カール・リヒターのハイドン | geezenstacの森

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カール・リヒター

ハイドン交響曲第94,101番

 

曲目/ヨーゼフ・ハイドン

交響曲第94番ト長調 Hob.I:94 "驚愕"

1. Adagio cantabile - Vivace assai 9:05 

2. Andante 7:08

3. Menuetto: Allegro molto 5:03 

4. Finale: Allegro molto 4:05

交響曲第101番ニ長調 Hob.I:101"時計"

1. Adagio - Presto 6:41 

2. Andante 7:29 

3. Menuetto: Allegretto 5:30

4. Finale: Vivace 4:48

指揮/カール・リヒター

演奏/ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団

 

録音1961/03/17-20 イエス・キリスト教会、ベルリン

P:カール・ハインツ・シュナイダー

E:ワルター・アルフレッド・ウエットラー

 

日本ディスク・ライブラリー JC908-1(原盤DGG 138782)

 

 

 このレコードは日本ディスク・ライブラリーから発売された「不滅の交響曲全集」に含まれる一枚です。ポリドールの発売するDGG原盤のレコードは一貫して同じマスターを使用しています。このレコードはMI−2508、さらにはMG2040の刻印もあり、国内盤として発売された時のレコード番号も刻まれています。

 

 そして、これは20世紀のバッハ演奏史に偉大な足跡を遺したリヒターがベルリン・フィルを振った唯一のハイドンの交響曲録音です。30代半ばのリヒターによるきわめて正統的な解釈と現在のベルリン・フィルが失ってしまったドイツ的な響きによって素晴らしい味わいを持ったハイドン演奏を展開しています。

 

 フルオーケストラを使ったこの時代の録音としては結構早めのテンポで演奏しています。のちのベルリンフィルによるカラヤンの録音は第1楽章に9:47かけていますからそのテンポ設定がわかるでしょう。この録音はイエス・キリスト教会でありながらかなりくっきり目のオンマイクで収録されています。そのため各楽器の音が非常にクリアに捉えられています。

 

 一番びっくりしたのはやはり第2楽章でしょう。主題がPPで演奏されますが、リヒターはその後半でコントラバスをかなり強調させて弾かせています。この響きに耳をそば立てていると次には主題がティンパニを伴ったffで強奏されます。この録音では右チャンネルにティンパニが配置されていますが、このコントラバスのピチカートの後ろでティンパニが鳴りますからより効果的です。なお、愛称の『驚愕』自体に関して、英語表記では「The Surprise」と表される一方、ドイツ語表記では「Mit dem Paukenschlag」と表されます。直訳すると「ティンパニの打奏を伴った」という意味になるということて゜はまさにそれを実感させてくれる演奏と言えます。

 

 

 次の「時計」も同じようなアプローチです。演奏様式としては、序奏付きの第1楽章です。現代楽器のオーケストラを使用していますが、アプローチとしてはアクセントをしっかりと打ち出したキレのある演奏です。こちらも第2楽章は主題と4つの変奏で書かれていますから構造としては「驚愕」と一緒です。第2楽章の変奏毎に微妙に変化する繊細なニュアンスは、誠に深遠な感動を与えてくれます。ベルリン・フィルが精密機械のようにリヒターの棒に敏感に反応して行きます。第4変奏に入る前の休止に一瞬びっくりします。「時計」を聴いていて今までこんな休止があることに気が付きませんでした。今までは多分ながら的に聴いていたんでしょうなぁ。このリヒターの演奏はカラヤンの演奏と比較しながら聴いていましたが、レガート奏法でメロディラインをただ美しく演奏しているカラヤンの演奏では気がつかなかったことです。

 

 このリヒターのハイドンはこの2曲だけで、あとはDGGにはベルリンフィルとモーツァルトの交響曲第40番があるのですが、こちらはほとんど日の目を見ていませんし。そしてテレフンケンには交響曲第29番を主兵のミュンヘンと録音しているのですが、こちらも全く忘れられています。

 

 

 カール・リヒターは日本では可成り注目されていましたが、ヨーロッパではその立ち位置が微妙でした。彼の音楽家としての成長と同時に「ピリオド演奏」が台頭し、リヒターの「立ち位置」は微妙な位置付に終始しました。アルヒーフのカンタータ全集の指揮者候補から外れ(結局計画自体が頓挫しました)、オルガン全集では先輩ヴァルヒャがいたので出番がなく、チェンバロ作品はカークパトリックに白羽の矢が立つという、ある意味では不幸な一面があったと思います。このハイドンはある意味貴重で、ものの本には長岡鉄雄氏が優秀録音盤として押していたという記述もあります。たしかに、今でも通用する録音だと聴いて納得しました。是非とも一度レコードで聴いてほしい一枚です。

 

 

 

 

そして、下はレコードです。