昔のRPGは、今のものよりプレイ時間が短かかった。確か『ドラゴンクエスト』は、十数時間でクリアできたような気がする。そこで、寝台特急はやぶさ号の車内でプレイしてみた。終点の熊本に着くまでに、果たしてクリアできるのか?
(初出:ITmedia Gamez 2006年11月2日)

 

 

今年の10月30日、最新ゲーム機用にリメイク版が発売されるそうなので、一応書いておきますが、当記事にはある程度のネタバレがあります。

 

 

 

 

 

 

東京駅に寝台特急はやぶさがやってきた


最近のゲーム、特にRPGは長いものが多い。もちろん“コストパフォーマンスがいい”とも言えるのだが、時間のあるときに一気にプレイしないと、前のストーリーを忘れてしまいやすいというデメリットもある。

 

昔のRPGの中でも優れたものは、短い時間でどうプレイヤーを満足させるかを考えた、濃密なものが多かった気がする。
だからエンディングにたどり着いても、なおプレイを続けて、キャラクターのレベル上げを続けていたものだ(もちろん、ゲームの数が今より少なかったからということもあるが)。

 

今回は、昔のゲームがいかに短時間でクリアできたかを証明するために、こんな実験をやってみた。

 

「寝台特急・はやぶさ号の車内で『ドラゴンクエスト』をプレイ。終点に着くまでにクリアできるか?」

 

はやぶさは東京駅を18時3分に発車して、終点の熊本駅には翌日11時48分に着く。走行時間、実に17時間45分。睡眠時間をちょっと減らせば、『ドラゴンクエスト』だったらクリアできるんじゃないだろうか?

 

ドラゴンクエスト1 スタート画面
▲「D」の文字からドラゴンが飛び出すタイトルロゴ。「II」以降、このドラゴンはいなくなった
 

男性が列車内で仮面を着用
▲A寝台個室「シングルデラックス」にて。洗面台つき(写真は翌朝、防府付近にて撮影)

 

鉄道コム

 

17時48分、東京駅10番ホームに、はやぶさ・富士号入線。もし個室寝台にコンセントがあったら、ファミコンと携帯テレビをつないでプレイしようと思っていたのだが、なかったので、携帯型ファミコン互換機・ポケファミを使用する。文字は読めるし、ゲームをやるのに支障はないだろう。

 

横浜で待っていた悲劇

 

“ドラクエ”こと『ドラゴンクエスト』(エニックス、1986年)は、ファミコンで初めて登場した、アクション要素のないRPG(ロールプレイングゲーム)だ。西洋中世社会をモチーフにしたファンタジー世界が舞台。プレイヤーは勇者となって、ローラ姫をさらった竜王と戦うのだ。
シナリオは堀井雄二氏、プログラムは中村光一氏率いるチュンソフト。キャラクターデザインは漫画家の鳥山明氏、音楽は作曲家のすぎやまこういち氏が手がけている。

 

ドラゴンクエストのゲーム画面。レベル1、HP15、MP0
▲ローラ姫がさらわれた話を、王様本人が言わないという演出が、気丈に振舞うさまを表現していて泣かせる

 

ドラゴンクエストのゲーム画面、レベル10、HP38
▲『II』以降とはコマンド体系がちょっと異なる。宝箱の中身を取るときは「しらべる」ではなく「とる」。また、勇者は常に正面を向いており、人と話すときには向きを指定する

 

「とびら」コマンドで扉を開け、「かいだん」コマンドで階段を下りたところで車掌さんが検札に来たので、ポケファミをテーブルに置く。再開しようと思ったらバグってた。頭からやり直しだ。
実は電池が切れかけていたのだが、しばらくそのことに気づかなかった。ポケファミをテーブルにも置けず、手にずっと持ったままでプレイするはめに。

 

ドラゴンクエストのゲーム画面:レベル1、HP15、G60
▲見た目はコミカルだが、「多くの勇者が殺された」とか、「ローラ姫の捜索隊が全滅した」とか、魔物による被害は、意外に深刻だった

 

いざフィールドへ。まずはラダトーム城周辺にいるスライムとスライムベスを倒して、経験値を稼ごう。

 

ドラゴンクエストのゲーム画面:レベル1、HP14、MP0、G62、E1
▲森に入るとモンスターの出現率が上がり、山だとさらに上がる。山では険しさを表現するためか、1マス動くたびに一瞬ずつ動きが止まる

 

ドラゴンクエスト スライム出現 コマンド
▲ドラクエシリーズの人気キャラクターとなったスライム。テーブルトークRPGでは厄介な敵だが、『ウィザードリィ』や『ドルアーガの塔』など、テレビゲームでは弱いモンスターであることが多い

 

18時28分、はやぶさ号が横浜を出発してすぐに、レベルが上がった。だがここでまたも悲劇が。
うっかりリセットボタンを押してしまった。しかも、途中でメモしていた復活の呪文(パスワード)が間違っていたのだ! また頭からやり直しだ。
「はじめから、ゲームボーイ版かケータイアプリを使っていたら、こんなことにはならなかったのに」と、早くも後悔し始める。

 

気持ちを落ち着けるため、東京駅で買った弁当を食べた。九州ブルートレインには食堂車も車内販売もないから、夕食はあらかじめ買っておかなくてはならない。
あと、車内ではのどが渇きやすいので、水も多めに買った。もっともこちらは自動販売機でも買えるけど。

 

熱海で見つけた最初の洞窟

 

平塚を通過した頃からプレイ再開。レベルアップし、今度は復活の呪文を2回聞く。
今度こそ順調、と思いきや、欲張ってちょっと遠くに行ったら、ドラキーに先制攻撃を受け、HP(ヒットポイント=体力)がなくなった。
ウィンドウに、「あなたは しにました」の文字が。
ただし、死んでもお金が半分になるだけで、経験値はまったく減らない。

 

ドラゴンクエスト:あなたは死んでしまうとは、なにごとだ!
「しんでしまうとは なにごとだ」と、王様に説教されるけど

 

1986年当時のファミコンといえば、もちろんアクションゲーム全盛。非アクションのゲームは、同じエニックスが出した『ポートピア連続殺人事件』以外には、麻雀や将棋、五目並べくらい。そもそも“RPG”という単語すら、ファミコンユーザーにとっては未知のものだった。
だからファミコンでRPGを出そうとしたら、できる限り、取っつきやすいシステムにする必要があったし、「このゲーム、やってみたいな」とユーザーに思わせるだけの、魅力あるゲームにする必要があった。

 

コンピューターRPGの元祖『ウィザードリィ』や『ウルティマ』は、確かに魅力のあるゲームだが、テーブルトークRPGを知らない、しかも小学生中心のファミコンユーザーに、受け入れられるゲームだとは思えない。
(後に『ウィザードリィ』I、II、IIIや、『ウルティマ』III、IVはファミコンでも発売されるが、それは『ドラゴンクエストII』が発売された、1987年以降のことになる)。

 

『ドラゴンクエスト』では、プレイヤーが途中でゲームを投げ出すような要素は、極力取り除かれている。コマンドの数を減らし、主人公を1人だけにして、システムを単純でわかりやすいものにした。「死んだら所持金半分で復活」というシステムも、こうした親切設計の一環といえるだろう。

 

さてプレイを再開しよう。スライムを倒してレベル3になった。ホイミの呪文(HP回復)を覚えたので、これで遠出してもだいじょうぶだ。
19時35分、はやぶさ号が熱海に入った頃、勇者はロトの洞窟に入った。たいまつをつけて迷路を照らす。この洞窟に敵は出てこない。

 

ドラゴンクエストのゲーム画面
▲たいまつで迷宮を照らしても、ごく狭い範囲しか見られない。下の階に進むとBGMのピッチが低くなり、より深い所に入った感じが出る。どちらの要素も『II』以降はなくなっている

 

石板を見つけ、ロトのメッセージを読んだはいいが、地上に出てすぐ魔法使いに遭遇。ギラ2発食らって死亡。

 

静岡を出てマイラの村へ

 

その後、沼津でレベル4、富士を出てレベル5となる。20時8分、静岡を過ぎたところで画面が映らなくなり、ようやく電池の減りに気づく。
電池を交換してからは、快適にプレイできるようになった。テーブルに置いてもバグらない。

 

21時、本日最後の車内放送を聞いている間にレベル6になった。銅の剣も買えた。
ゴーストもドラキーも一撃で倒せるようになったので、意を決して橋を渡った。メイジドラキーのギラにてこずったが、無事マイラの村に到着。リューマチに効く露天風呂がある。

 

『ドラゴンクエスト』に出てくる町はそれぞれ、個性的な景色を持っている。この露天風呂以外にも、昔語りの町ガライとか、湖の中にあるリムルダールとか。
ストーリーに関係しない、町の風景に凝ったことによって、この冒険の舞台・アレフガルド大陸が、“ゲームのための世界”という感じのしない、魅力ある世界になっているのだ。

 

ドラゴンクエストのゲーム画面、レベル6
▲もっとも、マイラの村の露天風呂は、まったくストーリーに関係しないわけではないけれど

 

ドラゴンクエストのゲーム画面、ステータス表示

▲「ゆう帝」こと、作者の堀井雄二さん登場。週刊少年ジャンプのライター仲間だった、ミヤ王(宮岡寛氏)と、キム皇(木村初氏)も登場する

 

岩山の洞窟に向かうが、途中の道で、がいこつに遭遇して大ダメージを負い、撤退。21時30分に浜松を出てから、これを何度か繰り返し、やっと洞窟に入ったときには豊橋にいた。22時。
洞窟でメーダを倒したら、レベル7になった。ラリホー(敵を眠らせる呪文)を覚えた。がいこつにラリホーを使ったら効いた。“アンデッドに催眠魔法は通用しない”という法則は、『ドラゴンクエスト』にはない。

 

この頃になると、並行して2つ~3つの迷宮に入れるようになる。どれを先に攻略してもいい。ストーリーのつながりよりも、“未知の洞窟、未知の土地を探検する楽しさ”を重視しているようだ。

 

名古屋でいろいろ考えた

 

22時45分、名古屋着。停車中にレベル8になった。装備は鉄のオノと鉄のよろい。

 

ふと感じたのだが、『ドラゴンクエスト』は、
“レベルが上がると強くなり、今までてこずっていた敵を簡単に倒せて、もっと先へと行けるようになる”
という、コンピューターRPGが本来持っていた楽しさを、ダイレクトに味わえるゲームだといえないだろうか?

 

『ウルティマ』のフィールド移動に、『ウィザードリィ』の戦闘を組み合わせる一方で、ゲームバランスや、ゲーム全体の雰囲気など、『ドラゴンクエスト』独特の要素も多い。

 

ドラゴンクエストのゲーム画面
▲ラダトームの城のMP(マジックパワー=魔力)回復おじさんは、『ウィザードリィ』の馬小屋を思い起こさせる

 

グラフィックや音楽といった、従来のRPGではあまり重視されなかった要素に凝っていることも、雰囲気作りにひと役買っている(もちろん鳥山明氏と、すぎやまこういち氏によるところが大きい)。『ドラゴンクエスト』はこれらの分野でも、のちのゲームに多大な影響をもたらすことになる。

 

アクションゲーム全盛のファミコン界で、『ドラゴンクエスト』は150万本も売れるヒット作となった。『ドラゴンクエスト』の成功によって、ファミコンに数々のRPGが誕生する。現在でもRPGは、家庭用ゲームでいちばん人気のあるジャンルだ。

 

23時7分、岐阜着。魔導師のラリホーとギラ、メトロゴーストのギラに苦しみ、1回死亡。でも再挑戦してレベル9に達する。レミーラを覚えた。

 

ドラゴンクエストのゲーム画面:レベル9、HP22、MP33
▲レミーラは、たいまつより広い範囲を照らせる光の呪文。ただし時間が経つにつれ、照らす範囲がだんだん狭くなる

 

沼地の洞窟を通って、リムルダールの町へ行く。鍵を購入。日付が変わって深夜0時35分、京都駅停車中に太陽の石を発見。
ガライの町を探検し、1時8分、大阪駅停車中にレベル10になった。マホトーン(敵の魔法を封じる呪文)を覚えた。
しかし、リカントにラリホーをかけたところで、自分が眠くなってきた。ここでいったん寝ることにしよう。この続きはまた翌朝に。

 

ドラゴンクエスト レベル9 リカントにラリホー
▲リカントにはラリホーが有効なのだが、「ねむっている」と表示されると、私自身にも睡魔が……

 

後編に続く)

 

※寝台特急はやぶさは、2009年に廃止されました。

 

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