ポール・モーリア45回転LP
「フィーリング」
曲目/
1.友よ静かに死ね
2.フィーリング
3.メイビー・サムデイ
4.妖精コマネチのテーマ
5.悲しみのフェルナンド
6.ロック・オペラ「エベロンの愛と生涯」から「祖国世泣かないで」
7.ピアノ・スター
演奏/ポール・モーリア・グランド・オーケストラ
録音:1977 ダーム・スタジオ、パリ
E:ドミニク・ポンセ
マスター・チェック/小川正雄
カッティング・エンジニア/長谷川正
フィリップス 45S-14
捕獲して最初に聴いたのがこのポール・モーリアの45回転LP「フィーリング」でした。雑誌の無線と実験別冊 「オーディオ・チェックレコードのすべて」誠文堂新光社 1976年に掲載されているチェックマークを採用して小山正雄氏が解説を書いています。この雑誌は今では古書店でたまに目にしますがも当時はバイブルみたいなものでした。この本の中で表立ってはオーディオ用と謳われて発売されたわけではなかったのですが、和田則彦氏が言及していたレコードにソニーがダブルシリーズで発売していたオーマンディ/フィラデルフィアのCBS/SONY SONW-20095~6というレコードがあり、ベルリオーズの「幻想交響曲」とサン・サーンスの「オルガン交響曲」がカップリングされていました。レコード芸術はこのレコードは酷評していましたがオーディオ誌はちゃんと評価していたんですなぁ。何がすごいかというと超重低音まできっちりとカッティングされていたのです。曰く、
SX-68 導入の頃から CBSソニー静岡工場に”悪乗りカッティングの巨匠”がいて、米CBSからのマスター・テープに低域を減衰させてカッティングするよう補正カーヴの指定があったのを、あえてそのまま切ってのけたという神話がある。・・・(これらの盤は当時の)大賀社長も自邸装置のデモ盤に採用しておられるほどの木目状重低音音溝だ。
というのです。まあ、この話は実際にこのレコードを所有していた小生はまさに同感の至りで、すざましい音がしたものです。
話がそれましたが、そういう体験があるのでオーディオチェック・レコードには目がありません。このポールモーリアの45回転LPは1977年から78年にかけて10枚発売されています。そのリストは以下のようになります。
- エーゲ海の真珠・シバの女王 ポール・モーリア (1977年 45S-1)
- オリーブの首飾り・恋のアランフェス ポール・モーリア (1977年 45S-2)
- 涙のトッカータ,イエスタデイ・ワンス・モア ポール・モーリア (1977年 45S-3)
- フィーリング/ポール・モーリア (1977年 45S-14)
- そよ風のメヌエット/ポール・モーリア (1977年 45S-15)
- 聖母の宝石/ポール・モーリア (1977年 45S-29)
- 禁じられた遊び/ポール・モーリア (1977年 45S-30)
- 007/私を愛したスパイ〜ポール・モーリア (1978年 45S-34)
- 夜明けのカーニバル/ポール・モーリア (1978年 45S-35)
- 愛のサンバは永遠に/ポール・モーリア (1978年 45S-36)
ポール・モーリアのレコーディングはパリのダーム・スタジオというところでほとんど録音されています。専任のミキシング担当はドミニク・ポンスですからサウンドが一貫しているところがすごいところです。ここでは1975年から77年にかけての録音からピックアップしてチョイスされています。ただ、曲目からするとちょっと地味目の作品が多いのでシリーズの中ではちょっと目立たない一枚であったようで中古でも出物が少ないものになっています。
さて、選曲にあたってはオーディオ評論家の小川正雄氏がレコードとマスターテープを比較試聴し、最良のマスターを1977年10月20日にあったビクター・カッティングセンターで制作したものをプレスしたものです。この時は同時に発売された「そよ風のメヌエット」その時のカッティング・システムは以下のようになっています。
テープレコーダー/スチューダーA-80Mk2
プログラム・コントローラー/ノイマンSP-75
カッティングレース/ノイマンVMS70
カッター・ヘッド/ノイマンSX-74
カッティング・アンプ/ノイマンSAL-74
モニター・スピーカー/JBL4331
勿論リミッターは使用せず、カッティングレベルも+11dBというハイスペックで、充分なトレースラインを確保するために片面最大12分に収めてあります。そういう代物ですから、CDの高域2万Hz以上カットという音質とは比べ物にならない高域特性を持ったシャープで伸びのいい高音域を楽しむことが出来ます。
最初は「友よ静かに死ね」です。これはアラン・ドロン主演の1977年の映画でカルロ・ルスティケリが作曲しています。イントロのドラムソロからして強烈でポール・モーリアは主題のメロディにいろんな楽器を被せてきて粋なアレンジを施しています。
タイトル曲の「フィーリング」はブラジルのシンガーソングライター、モーリス・アルバートの曲で、日本ではファイ・ハイ・セットがヒットさせましたがもともとは「愛のことづて」という邦題もついています。失恋した男性が女性に向かって未練悲しく歌う曲になっていますから大きく盛り上がることのないバラードです。まあ、チェックはチェンバロの響きとストリングスの掛け合いでしょう。
この曲が映画「キング・コング」の曲とはにわかに信じられないのですが、手元にあるサントラを見返してみるとその2曲目にこの曲が収録されています。ただ、1分半ほどの曲なのであまりイメージが湧きませんでした。それがポール・モーリアの手にかかるとここまで素晴らしい曲に仕上がるという見本でしょう。
多分この時期知られていたのはこの「妖精コマネチ」のテーマではないでしょうか。元々は1971年の米映画『動物と子供たちの詩(Bless the Beasts and Children)』(スタンリー・クレイマー監督)の挿入曲“Cotton's Dream”として、ペリー・ボトキンJrとバリー・デ・ヴォーゾンによって作曲された曲です。それが、1976年のモントリオール・オリンピックで「10点満点」を連発したルーマニアの「妖精」ナディア・コマネチがTVに登場する場面でしばしばこの曲が使用されたことから、“Nadia's Theme”として再評価され、イージーリスニング系アーティストの競作となったものです。下の冬芽の中ではこの曲の聴きどころも紹介されていますからチェックしてみてください。
不思議なのはミュージカルの「エビータ」がここではロック・オペラとして紹介されていることです。まあ、マドンナが主演して映画がヒットしたのは1996年ですから、この70年代ではそれほど知られていませんから仕方のないことです。いち早くこういう曲を取り上げているところもポール・モーリアのスゴいところです。
最後に取り上げるのはポール・モーリアのオリジナル作品です。もちろんピアノはポール・モーリア自身が弾いています。まさに「ピアノ・スター」です。ピアノの特徴的なリズムが全編を支配していますが、歌詞のない曲という意味ではポール・モーリアの構成力が試されていると言ってもいいでしょう。アレンジの妙が楽しめる曲です。CDは60分以上の曲を聴くことができますが、45回転で切れ味鋭いアナログのサウンドはコレはコレで聴くものを興奮させてくれます。両面聞いても30分。コレぐらいの長さの方がいかにも音楽を聴いたという満足感に浸れます。
下で紹介しているのはこのアルバムの元となっている2枚のオリジナルLPレコードです。