トマトが真っ赤に熟れるまで 第11章 評価 | 【税理士】社長と会社を元気にする会計事務所

 

こんにちは、松井です。

 

 

 

 

この「トマトが真っ赤に熟れるまで」は、

毎月、クライアント向けに書いている

ストーリーです。

 

 

 

 

 

きっと何かのヒントになると思うので、

少し長めですが、どうかおつきあいください。

 

 

 

 

 

前回分をまだ読んでいない人は、

是非こちらも読んでみてください。

⇒ トマトが真っ赤に熟れるまで 第10章

 

 

 

 

 

 

 

トマトが真っ赤に熟れるまで

 

 

【前回までのあらすじ】

 

  主人公の藤原和彦は、淡路島でトマトを生産する農業生産者。ある冬の寒い日、藤原のハウスに侵入したみどりは、藤原にみつかって逃げようとしてラックにぶつかったショックで記憶障害になってしまう。

 

 

 

  資金繰りに困った藤原は、融資の相談に行った銀行で、公認会計士の三浦と出会う。初対面なのに自分の状況をズバリ言い当てる三浦の心眼に心服するが、ポルシェを売ることを相談に乗る条件と言われて困ってしまう。

 

 

 

  ポルシェを藤原に売った張本人の角川のフォローもあって、三浦からのお題もなんとかクリアする。角川に環境整備について教えてもらった藤原は、すぐに実践しようと意気揚々と帰宅するが、唯一の取引先である小売店の店長からの「取引中止」の電話に無意識に快諾してしまう。困った藤原は角川に泣きついて、情熱と笑顔の重要性を教わるのだが……。

 

 

 

 

 

 

 

第11章 評価

 

 遠くで誰かの声が聞こえる。聞き覚えのある声だ。でも、そんなに親しい間柄ではない気がする。

 

 あれ、誰の声だろう。友達だろうか……? いや、友達ではないかな……。なんとなく懐かしい気もする。とてもやさしい声だ。

 

 

 

 

 

「いつまで寝てるのよ! 早く起きなさい!」

 

 けたたましい声が、頭の上から降ってきた。藤原は、驚いて飛び起きると、鬼の形相をしたみどりが立っていた。

 

「毎朝八時から環境整備をするんじゃなかったの?」

 

 

 

 

 

 慌てて時計を見ると、八時半を過ぎていた。

 

「ごめんなさい。今すぐ用意しますから」

 

「もういい! わたしの分はもう終わったから!」

 

 

 

 

 

 藤原はすぐに着替えて、妹の彩乃が用意してくれた食パンをかじりながら、慌てて作業分担表を見た。作業分担表とは、出荷場の平面図を四角で区切って(実物では新聞紙のサイズ)、いつ誰が清掃をするかを決めた分担表のことだ。

 

 掃除をしながらも、藤原は気分が落ち込んでいくのを感じていた。

 

 

 

 

 

  いつもボクは、こうだ。角川さんから話を聞いた時はあんなに気分が盛り上がって、すぐに彩乃とみどりを呼んで、作業分担表を作ったり、使っていないモノを捨てる大掃除をしたのに、三日も経つと寝坊をして、この有様だ……。

 

 ノロノロと掃除をしている藤原を見て、みどりが近づいてきた。

 

 

 

 

 

「もっと真剣にやりなさいよ!」

 

 みどりは容赦がなかった。

 

「ご、ごめんなさい。ボクって本当にダメですね……。何をやっても三日坊主で、長続きしない……」

 

 

 

 

 

 

 バシッという大きな音がして、藤原は左の頬に強い痛みを感じた。

 

「いい加減、目を覚まして!」

 

 藤原はみどりがどうしてこんなに怒っているのか理解できないでいた。

 

 

 

 

 

「……寝坊したのは謝りますけど、いきなり平手打ちを食らわせるのは、ちょっとやり過ぎじゃないですか。それに、ボクはもうちゃんと目が覚めていますよ」

 

「あなた、評価しすぎなのよ!」

 

 藤原はポカンと口を開けた。判断? いったいボクが何を評価したって言うんだ。藤原が口を開く前にみどりは続けた。

 

 

 

 

 

 

 

「今、どうせ自分なんてって思ったでしょ?」

「……は、はい」

 

 藤原は曖昧に相槌をうった。みどりが何を言おうとしているのか、全く話の流れが見えてこない。

 

「それ、いらない!」

 

 

 

 

 

 

「……いらない? どういう意味ですか? もっと自信を持てってことですか?」

 

 みどりは強く頭を振った。

 

 

 

 

 

「それも決めつけ(評価)! そうやって自分を評価するから不満が出てきたり、いろいろな事が心配になったり、今みたいに憂鬱になってため息吐いたりするのよ!

 

  判断なんてする前に、今やれることをしなさいよ! できなくて失敗した事を悔やんで、過去を引きずってないで、また明日から朝きちんと起きて、始めればいいだけでしょ!

 

  そんなどうでもいい事を反省してないで、今の掃除にもっと集中して! そんな事もわからないの? それとも、もう一発ほしい?」

 

 

 

 

 みどりは、ものすごい剣幕で怒っているのに、どこか泣いているようにも見える。まだ藤原はみどりが言おうとしていることの真意がわからなかったが、みどりが真剣なのはよくわかった。

 

「みどりさん、ボクにも理解できるように、もう少しわかりやすく丁寧に説明していただけませんか」

 

 

 

 

 

 

 みどりは、まだ何か言いたそうだったが、少し気分が落ちついたのか説明することにした。

 

「人が悩みを作る原因っていろいろあるけど、自分とか他人を評価することは、その大きな原因のひとつなの。あなたのように自分は劣っているという決めつけ(評価)が、たくさんの悩みを作り出しちゃうの」

 

 

 

 

「まだその判断って言葉がしっくりきませんが、評価することがどうしてそんなによくないのですか? ボクたちは日々、生活していく中で、あるいは仕事の中で評価する必要がありますよね。それなのに評価するなって言われても……」

 

 ようやくみどりは、藤原がどこでつまずいているのかを理解した。

 

 

 

 

「確かに今、あなたが言ったように、仕事をしていく中でする決断のように、必要な評価もあるよ。だから……」

 

 みどりは、少し考えてから話し始めた。

 

 

 

 

 

「そうね、評価しても、そこに執着がくっついてなければいいのよ。さっきみたいに、毎日環境整備をすると言っていたのに、今朝は寝坊してできなかったでしょ。

 

  それはもう単なる過去の事実なのに、過去に執着して自分を責めるのをやめなさいって言ったの。そんな事をしても、自分を苦しめるだけで、何もいいことなんてないでしょ。

 

  自分はダメだと思ったとしても、そこで終わっていればまだいんだけど、しまいにはボクはもう生きている価値がないとかって言い出しそうなんだもの」

 

 

 

 

 

 

  ようやくみどりが言わんとすることが藤原にもわかってきたようだ。

 

「じゃあ、ボクはどうすればいいんですか? 掃除に集中しろって言われても、無意識に判断して自己嫌悪に陥ってしまいそうです……」

 

「評価している自分に気づけばいいのよ」

 

 

 

 

 

 みどりは簡単に言うが、それがわかれば苦労しないのだ。

 

「いやだから、無意識に評価してしまうんですよ……」

 

「えっ、自分のことなのにわからないの?」

 

 

 

 

 

 

 みどりは、急に小さな子供を見るように、藤原を見た。

 

「わからないですよ!」

「へぇ〜……」

 

 

 

 

 バカにしているのか、心底驚いているのか、どちらとも判断がつかない曖昧な返事だった。

 

「だったらさ、まずは自分の心に意識を向けるためにも、ラベリングから始めてみたらどうかな?」

 

 またみどりの口から「ラベリング」という聞き慣れない用語が出てきた。

 

 

 

 

 

 

「そのラベリングって何ですか?」

 

「ラベリングも知らないの? あなた、いったい学校で何を学んできたの?」

 

「学校で勉強するようなレベルの話なんですか……」

 

 

 

 

 

 藤原は決して勉強が得意な方ではなかったので、学校という言葉を聞くだけで、身体が拒否反応を示すのが自分でもよくわかった。

 

「心の授業で最初に習うでしょ!」

 

 また聞いたことがないような話だったが、藤原は早く具体的な話を聞きたくて、知ったかぶりをした。

 

 

 

「……、ええ、まぁ……。ただ、忘れてしまったので、教えて下さい、先生!」

 

「心の状態を言葉にすることをラベリングって言うの。ただ、いきなり心の状態が難しければ、身体の動作を言うところから始めてもいいわ。例えば、『今、掃除をしている』とか、『今、怒られている』とかね。わたしに怒られてどう思った?」

 

 

 

 

「悲しくなりました……」

 

「だったら、『今、判断したことを怒られて悲しくなった』と声に出して言うの。必ずしも声を出す必要はないけど、最初は声に出して言って、言葉にするクセをつけた方がいいよ。ちょっとやってみて!」

 

 

 

 

 

 

 藤原は、みどりに言われたとおりにやってみた。こういう素直さは、藤原の美点だ。

 

「今、ラベリングのやり方を教わって、ありがたいなと思った。でも、ボクにできるだろうかと不安になった」

 

「それ!」

 

 

 

 

 

 

 みどりに指さされて、藤原はビックリした。

 

「それが評価!」

「あ〜! これが評価か……」

 

 

 

 

 

「うん。評価しているなと思ったら、今、評価したってわかればいいの。わかったら、そこから先にいかないでしょ。

 

 そのまま放置していたら、ボクにできるだろうか。今までもできなかったし、きっとできないだろう、やっぱりボクはダメな人間だ。ボクなんて生きていく価値がないんだ……、ってどんどん自分を傷つける方向にいっちゃう」

 

 

 

 

 

 

 藤原は、まるで自分のいつもの思考パターンをみどりに言い当てられているようでバツが悪かった。

 

「どんどん続けてみて!」

 

藤原は、言われたとおりにやろうとしたが、何を言えばいいのかわからない。

 

 

 

 

 

 

「すぐに言えなかったら、身体の動作でしょ」

 

 そうだった。年下のみどりが、学校の先生のように見える。

 

「今、立っている。……、何を言おうか考えている。……、みどりさんの顔を見ている。……、今日はそろそろトマトを収穫しないといけない。……、トマトの売り先がみつかるかだろうかと考えている」

 

 

 

 

 

「それ!」

 

 今度は藤原にもわかった。

 

「そうか、これが評価ですね!」

 

「そう! 評価しているって気づいたら、評価しているって声に出して言ってみてね」

 

 

 

 

 

 

 みどりに言われるがままにしばらく続けているうちに、藤原はラベリングのコツのようなものがわかってきた。確かにこれなら、自分にもできるかもしれない。

 

 現金なもので、藤原はたったこれだけのことで、少し元気になっていた。

 

 

 

 

「あの……、ラベリングのやり方は、これでわかりました。どうもありがとうございます。それでもどうしても気分が落ち込んでしまう時ってありますよね。そんな時はどうしたらいいかわかりますか?」

 

 

 

 

「もちろん! そんな時はね、心が縮こまっちゃってるから、広げればいいのよ。でね、心と身体はつながっているから、物理的な視野を広げれば、心の視野も広がるの。

 

 一番手っ取り早いのはね、景色のいい高い建物とか山に登って、そこから下を眺めればいいよ。単純に見晴らしのいい景色を見るだけで気持ちいいし、小さなことでウジウジしている自分がバカらしく思えてくる」

 

 

 

 

「なるほど! あっ、でもボクの場合、なかなか山に登っている時間がとれないんですよ……」

 

「だったら、スマホでもパソコンでもいいから、夜景で画像検索すればいいのよ。綺麗な夜景がいっぱい出てくるから!」

 

 みどりがいつになく優しい表情をしていた。

 

 

 

 

 

 

「みどりさんの笑顔が見られて、ボクはちょっと嬉しいと思った」

 

「そんな余計なラベリングはいいの!」

 

 

 

 

 みどりが、照れ隠しのように強い口調で言うのを聞いて、藤原は吹き出しそうになった。まだみどりは何かを言いたそうだったが、藤原の携帯電話が鳴ったのに気がついて、言葉を飲み込んだ。

 

 電話は、角川からだった。

 

 

 

 

 

「和ちゃん、おはよう! 元気?」

 

「はい、元気にしています」

 

「明日さ、ヨットに乗らへん?」

 

「えっ、ヨットですか……? 今、それどころじゃ……」

 

 

 

 

 

 角川は、藤原の言葉が耳に届いていないかのように続けた。

 

「じゃあ、明日の朝十時に迎えに行くな」

 

「いえ、角川さん、明日は……」

 

 

 

 

 

 電話は切れていた。そんな暇ないって……。すぐに電話を掛けなおそうとして、みどりと目が合った藤原は、みどりに向かってこう言った。

 

「いろいろやることはあるけど、まぁ、いいか、と思いました」

 

 

 

 

(つづく)

 

 

 

 

 

 

 

 

今回の話は、人によっては、

わかりにくいかもしれません。

 

 

 

昨夜、内容をシェアした時に、

わかったような、わからないような……

というような感想をいただきました。

 

 

 

 

もしも今回がよくわからなかった

としても、気にしないでください。

 

 

 

今回の話は、次回の話とセットに

なっているからです。

 

 

 

 

今回のはモヤモヤっとした

感じでも大丈夫です。

 

 

 

 

何かのヒントになることを祈りつつ

 

 

 

 

 

続きはこちら

⇒ トマトが真っ赤に熟れるまで 第12章

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


  松井浩一公認会計士税理士事務所
  兵庫県芦屋市宮川町1-10-304 
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