小林清親 東京名所図
謎解き浮世絵叢書
監修:町田市立国際版画美術館
解説:桑山童奈 河野結美 湯川説子
出版:二玄社
小林清親の名前を初めて知ったのは2013年に「UFJ貨幣資料館」で開催された「広重 名所江戸百景ー広重画業の集大成~四季折々、浮世絵の楽しみ」という企画展でした。そこではこう紹介されていました。
“小林 清親(こばやし きよちか、弘化4年8月1日〈1847年9月10日〉 - 大正4年〈1915年〉11月28日)とは、版画家、浮世絵師。月岡芳年、豊原国周と共に明治浮世絵の三傑の一人に数えられ、しばしば「最後の浮世絵師」、「明治の広重」と評される。”
「光線画」の作者としても知られています。
そして、この本は町田市立国際版画美術館監修に依る、小林清親そのものの《東京名所図》の作品集です。本書はこうした清親の世界を余す事無く堪能出来ると同時に、明治時代の東京の姿を垣間見る事が出来る著書として非常に優れた仕上がりとなっています。
目次
『東京名所図』の世界――懐かしき東京への誘い
『東京名所図』散策ルート・マップ
1 不忍池畔雨中図 水面の三色の点々は何?
2 上野公園画家写生図 絵を描いているのは、誰?
3 第二回内国勧業博覧会内美術館噴水 なぜ絵の中に文章がある?
4 浅草寺年乃市 洋風建築の向こうにあるものは?
5 今戸橋茶亭の月夜 水の動きがわかるのはなぜ?
6 今戸夏月 夜空に見える「く」の字は何?
7 梅若神社 輪郭線がないのはなぜ?
8 東京橋場渡黄昏景 大切なのは、何色の面?
9 向島桜 桜の下の男は何をしている?
10 東京小梅曳船夜図 清親がこころみた挑戦とは?
コラム 『東京名所図』制作の舞台裏――版元と署名
11 柳嶋日没 光の色は、どんな色?
12 御厩橋之図 橋の上に見える奇妙な光は何?
13 千ほんくい両国橋 誰かの浮世絵に似ている?
14 五本松雨月 空に浮かぶ雲はどう描く?
15 東京新大橋雨中図 水平線はどこにある?
16 大川岸一之橋遠景 そんなに急いでどこへ行く?
17 両国雪中 元両国広小路 広小路を描いた狙いとは?
18 浜町より写両国大火 清親は火事を写生した?
19 両国焼跡 署名があらわすのは清親の心情?
20 柳原夜雨 車夫と犬に目を奪われるのはなぜ?
コラム 闇と光――清親の挑戦
21 御茶水蛍 奥行きのある風景を描くには?
22 九段坂五月夜 清親の雨にないものは?
23 本町通夜雪 小さな犬の大切な役割とは?
24 海運橋(第一銀行雪中) この建物を設計したのは誰?
25 二重橋前乗馬兵 遠くのものはどう描く?
26 虎乃門夕景 不思議な光景に見えるのはなぜ?
27 東京銀座日報社 モダンな風景の中の江戸情緒とは?
28 新橋ステンション 駅は何のためにある?
29 高輪牛町朧月景 清親は高輪でスケッチした?
30 大森朝乃海 江戸と東京の大森の違いとは?
作品目録
美術館紹介
本書では全部で30の作品を収蔵しており、その一つ一つについて全図と拡大図、また今現在の写真、更には当時の古地図と現在の地図を紹介しており、どの角度から描いた作品かという視点も示しており、実に丁寧な編集をしているのが際立っています。特に、現在の地図については「恐らく清親がここからの景色を描いたであろう」という推定の基に丸印を付ける等、中々面白い工夫も見られるし、文章も丁寧で解り易く、然もカラー図版が極めて良質に装丁されています。
尚、小林清親と言えばこうした名所図と同時に風刺画でも才能を発揮した画家です。さすがに人物の捉え方、その表情の豊かさ等は描かれた人々が単に名所のエキストラでは無いという事も実感出来、非常に興味深く感じられたと同時にこういう作品も描いていたのかということを知れたことも大きな収穫でした。
下は光線画を標榜したサヒンです。月明かりを雲の切れ間から描きその光越しに川越の人物をシルエットで描きとる手法は独特のものです。そこには夜の静寂感と共に切り取った景色の中に寂莫感をも演出しており、独特の印象を残します。
広重もいいのですが、この小林清親を取り上げた展覧会がどこかで開かれるのを待つことにします。