母猫さんの言った、『おかしいでしょ』って言うのに、愛ちゃんが

『そんなことない、ちっともおかしくなんかないよ。愛ちゃん、分かるよ、母猫さんたちが、人間に抱かれた時どんな気持ちだったか、どんなに幸せな気持ちになったか』って、僕には、愛ちゃんの姿は見ていないけれど、愛ちゃんが頭を振りながら、目にいっぱい涙を浮かべながら、母猫さんに言っている姿が目に浮かんだ。このシーンは、きっとみんなも同じように、浮かんだみたいで、

『泣き虫なんだから、愛ちゃんは』って、空君が言いながら、空君の目にもダイヤモンドのような涙が光っていた。

『ねぇ、その亡くなった猫さんって、城の中に入ったことがあったのかな。まるで、悪魔を見たように、二人に話していたみたいだけれど』って、僕が聞くと

『入ったことが、あるって言ってました。そして、その時に右の前足を、失ったって言っていたわ。死んでしまう覚悟で、逃げ出したって、私たちは、そんな猫さんのことを、知っているのに、二人して餌に釣られて、情けない猫なんです。いくら、私のお腹の中には、赤ちゃんニャンコがいたと言っても、私たちは、猫さんとの約束を、破ってしまったんです。だから、罰が当たったんです』って、母猫さん

『そんな、罰なんて、お腹に赤ちゃんがいたら、仕方がないわ』って、フューチャーちゃんのお母さん

『あっ、悪魔、猫さんが見たって言っていた悪魔、私たちも見ました。あのお城に住んでいる人間は、みんな悪魔です、鬼です。早く、なんとかしないと、きっと、次に犠牲になるのは、この国の国民です。だって、猫や犬がいなくなったら、その代わりは人間になるから』って、母猫さん

猫や犬の代わりが、人間になるってどういうことなんだ。いったい、城の中では何が起きているんだ。それに、仲間の声が外から聞こえると、みんな餌をもって出てきたりしているのに、逃げ出せないってどういうことなのかなって、聞くと

『私たちは、初め美味しい餌をいっぱい食べさせてもらい、睡眠をとり、体力をつけさせられました。そのみんな、自分たちは、大事にされているって、勝手に思ってしまったんです。それが悪魔の罠だなんて、誰も思っていません、だから、外で飢えている仲間の声を聞くと、餌をもって外の仲間に、多分そうすることは、計算されていたんだと思います。だから、そんな時は、出入りが簡単に出来るように、塀が低くなったり、台が置かれていたりして、全て思う壺だったんだす。でも、一度外から戻ってくると、少ししてからどこかに連れて行かれるんです。部屋を分けられてしまい、会うことが出来なくなって、私たちが係りの人間に、ニャーニャーや言うと、大丈夫、大丈夫。国王のところにいったんだよ、心配しなくていいんだよって、言われてしまう。国王のところって聞くと、私たちは、猫さんの言ったことをすっかり忘れていて、逆にいいなって思ったりして、馬鹿ですね』って、母猫さん


         つづく

僕は、父猫さんのことも気になったんだけれど、母猫さんの言った、生まれてくる赤ちゃんニャンコたちの命が、城の中にいては危険だから、同じ危険なら城の外の方が、もしかしたら生き延びることが出来るかもっていうのが、もの凄く気になったので、そのことを聞くと、母猫さんは、泣きながら深呼吸をして、気持ちを落ち着かせて、ときどき泣き出しそうになるのを、堪えながら話しはじめた。

『私に、お城から、逃げ出すようにと言ったのは、赤ちゃんニャンコたちの父親です。私たちは、お城の外にいるときから、ずっと一緒でした。私たち二匹とも、生まれたときから、野良猫で二匹とも親を知りません。多分、この国は、貧しい国なので、私たちの親は、自分たちが夫々食べて行くので、いっぱいいっぱいだったんだと思います。それは、私たち猫だけじゃなく、犬も、人間も。この国には、親のいない子供たちが、大勢いるんです。でも、私、聞いたことがあるんです。もう亡くなってしまったんですけれど、私たちのことを、可愛がってくれていた長老の猫さんがいて、その猫さんが話していたのは、この国は、昔から、決して裕福な国ではなかったけれど、みんな幸せだったって。その人間も、動物も、生き物は、みんな幸せだったって。人間の家で、猫や犬や鳥なんかも、飼われていて可愛がられていたって。ああ、親のいない子も、滅多にいなかったって、聞いたわ。私は、見たことがないけれど、蛇って言う生き物もいたって、その生き物は、今は、みんな人間が食べてしまったので、この国には、いないって言っていた。そして、猫さんが亡くなる時に、私たちは言われたの、どんなに苦しくても、城に行ってはいけないって。あの城は、恐ろしいところだからって。そして、城には、悪魔が住んでいるって。みんな、自分のいうことを信じないで、城に行くけれど、誰も帰って来ないって。城に悪魔が住みついてから、この国の人間は、かわってしまったって』

『でも、母猫さんたちは、城の中に行っちゃったんだ』って、アッちゃん

『ええ、どうしても食べるものがなくて、そんなときに、お城の人間に声をかけられたの。可哀そうに、お腹が空いているんだねって言って、何度か、餌を持ってきてくれて、私たちのこと、抱いてくれたりして、初めて人間に抱かれたの、なんだか嬉しくなったの、私たち、おかしでしょ』って、声を詰らせながら言った。


       つづく


犬さんに、難しいのではって言われたけれど、僕も空君と同じように、城から抜け出した、猫さんか犬さんがいないのかなって思った。それは、自分さえ逃げちゃえばってことではなくて、そんなことを思っていたら、アッちゃんから

『元ちゃん、そっちは、どう。こっちは、母猫さんが少し落ち着いて、みんなと話がしたいって、大丈夫』って、言ってきた。

『勿論、大丈夫、今、城の前に居るんだ』って、僕が言うと

『あの、お城の中に居る仲間に、私の声は聞こえるんでしょうか』って言った、母猫さんの声が、何か悩んでいるように聞こえた。

僕は、取り合えず、母猫さんにって、聞こえた方がいいのか、聞こえない方がいいのかを確認するまでは、僕らの会話が城の中の猫さんや犬さんに、聞こえないようにしたして、そのことを伝えた。それと、さっきの母猫さんの声は、すごく小さな声だったから、おそらく城の中には、聞こえていないだろうってことも、付け加えた。

それを聞いて、少し安心したように、母猫さんが重たい口を開いて、

『あの、私は、逃げ出してきたんです』って、

『えっ、母猫さん、お城の中から、赤ちゃんニャンコたちを連れて、逃げ出したの』って、愛ちゃんのびっくりしたような声が聞こえてきた。

『そう、でも、お城を逃げ出した時には、まだ、子供たちは、私のお腹の中に』って、母猫さん

『そんな大変な時に、危険を冒してまで、逃げ出すって、すごい覚悟をしたのね』って、エンジェルさん

『同じ危険なら、お城に外の方が、もしかしたら、生まれた子供が、生き延びる可能性が、あるかもしれないって思えたので』って、母猫さん

『それは、中に居たら、命に危険があるってことなの』って、僕が聞くと

『中は、恐ろしいところです。初めは、確かに、美味しい食事に、暖かい部屋があてがわれて、みんな楽しくしていました。そこそこ自由もあって、私たちは、あっ、私は、お城の中に行く時、夫を一緒でした。この子たちの父猫です』

『それで、じゃあ、父猫さんも逃げ出したんですか。捜さなくちゃ』って、リッちゃんが言うと、母猫さんは、大きな声を上げて泣き出した。その泣き声で、赤ちゃんニャンコたちも、向こうで泣いているのは聞こえてきた。

その赤ちゃんニャンコたちを、愛ちゃんとフューチャーちゃんとフューチャーちゃんのお母さんが、一生懸命にあやしている声も聞こえてくる。

いったい、この母猫さんたちに、何があったんだろう。



       つづく