「あなたのようにあらゆる可能性を考えてみるのもいいけど、結局、人生はひとつの窓から眺めた方がほどよく見えるそうよ」
金持ちで仕事に縛られず木地師の研究に没頭するが、どこか空虚な主人公に、女は続ける。
「本気で見ようとしない人には意味のない窓だけど、そこから見えるものがすべてでも息苦しくはならない、それどころかどんどん世界が広がる、老いても古くなった同じ窓から見つめるものがあるのはいいわ、その点、あなたの人生は窓が多すぎて却って展望がきかない、あっちを見たり、こっちを見たりしながら、実は見るべきものを見失ってしまうタイプじゃないかしら」
電車旅が思い浮かんだ。いくつもの窓から景色を眺めるのも良いが、醍醐味は自分の席に座って車窓から流れる景色の変化を楽しむことだろう。「人生に哲学を持て」とはよく聞く言葉だが、一つの窓がその人の哲学なのだと思う。自分の中のブレないこだわりが、人生を味わう物差しとなる。