翻訳中、こういう一文に出会った。
the Tsarist regime continued to impose significant restrictions on private sector development
最初はこう訳した。
ツァーリ体制は民間部門の発展に大きな制約を課しつづけた
意味は合っている。だが「課しつづけた」がどうにも硬い。
なぜ硬いのか
原因は動詞の性質にある。「課す」は、一回の行為として完結する動詞である。判決を下す、罰を科す、義務を課す——いずれも、その瞬間に成立して終わる。
そういう動詞に「つづける」(続ける)を付けると、同じ行為を何度も繰り返した、という像が立つ。制約を課し、また課し、さらに課し……という反復である。だが原文が言っているのはそこではない。制約が課された状態が変わらなかった、ということだ。
英語の continued to は、こういう区別をしない。一回的な動詞にも継続的な動詞にも同じように付く。日本語の「〜しつづける」はそうはいかない。動詞の側が継続を受け入れるかどうかで、収まりが変わる。
「歩きつづける」「話しつづける」「降りつづける」——これらは自然である。もともと時間的な幅を持つ動作だからだ。「課しつづける」「決めつづける」「気づきつづける」が不自然なのは、動詞自体に幅がないからである。
四つの処理
1. 状態として言い直す
ツァーリ体制は民間部門の発展に大きな制約を課したままだった
「〜したまま」は、行為の反復ではなく状態の持続を示す。一回的な動詞と相性がよい。
- He continued to hold the position. → その職に就いたままだった
- The door continued to stay open. → 扉は開いたままだった
2. 副詞で処理する
ツァーリ体制は依然として民間部門の発展に大きな制約を課していた
継続の意味を副詞が引き受け、動詞は単純形で済む。「依然として」「なお」「相変わらず」「引き続き」。
この形の利点は、変わらなかったという含意が出ることにある。continued to は多くの場合、他が変わったのにこれは変わらなかった、という対比で使われる。上の例でも、ドイツや日本が方向転換したのにロシアだけが旧態のままだった、という文脈だった。「依然として」はその対比を自然に運ぶ。
- Prices continued to rise. → 物価は依然として上がっていた
- She continued to deny it. → 彼女はなお否定していた
3. 継続に馴染む動詞に変える
ツァーリ体制は民間部門の発展を大きく制約しつづけた
「課す」を「制約する」に変えると、「つづける」がすんなり収まる。「制約する」は状態を作り出す動詞なので、持続と衝突しない。
訳語を一つずらすだけで解決することは多い。
- continued to give support → 支援を与えつづけた(硬い)→ 支援しつづけた
- continued to make demands → 要求を出しつづけた → 要求しつづけた
4. 何もしない
そもそも訳出しなくてよい場合がある。文脈がすでに継続を示しているなら、「つづけた」は情報を足していない。
Throughout the 1890s, the government continued to resist reform. 1890年代を通じて、政府は改革に抵抗した。
「1890年代を通じて」がある以上、「抵抗しつづけた」と書く必要はない。英語が continued to を置いたのは、時間句との呼応として自然だからで、日本語では冗長になる。
「つづける」が二度出たら
今回の訳文には、同じ段落にもう一箇所 continued to があった。
the Tsarist state continued to undermine it ツァーリの専制国家は民間企業の発展を妨げつづけた
こちらは「妨げる」が継続に馴染む動詞なので、それ自体は問題ない。だが一段落に「課しつづけた」「妨げつづけた」と並ぶと、形が目立つ。
同じ処理を繰り返さないことも判断のうちである。片方を副詞で処理し、片方を「つづける」で残せば、形の反復は避けられる。英語は同じ構文を何度使っても気にならないが、日本語は形が揃うと目につく。
kept -ing の場合
continued to の親戚に kept -ing がある。こちらは繰り返しの含意が強い。
He kept asking the same question. 同じ質問を何度も繰り返した。
「訊きつづけた」でも通るが、kept には話者のうんざりした気分が乗っていることが多く、「何度も」「しつこく」のほうが近い場合がある。continued to が中立的なのに対し、kept -ing は評価を含みやすい。
The machine kept breaking down. 機械は故障ばかりしていた。
「故障しつづけた」では、壊れた状態が続いたように読める。実際には、直しても直しても壊れたということなので、「ばかりしていた」が合う。
まとめ
英語の continued to は文法的な標識にすぎず、それ自体はほとんど目立たない。日本語の「〜しつづける」は、置けば目立つ。ここに非対称がある。
だから一対一で置き換えると、原文になかった重さが訳文に生まれる。処理の選択肢は、状態として言い直す、副詞に逃がす、動詞を変える、訳出しない——この4つ。どれを選ぶかは、動詞の性質と、前後に同じ形が出ていないかで決まる。








