「………おいしい」
味噌汁が入ったお椀を片手に、水南はこれでもかと目を丸くして呟いた。
「まあそれは良かった!」と自身の頬に手をあてた女性…まつは、嬉しそうに微笑んだ。
甲斐に滞在してから数日経ち、慶次と水南は加賀へと到着していた。
一晩泊まってからの朝餉で、水南はまつが作った手料理を振る舞われ、あまりの美味しさに感嘆していたのだ。
「やはりまつの飯は日本一だ!」とこれまた嬉しそうに笑う、慶次の叔父、前田利家。
「まあ犬千代様ったら!」と照れるまつ。
きゃっきゃうふふ、とハートがまき散らされている光景を目にしていた水南は無言で慶次を見るも、
「いやあ恋はいいねえ」とまた嬉しそうに言う彼に、なにも口出しするまい、と再び味噌汁をすすった。
未だにラブラブなやり取りをしている二人を置いて、水南は慶次に連れられて外へ出た。
「良いの?放っていおいて」
「いーのいーの!いつものことだし!」
「ふーん…?」
いつもあんななのか。北条ではあんな光景見ないからもの珍しい。
前を歩く慶次に、何処に行くのかと尋ねれば、水南に会わせたい人がいるんだ、と笑う。
今また新しく人に会うような気分ではない、と言うも、慶次は大丈夫、とまた笑った。
利家とまつは明るくて殆ど喋らなくても話が進むような人達だったのでよかったのだ。
半強制的に連れて行かれることに不満と不安を抱く水南。
小田原よりも遥かに積もっている雪に足をとられながらも歩き、ある神社へとたどり着いた。
雪掻きはされておらず、本来あるはずの石畳が何処にあるのかも全く見えない。
しかし代わりとばかりに、かなり大きな足跡と、普通の大きさの足跡が雪に記されていた。
その足跡を辿るように慶次が歩いて行く。水南も億劫に思いながら続く。
その先にいた人物に向かって、慶次が手を振った。
「おーい秀吉!」
秀吉、と呼ばれて振り返ったその風貌に、水南は思わず身を縮める。
でかい。身体が、異様にでかいのだ。慶次と同じ年くらいなのだろうか?それにしたってでかい。
その隣に居る男は逆に線が細く、一瞬女なのかと思う程色白だった。
慶次が半兵衛、と呼び、彼は半兵衛と言うのか、と認識する。
おずおずと慶次の後ろから顔を出せば、秀吉はその身体に見合わない柔らかい笑みを見せた。
「…我は、豊臣秀吉。怖がらせてしまってすまない」
「え…あ…えと…北条…水南です…」
「僕は竹中半兵衛。よろしくね、水南姫」
二人ともすっげえ良い奴だから大丈夫だ!と慶次が笑う。
慶次が言うならそうなのだろうが、いきなり会ってどうしろと。
なにを話せばいいのか分からない水南は口を閉ざす。
それに構わず、慶次は道中の話を秀吉と半兵衛に聞かせはじめた。
水南は賽銭箱の近くの階段に腰を下ろすと、三人を眺めた。
彼はなにがしたいのかわからない。ただ友人を紹介したかっただけなのだろうか。
ぼーっと話を受け流して聞いていた水南だったが、悪戯、という単語が聞こえ、思わず慶次を見る。
町でいつも酒ばかりのんで町民に迷惑をかけている親父がいて、そいつに一泡吹かせてやろうぜ、という内容。
落ち込んでいた水南だったが、彼女の性悪な本性がわくわくと顔をのぞかせていた。
慶次はこれを知っていて水南を連れてきたのだ。
慶次を含め秀吉、半兵衛はよく悪戯をして遊んでいた親友という悪友なのである。
「ふふ、水南姫も興味があるかい」
「え”…。ええと…いや」
「いっつも北条の人に悪戯ばっかりしてる奴がよく言うよ!」
「そうなのか…」
秀吉が意外そうな顔をするが、半兵衛は僕には最初からお転婆に見えたよ、と何故か自信ありげに言われる。
まあ結局は嘘なんてつけないわけで。
「ものすごおく興味あります」、と悪そうな笑顔で答えた水南なのだった。
あ、でも江雪斎には内緒ね。
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結構早い段階で水南と秀吉は絡ませる予定でした。
悩んだのは半兵衛を一緒にするかどうか…。
アニメでは慶次と秀吉の絡みが多いし重要なのは分かるんだけど、
半兵衛って昔この二人と一緒にいたのか、仲が良かったのかが分からなくて…。
ゲームは私やってないのでそこで絡みがあってもよく知らないのです。
しかしアニメで三人でこうするのも久しぶり、というようなセリフがあったし、
まあTWELVE仕様でいっか、ということで半兵衛も一緒にしました。
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