カラー版 名画を見る眼 Ⅰ | geezenstacの森

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カラー版 名画を見る目 Ⅰ

-油彩画誕生からマネまで

 

著者:高階秀爾

出版:岩波新書

 

 

 名作はどのように生まれたのだろうか? 本書は,西洋絵画の本質について一歩進んで理解したいとする人びとの願いに応えて執筆された,西洋美術鑑賞の手引きである.一枚の絵に隠された芸術家の意図,精神性を探りながら歴史を一望する.Ⅰ巻では,油彩画の誕生からマネまで,一五人の画家と一五の名画を丁寧に解説する.---データベース---

 

 

 初版が発売されたのは1969年です。当時は青版と呼ばれるもので、もちろん白黒印刷での出版でした。その後2023年5月にこの赤版のカラー版が発行されました。この本はⅠ,Ⅱと2冊ありますが累計で82万部を達成しています。岩波新書といては異例のロングセラーであり販売部数と言えるでしょう。

 

目次

Ⅰ ファン・アイク「アルノルフィニ夫妻の肖像」──徹底した写実主義

Ⅱ ボッティチェルリ「春」──神話的幻想の装飾美

Ⅲ レオナルド「聖アンナと聖母子」──天上の微笑

Ⅳ ラファエルロ「小椅子の聖母」──完璧な構成

Ⅴ デューラー「メレンコリア・Ⅰ」──光と闇の世界

Ⅵ ベラスケス「宮廷の侍女たち」──筆触の魔術

Ⅶ レンブラント「フローラ」──明暗のなかの女神

Ⅷ プーサン「サビニの女たちの掠奪」──ダイナミックな群像

Ⅸ フェルメール「絵画芸術」──象徴的室内空間

Ⅹ ワトー「シテール島の巡礼」──描かれた演劇世界

Ⅺ ゴヤ「裸体のマハ」──夢と現実の官能美

Ⅻ ドラクロワ「アルジェの女たち」──輝く色彩

XIII ターナー「国会議事堂の火災」──火と水と空気

XIV クールベ「画家のアトリエ」──社会のなかの芸術家

XV マネ「オランピア」──近代への序曲

あとがき/『カラー版 名画を見る眼』へのあとがき

 

冒頭に掲載されているのはファン・アイク「アルノルフィニ夫妻の肖像」です。下の絵ですね。

 

ファン・アイク   アルノルフィニ夫妻の肖像 1434

 

徹底した写実主義の産物ということで取り上げられています。小生からすると何となく不思議な構図と小道具の配置だと思うだけですが、ちゃんと意味があるんですなぁ。本の説明によると、シャンデリアにはろうそくが一本だけともされていて、これが結婚を現しているとか、奥の鏡にはこの状況が写し取られていて、訪問者が写っていて、それが作者のファン・アイクなんだそうです。小物の内窓際のリンゴは、要するに禁断のリンゴですな。まあ、納得です。

 

 

 ただ、この絵については注釈がついており、「その後の調査により、アルノルフィニ夫妻が結婚したのは(画中に記された1434年ではなく)1447年であったことが明らかとなった」とあり、この場面が「(結婚式ではなく)「婚約」の誓いの場であることを示すものであろう」と注記されています。なんだそうなのかと言ったところですが、琴はそれだけでは終わらないようです。

 

 それよりも、近年この絵のモデルは従来考えられていたジョヴァンニ・ディ・アリゴ・アルノルフィニではなく、その従兄弟でやはりブリュージュに住んでいたジョヴァンニ・ディ・ニコラ・アルノルフィニという別人だという説が提出されています。1434年というのは、このアルノルフィニの奥さんの一周忌に当たります。この絵では男は左手で奥さんの右手をとっていますが、左手で相手の手をつなぐのは不自然ですし、全体のどこかもの悲しい雰囲気を考えても、これは追悼の絵ではないかと考えられるのです。実際、ルネサンスの夫婦の肖像画は、伴侶との死別後に残された者が依頼することが多かった。つまり、この絵は死者のための追悼画だと考えることが優勢になっています。音楽もそうですが、美術に関しても研究が進むと新しい発見らよってそれまでの節がどんどん覆っていくようですなぁ。

 

 ただ、この本、結構著者の指向が反映されていて必ずしも作家の代表作にスポットが当てられているわけではありません。そういうところも考慮してページを捲るのもまた楽しい発見があります。

 

 この本に登場する絵画は実物を見ることはかなり大変ですが、それが大塚国際美術館では陶板という作品ではありますが、すべて鑑賞することができます。美術に興味がある人なら一度は訪れても損はしないでしょう。ぜひともこの本を手にしてお出かけください。