【ショートショート】時の進むカレー屋
３月の春の前のちょっと寒い日曜日に、私は愛する彼女とインド系のカレー屋に入った。
お昼の１時過ぎに入店した私と彼女。
外はちょっと寒かったので、店内の暖房がありがたかった。
あったかい。
あったかいのはいい。
店内は異国情緒あふれる内装になってて、日本ではないような感覚に陥る。
店内に流れる音楽もインド系の独特の音で、しかも同じフレーズが何度も何度も繰り返される。
疲れた日常を忘れさせてくれるこのカレー屋「サターン」。
私と彼女が注文したのは、チーズナンがついてて、カレールーは海の幸で、ホットチャイもついてる「ネプチューンセット」だった。
チーズナンはうまい。
チーズナンはルーをつけて食べなくても、そのまま食べてもうまい。
あったかくなってきて何気ない会話をしながら料理が出てくるのを待つ私は、ふと、あることに気づいた。
この店の壁にかけてる時計をずっと見ながら彼女としゃべっていた私は、その時計が進みすぎてることに気づいた。
そもそもお昼の１時過ぎに店にはいったのだが、その時の時計の時間は６時だったのだが、注文を待つ５分間くらいの間に時計の針は７時にまで進んでいたのだ。
この時計の時間がおかしいことと、時計の針が進みすぎることを彼女に話したところ、故障してるだけでしょ、ってなんの興味も示さないようだった。
まあ、そうか、故障なだけだよな、と私も思いつつ、どんどんどんどん時が進んでいく時計。
ネプチューンセットを食べながら時計を見ると、１１時になってる。
どうやら５分間で１時間ほど時が進んでいく故障なのだろう。
なんなんだ？この時計は？
この時計すごいな、ってまた私が言っても、彼女は相変わらず関心はなさそうだ。
異国情緒あふれる内装、繰り返される不思議な音楽、時が進む時計。
そして妙に愛想のいいインド系の店員。
いつしか私は時の経過がどうなってるのかを認識できなくなっていっていた。
たらふくカレーを食べ、食後にチャイをたしなみ、店を出た時には実際の時間は３時になっていた。
２時間ほどは店にいたことになり、店の時計の針はおそらく２週ほど回っていただろう。
この時計だけは丸一日を経過していたことになる。
時の進むカレー屋。
不思議な体験だった。
不思議な体験だったというか、その後の方が不思議だったといった方が正しいだろう。
なぜか？
なぜなら、この時の進むカレー屋から出てきた私と彼女は、二人とも、一日時が経過してる感覚に陥った状態のままになってるからだ。
実際の日付は月曜日なのに、私と彼女は火曜日の感覚になる。
要は、私と彼女の間だけ、みんなより一日時が進んだ感覚になっているのだ。
実際は月曜日なのに火曜日の感覚というのは、まあ、別に生活に支障があるワケではない。
支障があるどころか、私と彼女はなんだか人より一日を先に過ごしてる感覚で、時間に余裕を感じるようになっていった。
みんなより先に一日を過ごしているのだ。
一日先の時間の経験。
あくまでも感覚の経験だけど。
時間に余裕を感じるようになった私と彼女は、心も豊かになっていった。
お互いを尊重し合い、人へもやさしくなれた。
あなたも時の進むカレー屋「サターン」で「ネプチューンセット」を食べてみませんか？
note記事：「ズバリ占星術号外第１８号 小林製薬と陰謀論」もお読みください～
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