ホワイトハウス担当の欧米のテレビ局記者が質問する際の「聞き方」の説得力、本物らしさは、なぜ日本の記者と圧倒的に違うのでしょうか。その理由を知り、説得力のある「聞き方」を習得することができれば、人に影響力を与える=カリスマ性を身につけることができるはずです。

大前提として、日本と欧米のメディア産業や企業体の構造の違い以前に、育ってきた過程で、「話すこと」=Speakingにおいて受けてきた教育の質も量も、欧米と日本の教育とでは大きな差があるということは指摘しておくべきでしょう。
欧米の教育のルーツは、ギリシャにあります。ギリシャでは、弁論は「力」を意味していました。ソクラテスもプラトンも、書物を著したのではなく、彼らの弁論が現代に伝えられています。

ギリシャの文明を受け継いだローマでも、たとえば、カエサル暗殺で次期指導者の立場に立ったブルータスが、アントニウスのスピーチで一気に反逆者、裏切り者として追われる身となったことからわかる様に、言葉の力は権力を左右するという考えが、西洋文化の根底にあります。

現代英語で「洗練された」を意味するsophisticateという言葉の語源となったギリシャの哲学者ソフィストの学派では、美辞麗句と弁論の術を巧みに用いることで相手を言い負かすことが正義とされました。

その弁論術の伝統は、連綿と西洋のエリート教育の場で重視され続けて来ました。現在でも、フランスの大学入学のためのバカロレア試験では、口頭で自分の説を述べ、教授の厳しい質問に対して如何に論理的に反論できるかという、弁論のテクニックが問われます。

頭の中に課題図書の知識がきちんと入っていることももちろんですが、自分なりの説を立て、ありとあらゆる角度からその説を崩そうとする論理的な質問に対し、瞬時に自分の中にある知識を総動員して、反論をロジカルに組み立て、発話して伝える訓練を小学校からずっと繰り返すのです。

アメリカの教育でも、有名大学進学を目指すいわゆる「プレップスクール」といわれる私学では、たとえば英語では、ひとクラス最大でも10人くらいの少人数制で、大学入学のハイレベル試験であるAP試験の課題図書を何十冊も深く読み込み、授業毎にレポート提出が求められ、一人ずつ簡潔に発言し、論理的にな分析を発表して行くことで、論理的思考と弁論を訓練をします。

ローマで弁論が皇帝権力の行方を左右したように、アメリカでも大統領は、長い選挙戦の中での候補者の「弁論」の優劣によって決まっていきます。ケネディ大統領も然りですし、トランプ氏も、元は誰も本気にしていなかったところから、その弁論の巧みさによって一気に世界最高権力を手にしたのです。

アメリカでは、候補者個人の人気投票で大統領が決められて行き、民主主義システムの中でテレビが果たす役割が強い。その様な社会において、上記の様な教育を受けて来た人たちの中でも、特に弁論が得意な人たちが選ばれて残る米国のテレビ記者の質問力は、やはりずば抜けて優れています。よく日本のニュースでも、ホワイトハウスの記者たちが質問する様子が映されますが、彼らの質問が帯びる「重量感」と、かつスナイパーのように「シャープ」な感じは、そういった文化的・歴史的背景と、その中で育まれてきた教育方法が生むものなのです。

外資系企業で、人材を褒めるときによく使われる言い方ががあります。

She (he) asks good questions. 

あるいは、良い質問をしたときには、よく

That is a great question.

と褒められます。

会議では、質問の仕方も、ひとつの才能と能力を示す機会であるとみなされているので、まったく質問をしない人は、存在すら認識してもらえません。一方で、質問をたくさんすることで自分の存在感を誇示し過ぎるのも、嫌われます。飽くまでバランスが大事なのです。

そのような外資系企業社会、グローバルな舞台で一目おかれる質問力を身につけるには、欧米のテレビ局の記者を模範例に、下記の点を心がけるといいでしょう;

  • その場の話題、あるいは重要人物の人となりに関して、下調べをし、複数の説や立場を頭にいれておく
  • それらの情報をもとに、どのような質問がありうるか、想定する
  • 質問にたいして相手の回答を想定する
  • 自分が得たい内容の情報を相手から引き出すには、どのように質問を組み立てればいいのかを考える 
  • 相手に対して関心を抱き、注意を払い、観察することで、最適な聞き方を考える
  • 実際に質問する場面になったら、まずは相手の様子や話し方、他の人とのコミュニケーションの取り方に注意を払い、事前に立てていた計画の調整をする
  • 発話される内容のみならず、表情や息遣い、体の動き方などの非言語情報にも注意を払う
  • メモなどを読まずに、自分の言葉で話す
  • その時、本当に求められている答えは何かを考え、自分だけでなく、その場にいる人全員にプラスになるような話を聞き出すための質問を考える

さらに高等テクニックとしては、相手の息遣いや話す時のペース、声の高低に合わせていくと、より相手がリラックスして話やすくなることもあります。たとえば、すごく早いペースで話している人が話した後に、自分に発言の機会が巡って来たのであれば、ぐっとペースを落として、深い声で質問、ないし発言をすると、
ギャップの大きさに、周囲が「お?!」となります。早いペースでうわずった声で話されると、人間は本能的に居心地が悪くなります。そう言った人がいれば、それと対照的な深さとゆっくりさを演出することで、この人は落ち着いているな!と一目置かれるわけです。
問題は、自分がうわずってしまった時ですが、その時の対処法は、また改めてお伝えします。

いずれにせよ、全体を俯瞰し、自分がその場でどのような立ち位置を取るのがベストなのかを考え、それに合わせて質問の仕方を変えていくことで、「良い質問」をすることができるようになります。良い質問は、人を動かし、心を動かし、ひいては物事と世界を動かします。

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