絵本『えんとつ町のプペル』を全ページ無料公開します(キンコン西野  つづき3 | 太陽と月のしずく

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あまやどりの店主 アリアこと 阿部直海のつぶやきブログです。

 
  おはようございます  アリアです♪
 
 
えんとつ町のプペルのつづきです。
 


 
あるしずかな夜。
ルビッチのへやの窓がコツコツと鳴りました。

窓に目をやると、そこには、すっかりかわりはてたプぺルの姿がありました。

体はドスぐろく、かたほうの腕もありません。

またアントニオたちにやられたのでしょう。

ルビッチはあわてて窓をあけました。

「どうしたんだい、プぺル? ぼくたちはもう……」

「……イコウ」

「なにをいってるんだい?」

「いこう、ルビッチ」


 
「ちょっとまってよ。どうしたっていうんだい?」 

「いそがなきゃ。ぼくの命がとられるまえにいこう」

「どこにいくんだよ」

「いそがなきゃ、いそがなきゃ」


 
たどりついたのは、ひともよりつかない砂浜。

「いこう、ルビッチ。さあ乗って」

「なにいってんだよ。この船はこわれているからすすまないよ」

おかまいなしにプぺルはポケットから大量の風船をとりだし、

ふうふうふう、と息をふきこみ、風船をふくらませます。

ふうふうふう、ふうふうふう。
「おいプぺル、なにしてんだよ?」

ふうふうふう、ふうふうふう。

「いそがなきゃ。いそがなきゃ。ぼくの命がとられるまえに」

プぺルはふくらませた風船を、ひとつずつ船にむすびつけていきました。


 
船には数百個の風船がとりつけられました。

「いくよ、ルビッチ」

「どこへ?」

「煙のうえ」

プぺルは船をとめていたロープをほどいていいました。

「ホシをみにいこう」


 
風船をつけた船は、ゆっくりと浮かんでいきます。

「ちょっとだいじょうぶかい、コレ !?」

こんな高さから町をみおろすのは、はじめてです。

町の夜景はとてもきれいでした。

「さあ、息をとめて。そろそろ煙のなかにはいるよ」


 
ゴオゴオゴオゴオ。

煙のなかは、なにもみえません。ただただまっくらです。

ゴオゴオという風の音にまじって、プぺルのこえが聞こえます。

「しっかりつかまるんだよ、ルビッチ」

うえにいけばいくほど、風はどんどんつよくなっていきました。


 
「ルビッチ、うえをみてごらん。煙をぬけるよ! 目を閉じちゃだめだ」

ゴオゴオゴオオオオ。


 
「……父ちゃんはうそつきじゃなかった」

そこは、かぞえきれないほどの光でうめつくされていました。

しばらくながめ、そして、プぺルがいいました。

「かえりはね、風船を船からハズせばいいんだけれど、いっぺんにハズしちゃダメだ
よ。

いっぺんにハズすと急に落っこちちゃうから、ひとつずつ、ひとつずつ……」

「なにいってんだよ、プぺル。いっしょにかえるんだろ?」

「キミといっしょにいられるのは、ここまでだ。

ボクはキミといっしょに『ホシ』をみることができてほんとうによかったよ」


 
「なにいってるんだよ。いっしょにかえろうよ」

「あのね、ルビッチ。キミが失くしたペンダントを、ずっとさがしていたんだ。

あのドブ川のゴミはゴミ処理場にながれつくからさ、

きっと、そこにあるとおもってね」


 
「ぼく、ゴミ山で生まれたゴミ人間だから、ゴミをあさることには、なれっこなんだ

あの日から、まいにちゴミのなかをさがしたんだけど、ぜんぜんみつからなくて……


十日もあれば、みつかるとおもったんだけど……」


 
「プぺル、そのせいでキミの体は……ぼく、あれだけヒドイことをしちゃったのに」

「かまわないよ。キミがはじめてボクにはなしかけてくれたとき、

ボクはなにがあってもキミの味方でいようと決めたんだ」

ルビッチの目から涙がこぼれました。

「それに、けっきょく、ゴミ処理場にはペンダントはなかった。

ボクはバカだったよ。

キミが『なつかしいニオイがする』といったときに気づくべきだった」

プぺルは頭のオンボロ傘をひらきました。

「ずっと、ここにあったんだ」


 
傘のなかに、銀色のペンダントがぶらさがっていました。

「キミが探していたペンダントはココにあった。ボクの脳ミソさ。

なつかしいニオイのしょうたいはコレだったんだね。

ボクのひだり耳についていたゴミがなくなったとき、ひだり耳が聞こえなくなった。

同じように、このペンダントがなくなったら、ボクは動かなくなる。

だけど、このペンダントはキミのものだ。キミとすごした時間、

ボクはほんとうにしあわせだったよ。ありがとうルビッチ、バイバイ……」

そういって、プぺルがペンダントをひきちぎろうとしたときです。


 
「ダメだ!」

ルビッチがプぺルの手をつよくつかみました。

「なにをするんだい、ルビッチ。このペンダントはキミのものだ。

それに、このままボクが持っていても、そのうちアントニオたちにちぎられて、

こんどこそほんとうになくなってしまう。

そうしたらキミは父さんの写真をみることができなくなる」

「いっしょに逃げればいいじゃないか」

「バカなこというなよ。ボクといっしょにいるところをみつかったら、

こんどはルビッチがなぐられるかもしれないぞ」

「かまわないよ。痛みはふたりでわければいい。せっかくふたりいるんだよ」


 
「まいにち会おうよプぺル。そうすれば父ちゃんの写真もまいにちみることができる


だからまいにち会おう。また、まいにちいっしょにあそぼう」

ゴミ人間の目から涙がボロボロとこぼれました。

ルビッチとまいにちあそぶ……、それはなんだか、とおい昔から願っていたような、

そんなふしぎなきもちになりました。

「プぺル、ホシはとてもきれいだね。つれてきてくれてありがとう。

ぼくはキミと出会えてほんとうによかったよ」

プぺルは照れくさくなり、


 
「やめてよルビッチ。はずかしいじゃないか」
そういって、ひとさし指で鼻のしたをこすったのでした。


 
「……ごめん、プぺル。ぼくも気づくのがおそかったよ。そうか、……そっか。

ハロウィンは死んだひとの魂がかえってくる日だったね」

「なんのことだい? ルビッチ」

「ハロウィン・プぺル、キミのしょうたいがわかったよ」


 
「会いにきてくれたんだね、父ちゃん」




 
THE END