博物館・ジオパークで考えたこと(1)「専門用語はつかわないほうがいい」について | 地質・地理と文化 ージオサイト巡りの旅-

地質・地理と文化 ージオサイト巡りの旅-

おもに近畿・中国・四国地方を中心に
地質・地形と文化の関係、訪れたジオサイトなどを紹介します
思い出しながら書いているので、記事の日付が前後することがあります

専門用語は何のためにあるのか

 ジオパークではガイドによるツアーが重要視されます。そのガイドツアーの際、専門用語は使うべきではない、という考えがあります。その一方で、地球科学で基本的な専門用語はちゃんと知ってもらうことが大切だという声もあります。果たしてどうなのでしょうか?

 当たり前のような答えですが、使ったほうが良い場合もあるし、使わないほうが良い場合もあるというのが私の結論です。

 専門用語とは、特定の分野や業界で使用される特有の用語です。ですから専門外の人にはわからないことがあります。わざわざ勉強してそんな分からない言葉を使用する意味はどこにあるのでしょうか?

それは専門用語はその分野でのコミュニケーションツールだからです。地学についてある程度理解がある人とと地学について会話をするときには、地学の専門用語を使うと話が円滑に進みます。しかし地学を知らない人が相手の場合、専門用語はその意味を説明してからでないと使えません。一旦説明しておけばその後会話が続くのであれば使用したらいいのですが、説明が難しく、その結果会話が進まないようであれば使わないほうが良いのです。

 

玄武洞で考える

 たとえば、山陰海岸ジオパークに玄武洞という有名な観光地があります。そこでは玄武洞ガイドクラブの皆さんが毎日ガイドをされています。また、ところどころに看板が設置されていて、ガイドさんの説明と看板を併用すると玄武洞のことを楽しく知ることができます。

玄武洞公園・青龍洞

 

玄武

 

 ここの見どころは

(1)玄武岩という岩石名の由来となった場所であること、

(2)見事な柱状節理があること、

(3)地球磁場の逆転が提唱されるきっかけとなった場所であること、

(4)硬い玄武岩によるボトルネックな構造が豊岡盆地に湿地を作り、コウノトリの棲息地を確保し、鞄産業を発展させたこと、

の四つがあげられます。

 このうち(1)は玄武洞のもっとも基礎的な話として欠かせないので、「玄武岩」という地学用語ははずせません。当然私も使いますし玄武洞ガイドクラブの人たちも積極的に使っています。

 (2)は「柱状節理」という言葉を使わなくても「縦に伸びた六角柱状の規則正しい割れ目」という説明で十分通じるし、使ったとしても難しくはないので、使うときもあれば使わない時もあります。

 問題は(3)で、これの説明は非常に難しく、皆さん苦労されています。私はこの玄武洞の整備をする際、思い切って地磁気に関する看板は撤去し、休憩所内のパネルだけで説明することにしました。そしてセミナーで玄武洞についてお話しするときには地磁気の逆転についての話はせず、お話しするときはそれだけ別に取り上げて話すようにしています。

 これに対して(4)の「ボトルネック」という用語は分かり易く、コウノトリや鞄産業につながる話なのでよくお話しします。

 

用語ではなく専門的内容をどこまで伝えるか

 以上のように、その専門用語をどのように使い説明するかは場合によって異なります。特に(4)の地磁気については、専門用語自体はそれほど難しくはないのですが、現象が難しいため、普段のガイド活動やセミナーとは別個に扱うことになります。 「地磁気」というのは専門用語ではあるけれど地球が磁石になっていることはほとんどの人がご存知のことで、それ自体はそんなに難しいことではありません。さらに「逆転」という言葉自体は一般用語です。しかし「地球磁場の逆転」となったとたんに難しくなるのです。それは「地球磁場の逆転」という用語が難しいのではなく「地球磁場の逆転」という現象が難しいのです。

 ジオパークの集まりではよく専門用語を使うかどうかが問題になりますが、むしろ大事なのは専門用語を使うかどうかではなく、専門的内容をどこまで伝えるかのように思います。