音楽を楽しむ会 トスカニーニ | geezenstacの森

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音楽を楽しむ会

名演奏家の時間② トスカニーニ

 

 

 毎月豊明市図書館で第2土曜日デーに開催されている「音楽を楽しむ会に出かけてきました。今月は「名演奏家の時間②

としてトスカニーニが取り上げられました。1950年代から1960年代はヨーロッパはフルトヴェングラー、アメリカはトスカニーニという構図ができていました。さらに言うなら、ブルーノ・ワルターもアメリカという構図でしょうか。

 


 今回のトスカニーニもコレクションのレコードジャケットの展示がありました。写真はアメリカで発売されたLPサイズのボックスのレコードです。当時RCAは17㎝のEPレコードを推進していたのでLPで出したのは珍しいことでした。真ん中はこの4レコードの解説書と歌詞対訳なのですが、17㎝EPサイズのまま封入されているのが分かります。レコードのインナー袋もこのセットには珍しく印刷が施してあり、こちらも考えようによっては17㎝EPサイズのデザインになっています。そこには古「RCA」のトレードマークが印刷されています。これは後に廉価盤シリーズのVICTOROLAシリーズに継承されていました。そして、このレコードの特徴はLP2枚組なんですが、A面の裏はD面になっているということです。アメリカはオートチェンジャーが主流で、レコードは続けて演奏することが当たり前でした。そんなことでオートチェンジャーにセットしてA面が終わるとそのまま2枚目のレコードのB面が掛かり、。それが終わると今度はひっくり返してC面、それが終わると今度はD面が演奏されるという仕組みでした。3枚組なら先にレコード3枚をセットし、A、B、C、とかけてから全てをひっくり返してD、E、Fとかけました。ですからレコードは1枚目がAF、2枚目はBE、3枚目がCD面と録音されていました。

 

 

 

 

 

 これは公式にはRCAから発売されたことが無いというトスカニーニ唯一のステレオ録音です。このコンサートで、トスカニーニは暗譜の記憶が混濁し、指揮が止まってしまいます。そういうことでトスカニーニはこの録音を発売するのを許可しませんでした。しかし、放送局には録音が残っていますから裏ルートでこの音源は海賊盤として流出しています。

 

今回展示されたレコードについてのレジメも当日用意されていました。

 

 さて、コンサートはプログラムに沿って進行していきました。最初のニューヨークフィルとの「椿姫」前奏曲はトスカニーニがニューヨークフィルの常任を務めていた最後の年に当たります。トスカニーニの録音は戦後のNBC交響楽団とのモノがほとんどで、せんぜんのものはあまり音源化されていませんのでこれは貴重な録音です。

 

 

 フルトヴェングラーはステレオ録音を残していませんが、バックにRCAが付いていたトスカニーニは少なからずステレオ録音を残しています。下のヴェルディのレクイエムはRCAと別にスカラ座も独自にマイクを立てて同時録音をしていたことで奇跡的にマイク位置が異なる2種の録音が残されたものです。こうした偶然の結果として、この2種の音源をコンピューターで合成してステレオ録音としたものです。

 

 

 トスカニーニの演奏はインテンポで相対的に速いのが特徴ですが、次のチャイコフスキーのピアノ協奏曲もびっくりする速さでした。ピアノはトスカニーニの娘と結婚していたホロヴィッツです。センセーショナルなこの録音、通常は35分~40分かかるこの作品を30分を切って演奏しています。

 

 

 トスカニーニは結構珍しい曲も録音しているのですが、このボンキェルリの「時の踊り」初めて耳にしました。そして、音がいいのにも驚きました。こんな演奏です。

 

 

 

 トスカニーニのメンデルスゾーン「イタリア」は名盤で小生も別記事で取り上げていますから割愛します。

 

 休憩後の蓄音機コーナーではイギリスのBBC交響楽団との「絹のはしご」がかかりました。こちらはEMIの録音で、ホールも違いますから音はびっくりするほど典雅です。RCAの音はデッドで弦の響きが固いのが比較で解ります。

 

蓄音機は録音当時の1939年製コロムビアNo.212です。

 

 

 最後は映像に残るトスカニーニの演奏を楽しみました。これは当時のRCAの技術力を誇示するような内容で、調整卓や電波塔、マイクなども映り込んでいます。それにしてもトスカニーニはかくしゃくとしています。

 

 

 トスカニーニの「ローマの松」も代表曲の一つです。普通はバンダを伴う大編成の曲ですが、ここでは淡々と曲を進めています。彼の指揮は振ると面食らうというフルトヴェングラーとは違い非常にわかりやすい指揮をしています。このNBC交響楽団の編成は独自で、左奥にコントラバスが並び、ティンパニは右端に位置しているようです。

 

 

 そして、最後はワーグナーの楽劇「ワルキューレ」から「ワルキューレの騎行」の登場です。トスカニーニの映像は以前はレーザーディスク5枚分、10回のコンサートが発売されたことがあります。その中の一つがこの「ワルキューレの騎行」です。オペラの中では声楽がかぶってきますが、ここではもちろんオーケストラバージョンが演奏されています。曲の最後のコーダは指揮者によっていろいろな処理がされていますが、このトスカニーニの処理は理にかなっているような気がします。確認した中ではジョージ・セル/クリーヴランドが同様な処理をしています。ストコフスキーはちょっとやりすぎです。

 

 

 次第に指揮者としてトスカニーニは暗譜で指揮することができなくなり、引き際を悟って引退をしたという意味では、潔よいのかもしれません。フルトヴェングラーは晩年聴力を失いかけていましたから、半ば自暴自棄で肺炎で亡くなったとも言われています。自由を愛し、徹底した平和主義者であったトスカニーニがアメリカで愛される所以でしょう。

 

 個人的にはレコードを聴き始めた時はフルトヴェングラーよりはトスカニーニでした。多分彼の「新世界」が最初に聴いた曲でしょう。そして、レコード時代にベートーヴェンの交響曲全集を所有していたのもトスカニーニです。ただ、個々のレコードではフルトヴェングラーのウラニア盤の「英雄」が最初です。といってもターンナバウトから発売されたものでしたけどね。CD時代になっても全集を購入したのはトスカニーニが先でした。フルトヴェングラーを手に入れたのは随分後です。ただ、根底にはアンチフルトヴェングラー的なところがあり、レコード時代はフルヴェンの第九はついに購入しませんでした。それよりも、個人的にはメンゲルベルクの第九の方が気に入っていたからです。まあ、今は丸くなり、トスカニーニもフルトヴェングラーもどちらもいいものはいいという主義で聴いていますけどね。

 

 今回はそんな意味でもトスカニーニをまとめて多角的に聴けて良いコンサートでした。