俳句の文語文法 ㈠ | ロジカル現代文

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このロジカルな三要素によって、現代文の学習や授業が論理的になり、確かな自信をもつことができます。ぜひマスターしてください。

 

■「り」の誤用

 

 句会で目にする俳句に文法的な間違いのあることがあります。高校の国語教師として古典の文法には長年つきあってきましたので、間違いはある程度は分かりますが、迷う場合もありいくつか気になる点をまとめました。

 

 先日ある句会で次の句が出されました。

 

  種袋ぽんと叩きて蒔き終へり 

  波引きてまた打ち寄せり桜貝 

 

 「終へり」「寄せり」のそれぞれ「り」の接続に間違いがあります。この誤用はよくあるので句会ではよくお目にかかるものです。     

 「り」は「完了(~タ)」「存続(~テイル、~テアル)」の意の助動詞で、四段動詞の命令形(已然形とする説もある)か、サ変動詞の未然形に続いて使われます。

 また同じく完了、存続の意を表す助動詞として「たり」があります。こちらはすべての活用語の連用形に接続します。

 「終ふ」は四段活用ではなく下二段活用の動詞であり、〈をへ、をへ、をふ、をふる、をふれ、をへよ〉と活用し、その連用形に「をへ・たり」と続けることができますが、「をへ・り」とは続けられません。

 一方たとえば四段活用の動詞「買ふ」であれば、〈かは、かひ、かふ、かふ、かへ、かへ〉と活用し、その連用形に「かひ・たり」、命令形に「かへ・り」と続けられます。

 例句の「終へり」を字余りを避けて推敲するとすれば、意志的な行為の完了を表す「つ」を用いて「終へつ」、あるいは「終へし」が適当でしょう。「終わり」とすると文法的に誤用ではないものの、口語を混用することになり表現の統一性は損なわれます。「寄せり」の場合は「寄せぬ」でしょう。

 四段活用と下二段活用に属する動詞は、他の活用の動詞よりも共に語数が多いのですが、この二つの活用の間で誤用が生じがちな理由は、四段活用の動詞の命令形と下二段活用の動詞の連用形の語尾が、同じくエ段であり似ているからということが考えられます。

 ところで「沈む」「分く」等の動詞は、同形のまま自動詞と他動詞の違いがあり、それぞれ自動詞では四段に、他動詞では下二段に活用しますので注意が必要です。

 

 

■口語の混用

 

 さて話が少し変わりますが、同じ動詞の活用が文語と口語で異なる場合も多々あり、口語を使ってしまう混用にも注意が必要です。       

 例えば「透く」は文語では四段活用ですが、口語では五段活用と、「透ける」という語形で下一段活用にもなります。

        

  水底の透けて赤腹ひるがへり 

 

 この拙句は一見問題なさそうにも見えますが、「透けて」では「透ける」という口語の連用形になるので、「透きて」と文語「透く」の連用形にすべきところでした。

 このように中にはややこしい動詞もあるので、迷った場合は安易な類推をせず古語辞典で確かめておいた方がよいでしょう。