ジュリーニ/ベルリンフィルの第九 | geezenstacの森

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ジュリーニ/ベルリンフィル

ベートーヴェン/第九

 

ベートーヴェン:交響曲第9番ニ短調Op.125『合唱』

1. Allegro ma non troppo, un poco maestoso    17:06

2. Molto vivace    12:57

3. Adagio molto e cantabile    18:33

4. - 1. Presto    7:21

4. - 2. Presto - "O Freunde, nicht diese Tone"    19:43

 

指揮/カルロ・マリア・ジュリーニ
ソプラノ)ユリア・バラディ
メゾソプラノ)マルガリータ・ツィンマーマン
テノール)ライナー・ゴールドバーグ
バリトン)ジークフリート・ローレンツ
エルンスト・ゼンフ合唱団
ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団

録音/1989/2/15.16、1990年 フィルハーモニー、ベルリン

 

DG 4792225

 

 

 この一枚も「ベルリンフィル・グレートレコーディング」という8枚組のセットに含まれているものです。再発売という事で市販のCDのようなデジタル録音の表示はありません。まあ、1990年代の録音で今更アナログ表示もないでしょう。それにしても、ジュリーニがDGにベルリンフィルを振ってこんな録音を残していたとは知りませんでした。ジュリーニはすでにロンドン響とベートーヴェンの第九を録音していたからです。そして、この録音は1989年から1990年に録音されているという、まさにベルリンの壁の崩壊とリンクしている録音でもあるのです。ベルリンの壁の崩壊は1989年の11月9日でした。また、カラヤンが亡くなったのは1989年の7月だから、その前後、ということになります。

 

 第1楽章の第一主題の前提示の五度の和音から非常に細かに神経を尖らせていて、かなりリハーサルをしてから録音に臨んだことがわかります。最近はこういうどっしりとした響きの演奏がほぼないですからねぇ。ゆったり目のテンポでありながら、ブルックナーほどの粘着的なテンポ設定ではなく巨匠風の風格のある進行です。さすがベルリンpoで音の振幅・強弱の幅が大きく、またジュリーニ流レガートもしなやかに取り入れながら芳醇な音楽を奏でています。コーダは圧巻の出来。第2楽章の想いながらも切れのある演奏も見事。
 ピリオド楽器のスタイルの演奏ではこの第3楽章はあっさりとした演奏で何の情緒も感じさせないものが多いのですが、このゆったりとしたテンポの演奏は往年の大指揮者たちの演奏をほうふつとさせます。今の指揮者ではこの音は出せないだろうなと思わせる厳粛さと軽やかさが同居した見事な演奏です。どのオーケストラからも愛されたジュリーニですが、こういう演奏を聴いているとそれは何となくわかります。ただ悠然と音楽を愉しむだけでなく、明確なヴィジョンが指揮者から提示され、それを音にした時の奏者の驚きと嬉しさが感じられる。もともとヴィオラ奏者だったジュリーニで弦楽器の歌わせ方が巧いし、歌心のあるカンタービレがジュリーニの特徴です。

 

 それだけでなく木管楽器の浮き立たせなど楽譜の読み込みも深く、かゆいところまで手が届く音楽づくり。この演奏を聴いていると晩年のクレンペラーの演奏に、イタリア人の熱さと歌を加えるとこんな感じになるのかもと思わせます。ジュリーニはクレンペラー時代のフィルハーモニア管弦楽団との共演も多かったので、老巨匠から学んだことも多かったはずです。ジュリーニの指揮ぶりは意外とアグレッシブで、右手の肘を中心に右左と力を込めて振ります。晩年まで変わらなかったです。

 結構評価が分かれる第4楽章。祝典的に演奏されることの多い楽章を、ただ純粋な声楽曲的でポリフォニックな演奏になっているからです。私はありだと今でも思います。合唱団もかなりレガートで歌わせています。最初聴いたときには確かに踏み外しが無いかなと思ったものでした。今聴くと結構個性的な音楽づくりをしていることに気づきます。重心は依然低く、最後の1音までどの音符もおろそかにしない姿勢を強く感じます。

 

当時のコンサートでのカーテンコール

 

 実演でのこの時の演奏はソプラノのユリア・バラディの声がひときわホールに響き渡っていたという評を呼んだことがありますが、その部分の修正が1年後に行われたと推測します。

 

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 下は1994年RAI国立交響楽団との第九の模様です。実演での指揮ぶりが今では懐かしいですなぁ。

指 揮 者 : カルロ・マリア・ジュリーニ 管 弦 楽 : RAI国立交響楽団 ソプラノ : シャルロット・マルジョーノ メゾソプラノ : ハンナ・シュヴァルツ テノール : ジェームズ・ワーグナー バリトン : ハンス・ゾーティン 合 唱 団 : サンタ・チェチーリア国立音楽院合唱団