やっていた仕事は、
新築の家のガレージの掃除。
家のガレージ前に竹箒と一緒に車から降ろされた。
いつまでにどうしたらいいのかもわからないまま、
ただひたすらに掃いた。
砂埃の上に竹箒で掃いた後のすじが残り、
そして、やがて砂が一切なくなると、
コンクリートは磨かれた石のようになった。
長すぎる時間の後、会社の人の車が来て、
僕はまた車に乗って次の家へ。
その夜、その小さな会社の現場主任の人は、
アルバイトの僕を居酒屋に招いて、
「ありがとう。きれいになっていて、
見学に来たお客さんがものすごく喜んでいた」
昔むかしの話だけれど、
作業の遅い僕の仕事が
ほめられた最初の時だったかもしれない。
ゆっくりと丁寧にやりつつ、
速さや要領の良さは後から付いてくる。
慣れるほどに手を抜くようにもなる。
初めから手を抜いて、要領よくやることを覚えてしまったら、
丁寧な仕事を身につける機会を失ってしまう。
速さのない丁寧な仕事は時に認められるけれど、
丁寧さのない早いだけの仕事は、
やがて、見捨てられていくってこと。
これは、もちろん僕だけの価値観。