ピェール・デルヴォー
「新世界」、「未完成」
曲目/
ドヴォルザーク:交響曲9番Op.95「新世界より」*
1.第1楽章 アダージョ - アレグロ・モルト 8:40
2.第2楽章 ラルゴ 11:22
3.第3楽章 モルト・ヴィヴァーチェ 7:11
4.第4楽章 アレグロ・コン・フォーコ 11:08
シューベルト/交響曲第8番ロ短調D.759「未完成」
5.第1楽章 アレグロ・モデラート 9:10
6.第2楽章 アンダンテ・コン・モート 10:41
指揮/ピエール・デルヴォー
演奏/コロンヌ管弦楽団
録音/1961年12月12日* サル・ワグラム パリ
東芝 ASD-1 (原盤2YJ1634 1S、1635 1S)
ネットを検索してもこのデルヴォーの「新世界」に関する情報は皆無です。もともとのオリジナルは仏デュクレテ・トムソンのLPで、SCC−505という番号で発売されていました。これをイギリスではワールド・レコードクラブという会員制の通販会社からSX−104として発売されていたようです。下がそのジャケットです。
若きデルヴォー44歳の時の録音で演奏は非常に個性的で粋な「新世界」です。国内版は1970年には梅されていますが、その時の状況をブログ仲間のyasitakaさんが以下のような情報を寄せてくれています。「東芝盤デルヴォーは同社がまだ廉価盤を出していない時期に限定盤として出た3枚の内1枚で、後の2枚はフランソワのベートーヴェン3大ソナタ、クルツのチャイコフスキー3大バレエでした。このうちのフランソワを買った記憶あり。1000円盤を出すべきか迷っていて、売れ行きを見るために試験的に出したのかもしれません。」ということで、この時はASD-1という番号で1,200円盤で発売されています。
この時点では「セラフィム」のレーベル使用は考えられていなかったようで、エンジェルマークが使われています。ちょいと見にくいですが、下に四角く囲われて「「ENREGISTREMENT Ducrete-Thomson」と表記されています。なを、レコードの解説は津守健二氏が1970/5という署名で書いています。
演奏は実にキビキビとしたもので、若々しさに溢れています。この時代ですから、提示部のリピートはありません。ひたすらに早いテンポで突き進んでいきます。ただ、木管の旋律はくっきり浮かび上がらせ、聴きやすい演奏になっています。
第2楽章は、感傷的にはならず淡々と哀愁のメロディを紡いでいきます。インテンポでありながら、管の奏者はさすがフランス、腕っこきが揃っているので安心して聴いていられます。
第3楽章も速くメリハリのあるテンポで進んでいきます。決してアンサンブルが優れているというわけではありませんが、締めるところはきっちりと締めるデルヴォーの棒捌きでかっちりした形式美の中でスケルツォをまとめています。そこには音楽の流れも至極躍動的に表現されています。
そして、最終楽章になだれ込んでいきますが、導入後はやや溜めを作りながらもしっかりとメロディを歌わせながらも手綱を引き締めながらあまり店テンポを上げすぎないように指示のアレグロ・コン・フォーコを抑え込んでいます。ちようどこの頃ケルテスがVPOとこの曲を録音していますが、3楽章まではケルテスより速いテンポで組み立てていますが、この第4楽章だけはじっくりと音楽を組み立てていて、最後にエネルギーを爆発させているのです。それが証拠に最後のコーダの部分はデルヴォーのエネルギーが爆発しています。最初にこの演奏を聴いた時はまさに「あっと驚く為五郎!!」状態でした。何しろ通常演奏ならコーダは最後の和音はトゥッティで奏されるも弦楽器は音を短く切り、管楽器だけがフェルマータで伸ばされつつディミヌエンドしながら で消え入るのが当たり前ですが、デルヴォーはディミヌエンドを無視して強奏のまま終了するのです。ケルテストどう時代にこういう演奏がありながらそれが全く話題にならなかったのはどうしてなんでしょうなぁ。個人的にはメンゲルベルクの「第九」とともに殿堂入りの名盤になりました。まあ、聴いてみてください。今の指揮者で、こういう冒険的演奏する指揮者はいないでしょうなぁ。
この「新世界」は当時のカッティングですから第4楽章はB面の1曲目にカットしてあります。で、続いてシューベルトの「未完成」が始まるという寸法です。
未完成は第1楽章はアレグロ・モデラートで第2楽章がアンダンテ・コン・モートとなっています。ところが1970年代ごろまでの演奏は両方の楽章ともアンダンテのテンポで演奏する演奏の多かったこと。この溜め、名曲と言われるこの曲をなんてかったるい演奏なんだろうと思い、聞くのを諦めています。多分ベームとかクレンペラー、ワルターらの巨匠の演奏を聞いてそう思ったのだろうと思いますが、レコード時代は一枚も「みかんい」のアルバムは持っていませんでした。その代わり、好んで当時は第9番と呼ばれた「ザ・グレート」ばかり聴いていました。
多分当時このデルヴォーの「未完成」を耳にしていたらそういう感想は思わなかったでしょう。ここでは「ザ・グレート」と同等の感覚で聞いていたでしょう。それほどこの第1楽章は「アレグロ・モデラート」で突っ走っています。少しもテンポが重くならず、さりとて、ちゃんとロマン派の響きを漂わせながら音楽を構築しています。そこには「新世界」と同様に音楽にメリハリがあり、歌があります。キレの良いスタッカートでメロディを受け流し、句読点のしっかりした音楽を紡いでいます。こういうシューベルトなら大歓迎です。
第2楽章はちゃんと対比的にアンダンテでしっかりとメロディを歌わせています。さりとて、ムード的には流れず木管楽器をしなやかに歌わせながらフランス式ぱさんの響きもしっかりと感じることができます。なかなか味のある演奏です。こういうシューベルト、どこかで聴いたことがあると思ったらペーター・マークの演奏で聴き親しんでいました。1960年代から70年代の主流でないところではちゃんとこうした古典の延長のシューベルトの演奏が脈々と息づいていたんですなあ。大手のレコードメーカーの演奏だけを聴いていてはこういうところには気が付かなかったわけです。ただ、このデルヴォーの演奏、「新世界」でもそうだったのですがちょいとティンパニを派手に叩かせすぎています。それだけがこの演奏の難点といえば難点でしょうか。
デルヴォーはコロンヌ管弦楽単離常任を1958年から1992年まで続けていましたが、その業績はほとんど世間では認識されていません。弱小メーカーカーからCD-Rの形でポツポツと復刻されてはいるようですが、まとまったものは見かけたことがありません。membranあたりが出してくれても良さそうなのになぁ。