上杉隼人 GetUpEnglish

上杉隼人 GetUpEnglish

日常よく使われる英語表現を毎日紹介します。毎日日本時間の午前9時までに更新します。英文執筆・翻訳・構成・管理:上杉隼人

毎日更新! GetUpEnglish Updates Every Day! Since April 1, 2006 (c) 2006-2025 Uesugi Hayato(上杉隼人)


昨日のGetUpEnglishでは、『ハリー・ポッターと謎のプリンス』(Harry Potter and the Half-Blood Prince)の最後ハリーとハーマイオニーの天文台での次の会話を紹介した。
https://ameblo.jp/getupenglish/entry-12951102592.html

 

そこにハーマイオニーの
But sometimes you can be really thick.という言い方があったが、このthickは、「判断力が鈍い、気づきが悪い」ということ。

slow to understand
not very intelligent in a particular moment
being dense / obtuse


ということで、「頭が根本的に悪い」のではなく、「今この場面では気づいていない、わかっていない」というニュアンス。

次のように使われる。

○Practical Example
Don’t be thick — I was joking.
「鈍いなあ、冗談だよ」

Are you being thick on purpose?
「わざとわからないふりしてるの?」

●Extra Point 

イギリス英語ではよくこう言う。

◎Extra Example
You’re being a bit thick today.
「今日はちょっと察し悪いね」

HARRY AND HERMIONE
『ハリー・ポッターと謎のプリンス』(Harry Potter and the Half-Blood Prince)の最後に、ハリーとハーマイオニーの天文台での次の会話がある。

Harry: I’m not coming back, Hermione. I got to finish whatever Dumbledore started. I don’t know where that will lead me, but I’ll let you and Ron know where I am when I can.
Hermione: I’ve always admired your courage, Harry. But sometimes you can be really thick. You don’t really think you can find all those Horcruxes by yourself, do you? You need us, Harry.
ハリー 僕は戻らないよ、ハーマイオニー。ダンブルドア校長が始めたことを、最後までやり遂げなきゃならない。どこへ行き着くのかはわからないけど、連絡できる時はきみとロンにどこにいるか知らせる」
ハーマイオニー ハリー、あなたは勇気がある人で、ずっと尊敬しているわ。でもね、ときどき本当に鈍いところがある。まさか分霊箱を全部ひとりで見つけられるなんて思ってないよね? あなたにはあたしたちが必要よ」


ハリーとハーマイオニーのふたりはとてもいいし、このふたりが一緒になってほしかったと思うのはわたしだけではないだろう。


But sometimes you can be really thick.のthickに注意しよう。
このthickは、研究社の『コンパスローズ』にあるとおり、「(人が)鈍い、ばかな」と言いう意味だ。

明日のGetUpEnglishで、くわしく説明する。
 

11月20日(木)の自由学園明日館でのフランク・ロイド・ライトと浮世絵(『浮世絵のみかた』刊行記念講演)には多くの方にご参加いただき、誠にありがとうございました。
https://ameblo.jp/getupenglish/entry-12947644571.html


この講演を、
『浮世絵のみかた』でもご協力を賜った翻訳家、ライターの檀原実奈さん、
翻訳者、ライター、車椅子ドレスモデルの綾仁美さん、
翻訳者(ポルトガル語)、ライターの森田千春さん
埼玉県立浦和高等学校英語科教諭、翻訳者、ライターの田畑智久
の4人にまとめていただきました。

檀原さん、綾さん、森田さん、田畑さんのすばらしいレポートはこちらで読めます。

 

自由学園明日館でのフランク・ロイド・ライトと浮世絵講演会レポート

ぜひご覧ください!


【編訳著解題】フランク・ロイド・ライト『浮世絵のみかた』上杉隼人「浮世絵を救った建築家フランク・ロイド・ライト」/全文公開中!

https://note.com/sakuhinsha/n/n04703143eae2
 

フランク・ロイド・ライト『浮世絵のみかた』(上杉 隼人編訳、作品社 )好評発売中!
https://www.youtube.com/shorts/lKGjayKA6bQ

 

『Marvel Studios Cross-Sections マーベル・スタジオ クロス・セクション マーベル・シネマティック・ユニバースの内部に潜入! 断面図から仕組みまでを徹底解析』
https://www.kodansha.co.jp/book/products/0000422412
を再来年2027年1月に発売予定だが、来年1月までに訳了しなければならない。
いま必死に訳している。

先日、この表現があった。
『ブラック・ウィドウ』に出てきたThe Red Roomのことだ。

When a Widow returning from the field might be compromised, or a trainee resists the chemical suggestibility but still shows promise otherwise, she is sent for a stay in the detention cells on Level Zero until she can be reprogrammed.

任務から戻ったウィドウが不安定な精神兆候を示した場合や、訓練生が薬物投与に抵抗を示しながらなお将来性がある場合、いずれの場合も該当者は再プログラムが可能になるまで最下層(レベル0)に設置された拘禁室に入れられることになる。

ここでふと思ったが、

a Widow returning from the field might be compromised(任務から戻り精神的に不安定な兆候を示すウィドウ)[※Widowはこのレッド・ルームで訓練されて殺人兵器となった女性のこと]と、

a trainee resists the chemical suggestibility but still shows promise otherwise(薬物投与などの科学処置に抵抗を示しながらも将来性が見込める訓練生)

のふたりがいるにもかかわらず、

she is sent for a stay in the detention cells on Level Zeroとなぜ they ではなく she で受けるのか

英語ではこれは「ふたり」ではなく「ふたつの条件」として扱われているからだ。

原文の構造はこうだ。

When A, or B, she is sent to Level Zero.

ここでの she は、
「精神的に不安定なウィドウ」

「洗脳に抵抗する訓練生」

の どちらかの条件に当てはまる「ひとりの女性」 を指す。

つまり英語では、

If a woman is in either of these situations, she is sent...


と発想している。

もしここで they を使うと、

問題のあるウィドウたちと抵抗する訓練生たちがまとめて送られる

という意味に
なってしまいます。

しかし原文が言いたいのは、

条件に該当した 個人を「その都度」、「個別に処理する」という冷酷で管理的な運用だ。

そのため she(単数) が使われる。

そして、以下の例を見てみよう。

When an employee violates security protocol, or a contractor shows signs of unreliability, they are dismissed.
「社員がセキュリティ規定に違反した場合、あるいは契約スタッフに信頼性の欠如が見られた場合には、解雇される」
⬆ これは they(複数)→ 集団としての処理


対比例(The Red Roomの例と同型)
When an employee violates security protocol, or a contractor shows signs of unreliability, he or she is removed from the project.
「社員がセキュリティ規定に違反した場合、あるいは契約スタッフに信頼性の欠如が見られた場合には、その人物はプロジェクトから外される」

※ he or she は、条件に当てはまった個々の人物をひとつずつ指すため、日本語では「その人物は」とするのが自然。

上のレッド・ルームの用例では、懲罰される対象者はともに女性(すべて女性)であるので判断が一瞬むずかしくなる。

最後にThe Red Roomの例文は、

任務から戻ったウィドウが不安定な精神兆候を示した場合や、訓練生が薬物投与に抵抗を示しながらなお将来性がある場合、いずれの場合も該当者は再プログラムが可能になるまで最下層(レベル0)に設置された拘禁室に入れられることになる。

くらいに訳せる。
『Marvel Studios Cross-Sections マーベル・スタジオ クロス・セクション』は信じられないくらいすごい本だ。ご期待いただきたい。


 

『ハリー・ポッターと謎のプリンス』のダンブルドア校長とハリーの掛け合いがすばらしい。こんなやりとりがある。
 

Dumbledore: Welcome to the charming village of Budleigh Babberton, Harry. I assume right about now you’re wondering why I’ve brought you here, am I right?
Harry: After all these years, I just sort of roll with it, sir.

ダンブルドア ようこそ、魅力的な村バドリー・ババートンへ、ハリー。なぜわたしが君をここへ連れてきたのか、不思議に思っている頃だろうな。 
ハリー もう長い付き合いですからね。いまさら驚いたりはしませんよ。

 



ダウンブルドアの話し方がすばらしい。

まず、丁寧だが、どこか芝居がかっている。
Welcome to the charming village...とわざわざcharming(魅力的な)を付けるあたりにすれがうかがえる。

またI assume right about now you’re wondering...(今まさに、こう思っているだろうね)とたずねているようで、実は答えを要求していないのも愉快だ。

ハリーが口にするroll with it はイディオムで、

起きることを深く考えすぎず、
とりあえず受け入れて対応する

という意味。
次のように使われる。

○Practical Example
Things don’t always go as planned, so I just roll with it.
「物事は思い通りにならないから、まあ流れに任せてるよ」

 

prowess(名詞)は、「卓越した能力、腕前、力量」
単なる「能力」ではなく、長年の経験や実績によって身についた抜きん出た力を指す。

今日のGetUpEnglishはこの語を学習する。

不可算名詞(× a prowess)なので注意しよう。
/práʊəs/とj発音する。研究社のKODの「コンパスローズ」で音声も確認できる。

○Practical Example
She is known for her academic prowess.
彼女は学問的な卓越した能力で知られている。

The company demonstrated its technical prowess in the project.
その会社はそのプロジェクトで高い技術力を示した。

●Extra Point

こんなふうにも使われる。

◎Extra Example
Dumbledore values Slughorn not just for his academic prowess, but for his knowledge of the past.
「ダンブルドアがスラグホーンの学識の高さを評価しているだけではない。スラグホーンの過去の過去の記憶を重要視しているのだ」


このすばらしい本が届き、熱心に読んでいる。

 

Harry Potter: The Storyboards
https://insighteditions.com/products/harry-potter-the-storyboards



 

予想をはるかに超えてすばらしい。
大判で美しく、大変な迫力だ。

早速読みふける。すると、ハリーの世界の言葉があふれている。
次の描写があった。

Headmaster Albus Dumbledore Apparates Harry Potter to a small village where he introduces the young student to Horace Slughorn, former Potions professor at Hogwarts. Slughorn has been occupying a Muggle’s house to
avoid encountering Death Eaters.


このApparatesは動詞で、主にファンタジー作品、特に『ハリー・ポッター』シリーズで使われる造語。魔法のように突然現れる、瞬間移動する、テレポートするという意味を表す。この『ハリー・ポッターと謎のプリンス』に見られる通り、ダンブルドア校長はハリーとともに重要な場面でApparateする。
物理的な空間を超えて一瞬で別の場所に移動する魔法だ。
翻訳書では「姿現す」と訳されているが、ここではこんなふうに訳せるだろう。

アルバス・ダンブルドア校長はハリー・ポッターと瞬間移動(アパレート)し、ハリーを小さな村に連れて行き、そこでかつてホグワーツで魔法薬学を教えていたホラス・スラグホーンを紹介する。スラグホーンは死喰い人たちと遭遇するのを避けるため、マグルの家に身を潜めて暮らしていた。

しばらく『ハリー・ポッター』の話題が続く。
 

GetUpEnglishでは、

 

metaphorical
https://ameblo.jp/getupenglish/entry-12946657523.html

metaphorically
https://ameblo.jp/getupenglish/entry-12946655604.html

について、すでに学習したが、現在訳している本で、もうひとつ紹介したい例に出会った。

I continued to play piano throughout my teenage years and got involved in several bands. Like many young people before me and since, part of me dreamed of making music my career. After starting university, I became increasingly interested in psychology, and I started contemplating what my life would be like if I pursued that avenue instead. Soon, the metaphorical fork in the road appeared directly before me. What path should I take? To the left, a future filled with music, writing songs, making records, and touring the world perform- ing for legions of adoring fans. To the right, the ivied halls of academia: graduate school, then teaching, research, and the pursuit of scholarship.

Soon, the metaphorical fork in the road appeared directly before me.のthe metaphorical fork in the road
をどう訳せばいいか。

これを 「比喩的な意味での人生の分かれ道」 は、意味はわかるが、日本語としては少し説明臭く、比喩が死んでしまう。

ここでは metaphorical を訳さないのがコツだ。

翻訳はあくまで実務であり、定理などは成り立たないが、ここでひとつ言えるのは、


👉 metaphorical は、日本語では訳語を立てずに「比喩として自然に読ませる」のが最良
👉 「比喩的な意味での〜」は、意味は正しいが日本語としては重い

英語では metaphorical を明示しないと誤解が生じる場合があるので、こういう表現をするが、日本語では 文脈が比喩だと自然にわかるのであれば、あえて言わないほうがよい。

原文の

Soon, the metaphorical fork in the road appeared directly before me.

 metaphorical がここで担っている役割は、

実際に道路に立っているわけではない

でも 選択は差し迫っており、逃げられない


という「人生の選択」という 定型比喩だ

よって、日本語では「人生の分かれ道」と言った瞬間、すでに比喩であることは自明だ。

だから、ただ、

やがて、人生の分かれ道が、まさに目の前に現れた。
 

とすればよい。

 

metaphorical を訳していないが、意味は完全に伝わるし、日本語として美しい。

よって、この部分を訳せばこうなる。

十代のあいだ、わたしはピアノを弾き続け、いくつかのバンドにも加わった。多くの若者がそうであるように、わたしも音楽を生業にしたいという夢をどこかで抱いていた。大学に進学してからは心理学への関心が次第に強まり、もし音楽ではなく、そちらの道を選んだら、自分の人生はどうなるのだろうか、と考えるようになった。やがてまさしく人生の分かれ道が眼前に現れた。どちらの道を選ぶべきか。左には、音楽に満ちた未来がある。曲を書き、レコードを作り、世界をツアーして、たくさんの熱狂的なファンの前で演奏する人生がある。右には、ツタにおおわれた学問の殿堂がそびえ立つ。大学院に進み、教育と研究に携わり、学問を探究する人生だ。



 

最後にまとめておくと、metaphorical は英語では必要だが、日本語では不要なことが多い。
日本語では比喩だとわかる表現は、あえて「比喩的に」などとは言わずにそのまま表現する。

よい翻訳ほど、「訳していない単語」が増えるのだ。

現在、書いている翻訳学習書でもこんなことは盛り込みたいし、来年から始まる翻訳講座でも実例を示しながら講じてみたい。
 

12/8のGetUpEnglishで、

 

英語の「過去形」には「控えめな言い方」「距離を置いた言い方」「推量」あるいは「相手に対する軽い突っ込み」を表現する機能がある。

ことを学習した。

そして2015-08-14にアベンジャーズのソーとキャプテン・アメリカのやり取りを紹介したが、
https://ameblo.jp/getupenglish/entry-12950202681.html


これも同じように説明がつく。

◯Practical Example
Thor: Is that the best you can do?

「それがおまえのすべてか」
Captain America: You had to ask.
「そんなことを言わなきゃいいのに」 

 



この用法は、日本語話者にとって少し不思議に感じられるかもしれない。
なぜなら、事実としては“今”のことを言っているのに、形は過去形だからだ。

しかし英語では、過去形は単に「過去の出来事」を表すだけではない。

過去形=時間ではなく「態度」を表す

英語の過去形には、次のような機能がある。

断定を避ける
直接的な言い方をやわらげる
相手と少し距離を取る
皮肉・冗談・ツッコミをにじませる

過去形は「時制」ではなく「話し手の態度」を示すことがある
のだ。

You had to ask. も同じ仕組みだ。

直訳すれば


君はそれを聞かなければならなかった。

だが、実際の意味は:

聞かなくても分かるでしょ。
あえて聞く?

という 半ば呆れたツッコミ だ。

ここでも過去形を使うことで、感情を少し引いた位置から言って、


相手を真正面から否定しない

という効果が生まれるのだ。
 

英語の過去形③~助動詞を過去形にすることで表現できる「控えめな言い方」

昨日に引きつづき、
https://ameblo.jp/getupenglish/entry-12950207494.html
今日のGetUpEnglishでも、「現在のことを控えめにいう英語の過去形の用法」について説明する。
今日は特に助動詞を過去形にすることで表現できる「控えめな言い方」を学習しよう。

研究社の『コンパスローズ英和辞典』の巻末の文法解説にすばらしい説明がある。

ーーーーーーーーーーーーー
⑤ 現在のことを控えめにいう用法
願望・思考を表わす動詞を過去形にすると, 現在の要求ではないという「距離感」が生まれ, 厚かましさを避けた丁寧な表現になる.

例 Did you want something?
何かご入用でしょうか.

Do you want…?より丁寧な言い方.
また助動詞を過去形にすると, 断言の強さから「距離」をとることで遠回しな言い方になり, 「現在形の控えめバージョン」として使われる.

例 I might visit Japan this summer.
ひょっとすると今年の夏日本を訪れるかもしれないなあ.

I may より控えめで, 可能性はより低い.

ーーーーーーーーーーーーーー 
 

以下、might, could, would, should など、過去形の助動詞を使って「現在のこと」を控えめに言う表現を用途別に例文示す。

① 依頼を控えめにする(最重要)
● could
Could you send me the file?
ファイルを送っていただけますか。

Could you give us a printed estimate?
見積書をいただけますか。

→Can you…? よりも「丁寧」で「柔らかく」「相手に選択権を与える」感じ。

● would
Would you mind waiting a moment?
少しお待ちいただけますか。

Would you be able to join the meeting tomorrow?
明日の会議に参加できますでしょうか。

→実務・ビジネスで非常に多い。

② 提案・意見を控えめにする
● might
We might want to reconsider this option.
この案は再検討したほうがいいかもしれません。

It might be better to wait a bit.
少し待ったほうがいいかもしれません。

→We should… よりも断定を避けた提案表現になっている。

● could(可能性として)
We could start with this section.
まずこの部分から始めてもいいかもしれません。

You could try restarting the system.
システムを再起動してみてもいいかもしれません。

→「命令」ではなく、選択肢を提示している感じになる。

③ 懸念・問題提起をやわらかくする
● might
There might be an issue with the budget.
予算に問題があるかもしれません。

That might cause some delays.
それは遅れにつながるかもしれません。

→There is a problem. より角が立たない。

● could
This could be confusing for users.
これは利用者にとってわかりにくいかもしれません。

That could affect the final result.
それは最終結果に影響する可能性があります。

④ 丁寧な申し出・打診
● might
I might be able to help with that.
それならお手伝いできるかもしれません。

You might want to check with her first.
まず彼女に確認したほうがいいかもしれません

→You should… より押しつけ感がない。

⑤ would / could を使った控えめな質問
Would it be possible to reschedule the meeting?
会議の日程を変更することは可能でしょうか。

Could there be another solution?
別の解決策はあり得るでしょうか。