博物館・ジオパークで考えたこと (2)博物館でのセミナーで心掛けたこと | 地質・地理と文化 ージオサイト巡りの旅-

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思い出しながら書いているので、記事の日付が前後することがあります

 1992年10月に兵庫県立人と自然の博物館がオープンしました。公立の博物館の大きな役割のひとつに生涯教育があり、私も外部からの依頼も含めて最大で50回以上のセミナーを実施してきました。

 

 人と自然の博物館のセミナーでは各回500円程度の受講料をいただくので、それに見合った内容でないと参加していただけません。その代わり有料で参加いただいた方はリピーターとなっていただける率が高いようです。そうなると毎回違うテーマのセミナーを年に10回程度行い、それを毎年変えないといけません。その過程で、以下のようなことを心掛けるようにしました。

 

知識の切り売りはしないこと

 知識と言っても大した知識を持っているわけではありませんが、地学に限って言えば、これまで地学になじんでこられなかった人と比べると知識はあります。しかし、これまで自分が学んできたことを小出しに伝えていくのでは、いずれネタは尽きるし飽きられてしまいます。そのためには毎回のセミナーに際して事前に関連するフィールド調査や文献調査を行い、新しい素材で話をするようにしました。そうしないと結局自分自身の進歩もありません。このことはセミナーだけでなく博物館やジオパークでの活動全般に共通した事柄です。

 

まず目の前にあるものを語る

 色々な人のセミナーや解説でよく見かけるのですが、岩石の話をするときに必ずこのような岩石分類図を見せて説明する人があります。人によっては流紋岩の崖の前で、その場にない安山岩や玄武岩の話をされる方もおられます。 

教科書的な火成岩の分類法

 私の専門は岩石学なので、当然岩石の分類法についての話はしますが、このような図はあまり使いません。なぜなら、この図が出てきたとたんに地学が「暗記物」に変わってしまい、参加者は図を覚えることに一生懸命になってしまうからです。それより目の前にあるもの、野外だったら目の前の崖に見えるものだったり風景をじっくり観察し、室内だったら標本や画像をじっくり見て、そこから読み取れるものを感じてほしいのです。

 このほかに私がしないようにしているのものとして、ざっと思いつくのはたとえば以下のような事柄です。

  • 地層の露頭を見ながらプレートテクトニクスの話をする 
  • 画像も何も見せずに他地域の話をする
  • そこにない岩石や地層の話をする
  • 直接テーマと関係のない話をする
  • その露頭から直接読み取れない現象(地磁気・プレートテクトニクス・地質のなりたちなど)について説明する

身近な素材、暮らしとのかかわりから入る

 博物館などの生涯学習の場は、学校の授業とは違って系統的に地学を学ぶところではなく、また参加者の大半は地学を学んだことのない人たちです。学校などで地学の授業をする際、地学の話にできるだけ身の回り事例を加えて話をするようにしていましたが、博物館やジオパークでは身近な話をメインにして、ついでに少しだけ地学の要素を加える方が効果的なように感じています。それによって地学に興味のない人も結果的に地学の話を聞いてしまうわけで、より多くの人に地学への興味を持っていただけます。

 

セミナーに合わせた図表を作る

 室内で講義をするときには実験や観察をしたりワークショップをするのが効果的でしょうが、いつもできるわけではなく、どうしても液晶プロジェクターで内容を投影して話をすることが主体になります。その場合、よくどこかの論文で使われた図表をそのまま使っている人を見かけますが、それは元々その講演のために作られたものではないので、見づらかったり難しいことがあります。私は自分の話の流れに沿ってオリジナルな図を作るようにし、アニメーションなどもそれに合わせて作動させます。よくニュース番組で、フィリップボードを使って話に合わせて紙をめくっていくのを目にしますが、そのイメージです。

 

専門的な言葉は極力避ける

 地学用語を使用するかどうかはその場その場で色々ありますが、少なくともタイトルなどでは使用しないようにしました。地学関係で野外での露頭を観察しながら巡ることを「地質巡検」と言いますが、私は「石めぐりハイキング」へと呼び変えることにしました。当然ハンマーも持たずに参加可能な中身になりますし、現地集合で徒歩で移動しますが、それによって参加者は増えました。

 ほかに、たとえば「火山岩の分類法」だったら「火山の噴火でできた石の見分け方」にする、といった具合です。

これはある年のセミナーガイドです

 ほかにもいくつかありますが、このようなことを意識しながら生涯教育を進めることで、それなりに多くの人にリピーターになっていただきました。その人たちはその後単なる参加者から「石ころクラブ」となって主体的に動き、今年からは「石を観る会」と名前を変えて、自らセミナーを運営する独立した団体となりました。